第56話 本当の気持ちと決断


 サーニャがこの場所に来たのか?

 それは俺も分からないし予想外だった。

 シャノンとの戦いでの傷もあるだろう。

 ……それに、今までの話を全部聞いていたとなると。


「私が決めた事……?」

「そうだ! 私は、ロークと一緒に行くと前に決めたんだ!」


 確かに、サーニャはあの時に決断してくれた。

 二人で一緒に行くと言ってくれた。

 最初に来た街、セスレルからこのスリムラムに行く時。

 サーニャは覚悟を決めてくれたはず。

 相当な意志がないと俺には付いて来れないと思う。


 それでもエドワードは警告を止めない。


「この先、さらに戦いは激化していく、お前はまだ家族とかいるんだろ?」

「……でも、私にとってロークも大事な存在なんだ! 何だかよく分かんないけど、とにかく! 言葉じゃ上手く言えないけど」

「これは、俺の予想だがこれからアレースレン王国を中心に戦いが巻き起こっていく可能性がある」


 サーニャの家族がいるセスラルも狙われる可能性がある。

 だから、エドワードはサーニャには家族の側に居ろと言いたいのか。

 さらには、エドワードには心配する事がある。


「後は今まで以上に危険で辛い出来事が起こるぞ? 目の前でお前の大事な存在が死ぬ可能性もあるって事だ」

「……っ! それは、私がさせない! ロークは私が守る」

「現に今回は守れていないだろ? 逆に俺達に守られているようじゃ、この先きついぞ?」


 厳しいな、でも……確かにそうかもしれない。

 サーニャはエドワードの言葉に黙り込んでしまう。

 この先を考えたら、サーニャは連れて行かない方がいい。

 それがエドワードの意見。

 だとしても、俺には納得が出来ない部分があった。


「待て、俺は……サーニャも立派な戦士で仲間だ! だから、こいつが俺達と一緒に付いて行くと決めた以上……俺に止める権利はない」

「そうか、そう決めたんなら止めないが、もう何回も助けられないかもしれないぞ」

「それは、俺がもっと強くなればいいだけだ、最終的にあの勇者を倒せれば……」


 そう、俺がもっと強くなれば。

 今回だってエドワードが居なければ負けていた。

 仲間の力も大事だが、自分自身がもっと高いレベルにならないと。

 あの勇者には届かない。それ所か、勇者の居る場所まで辿り着けない。


 俺が、サーニャも一人で守れるように。

 どんな敵が現れても、どんな状況だろうと。


「私は、冒険者になって立派な戦士になれれば、みんなが認めてくれると思っていた……それが正解だと思っていたし、炎の剣士と呼ばれて悪い気はしなかった」

「冒険者か、あのおっさんと同じなのか」


 冒険者、俺も何もなければそうなっていた。

 ……いや、そんな事はどうでもいい。


「だけど、ロークと出会って、色々なものを見ていって本当にこのままでいいのかって思っちまったんだよ! 私だって少しだけど痛い思いはしたし、こんな思い……誰にもさせたくないと決めたんだ」


 涙声でサーニャはエドワードに訴えかける。

 自分の力の無さは自分自身が一番理解している。

 しかし、サーニャにこんな気持ちがあるなんて思わなかった。

 こいつも、こいつなりに考えているんだ。


「なるほど、これだけ言われたら俺も何も言えないな、幸いにも三人以外にも協力してくれる奴はいるみたいだしな」


 あ? エドワードは急に指を差した。

 その先には大男のガルベスがこの時計塔に来ていた。

 気配を感じなかった。足音もせずに、流石だな。

 申し訳なさそうにしながらガルベスは俺達の前に現れた。


「悪いな! すぐにお前達の話に介入する予定だったんだが……がっははは! 完全にタイミングを逃したな!」

「趣味が悪いな」

「あ、あぁ!? 今まで話を全部聞いていたのかぁ?」


 サーニャは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 振り返れば確かに恥ずかしい。

 両手を頬につけながらサーニャはその場で慌てふためていた。

 こんな時でもエドワードは冷静だ。こいつ、マジかよ。


 傷は癒えて、全員が戦えるまでになった。

 とりあえずは死なずに済んだ。

 俺は、時計塔の真ん中を見ながらこの状況に安堵していた。


「まぁ、エドワード……お前の言う事も分かるが、それは全員でカバーすればいいだけだ! それが、仲間で戦友ってもんだろ?」

「俺が言ったのはあくまで【覚悟】の問題だ……今後、守りながら戦うのも限界がある、だから全員がそれぞれの役割を全うする必要がある、それだけだ」

「はっははは! どっちでもいいか! でも、安心しろ! 俺が、お前らの事を守ってやるから……だから、若い奴はそんな余計な事を気にしなくていいんだよ!」


 ガルベス……急に現れたと思ったらそんな事言いやがって。

 でも、何だろうなこの安心感。

 今まで突き進んでばっかりだったから何も考えられなかった。

 あの村の出来事の時からは想像も出来なかった。


 初めは必死だったから。自分一人で全て何とかしようとした。

 そして、今回のサーニャのように本気で思ってくれる人がいるということ。


 エドワードだって厳しいと思うけど今後の為に言ってくれている。

 ガルベスもまだ出会って時間がそんなに経っていないのに。


 ……復讐、それは変わらない。

 最終的に俺が全て一人で背負い込めばいいだけだ。

 だから、みんなは戦いが終わったら全て元の場所に戻らないといけない。


 犠牲になるのは俺だけでいい。


「うーむ、それも気になったんだが、ロークとサーニャ……お前らは付き合っているのか?」

「……は、はぁぁぁ? わ、私とロークがど、どうしてそうなるんだよ!?」

「いやいや、話を聞いていると、そうとしか思えないなぁ? ロークはその辺はどうなんだよぉ?」


 ……なんでそうなる。

 とてもニヤニヤしながらガルベスは俺とサーニャに聞いてくる。

 さっきよりもサーニャは顔を赤らめている。沸騰しそうなぐらい体温が高いのが伝わる。

 恥ずかしがるな……確かに、こいつは可愛いけど。

 あれ? 可愛いって事は好きなのか? 好きって事なのか?


 この胸が締め付けられるけど、ドキドキする気持ち。

 あの村で感じたのと同じだ。

 今では思い出したくもないが長い時間あの三姉妹と過ごしていた。

 だから、異性に対しても何気なく接しられたのかも。


 でも、好き……なのか? 分からない。まだ、分からないのかも。

 こいつが俺の事をどう思っているのか?


「分からない、けど、悪い気はしないな」

「かぁぁぁぁ! ろ、ロークまで何言ってんだよぉ」

「い、痛いからやめろ」


 サーニャが俺の首元を掴んで揺らしてくる。

 結構強めだな、やめろ。後は何気に顔が近い。

 今までは自分の事で精一杯だったが視野が広がったのか。

 考える余裕が出来たと思う。

 だから、みんなのこの後の事を考えなければならない。


「あっははは! いいな、いいな! 青春だな! そこの白髪! お前はどう思う?」

「……これ以上はやめとけ、こういう問題は他人がどうこう言う問題じゃない、後は俺の名前はエドワードだ、しっかり覚えとけ」

「俺の事を治してくれた奴だよな? いやいや、ありがとな!」


 絡みが怠いのかエドワードは嫌な顔をしている。

 とにかく、この場は乗り切ったか。

 でも、いつかは向き合わないといけないのか。

 サーニャと……って、顔を合わせられない。やばい、凄く意識してしまう。

 俺も覚悟を決めないといけないのかもな。


 何よりもサーニャに申し訳ない。


「サーニャ、何も答えるな……今日の夜に二人だけでまたここ来て欲しい、話したい事……というか伝えたい事がある」


 小声でエドワードとガルベスに聞こえない様に伝えた。

 その時のサーニャの顔はとても驚いていた。当然だろう。

 だけど、無言で頷いてくれた。

 よし、俺も……この街を出る前に踏ん切りをつけておかないとな。


 サーニャ、俺の気持ちは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る