第46話 共闘と力の差


「どういう事だ……? まさか、お前も」

「いや、これは予想外だった……それにしても危なかったな」


 氷の防御。俺とエドワードを守っている。

 固くこの程度の爆発ならビクともしないだろう。

 冷気を感じながら、俺は氷の向こうで笑っている女を見る。

 それは、俺の中で最も憎しみが溢れている女。

 そう、シャノンが目の前にいる。

 熱い何かが飛び散って来る。いや、無限に湧いてくる。


「久しぶり……ローク」

「……っ! あぁぁぁぁ!」

「落ち着け、どちらにしろ、この氷の中では動けない」


 肩を叩かれて俺は冷静になる。

 この氷の盾はエドワードが支配している。

 多量の魔力が込められており、並大抵の攻撃では壊せない。

 これがなければ俺はどうなっていただろうな? 死んでいた……という可能性もある。

 エドワードには感謝しよう。だけど、目の前に復讐相手がいて黙ってられる程……。


「相変わらず、間抜けな顔をしているのね」

「ぐぉぉぉぉ! てめぇ! 許さねえぞ! 信じていたのに……お前らのおかげで」

「……こんな都市の真ん中で爆発を起こして大丈夫なのですか?」


 怒りは際限なく感じる。ただ、エドワードの質問と氷の冷気で落ち着く。

 そして、シャノンは片目を閉じながら。


「別に私は何をやっても……許されるのよ? 周りに避難の指示は出しているし、何よりも後で状況を聞かれても……どちらの言い分を信じるかしら?」

「なるほど、ただ」


 ……! 俺が気が付いた時には。俺とエドワードを守る氷は一瞬で溶ける。

 そして、新たな攻撃を足元に仕掛けていた。

 凄いな、会話の途中にシャノンの足元に氷が発生している。

 それは瞬く間にシャノンの動きを拘束する。


「上手い状況を作らせない! もうあんたの思い通りにはさせませんよ!」

「……色々と教えてあげたのに逆らうつもり?」

「それは感謝してますよ……ただ、師を越えるのが生徒としての務めでしょ」

「ふぅ、それは別にどうでもいいかな? 自分が強くなれれば……それでいいと思うの」


 これが魔術師の力だとしたら。今の俺ではシャノンに勝つことは不可能。

 偶然の出会いだったけど、エドワードと一緒に行動して正解だったか。

 俺も、剣を取り出し応戦する。幸いにもシャノンは静止している。

 しかし、こいつの力は前よりも遥かに……。


「だから、二人で私に勝とうなんて考えない方がいいと思うわよ?」

「……ぐぉ」

「……気を付けろ、あっちも魔術を……使ってきた」


 体が縛られる。これはあの時使われた魔術。

【パラライズ】という強力な拘束魔術。

 急に体が縛り付けられるような感覚に陥る。

 ……変わっていないか。シャノンはこうやって少しずつ相手を追い詰めていく。

 どうやらエドワードもシャノンの魔術の影響を受けているようだ。

 微動だにせずに、俺もエドワードも動きが封じられる。


「天職として選ばれ、王国を守るべき者」

「それがどうかしたんですか?」

「期待に応えて、偉大なる勇者と運命を共にした……ふふ、強大な力を持っていると知っていて、まだ歯向かうのは……愚かなものよ?」

「……そう、かもしれませんね」


 一歩ずつシャノンは近付いて来る。

 あの時は衝撃と動揺で上手く力を発揮が出来なかった。

 だけど、今の俺は違う。

 ガルベスとの修行の効果がもうあらわれているのか?

 追撃を察知して俺は片腕を動かす。


「……っ! 拘束していたはずなのに……どういうこと?」


 縛られた鎖を引きちぎるように。俺は、体内に残っている微かな魔力。

 それを魔術剣に流し込む。シャノンのパラライズによる効果が相殺される。

 自由になった俺は、シャノンとの距離を詰める。

 そして、間髪入れずに目を瞑る。


「剣技……【螺旋斬り】!」


 ここだ! と攻撃の機会を伺いながら。

 俺は一気に勝負を決めようとする。

 その時のシャノンの驚き顔は忘れない。

 やっと少しはこいつに追い付いた。

 昔から何をやってもニーナにも、シャノンにも、フローレンにも敵わなかった。

 こいつらに勝ってるとしたら……。絶対に諦めない根性と精神力ぐらいか?


「剣技……へぇ、そこまで成長したんだ」


 今更何を言っても無駄だ! お前はここで……ん?

 シャノンの動揺している姿を見てから。今度は俺が動揺してしまう。

 何故なら、剣が片腕で止められているから。

 渾身の攻撃も全く意味がなかった。

 手をプルプルと震わせながら、俺は歯を食いしばる。驚きより悔しさを先に感じてしまう。

 そして、シャノンは俺に顔を近付けながら。


「けど、ロークより私の方がもっと成長してるのよ?」

「ぐぅぅぅ!」

「無駄よ……魔力で腕を強化してるのだから、これぐらいの攻撃じゃ……私に傷一つつけることすら出来ないわ」

「し、シャノン!」

「うるさいな……本当に全然変わってないわね!」


 傍から見たら家族同士の喧嘩を見ているようだ。

 だが、俺にとってはとても重要な戦いなのに変わりはない。

 すると、シャノンは俺の胸ぐらを掴んでくる。

 どういうことだ……こ、こいつ! 魔術師の癖に……筋力が発達し過ぎだろう。

 体を持ち上げられ、呼吸が苦しくなる。有り得ない光景だ。

 体格差のある男女だと思う。それなのに、俺がシャノンに……負けている。

 信じたくない現実。だが、背後から声が聞こえ、シャノンの体は吹き飛ばされる。


「……俺がいる事を忘れて貰っては困る」

「はぁはぁ、え、エドワード」

「大丈夫か? ほら」

「あ、あぁ、悪い」


 エドワードから手を差し出される。俺はお礼を言いながらその手を受け取る。

 立ち上がりながら、シャノンの行方を目で追う。

 付近の建物の外壁まで飛ばされる。エドワードが魔術を使用して起こしたもの。

 物凄い威力だな。やっぱり魔術師は魔術師同士でなければいけないのか?

 しかしまだ手はある。魔術剣の本領も発揮が出来ていない。


 俺は、再び剣を握り締める。剣技を使用したがまだまだ余力はある。

 しかし、瓦礫を吹き飛ばして登場したシャノン。


「痛い……はぁ、まさか教え子にこんな仕打ちを受ける何て……私って可哀想じゃない?」

「血が出てますよ、シャノン先生と呼んだ方がいいですかね?」

「あぁ、気にしないで! これからもっと流してあげるから!」


 やばい目をしている。額に少量の血が流れている。

 攻撃を受けて本気になったのか。シャノンは瞳孔を開かせながら唇を舌で舐める。一瞬だけゾワッとする。これが、あのシャノンなのか?

 いや、腹黒いのは村に居た時から……知っている所がある。

 だけど、異性が絡む事はなかった。だから、そこまで露呈する事はなかった。だが、外の世界を知って、様々な人間と絡んでいく。


 それが、この目の前の……。


「久しぶりの感覚……どうやって苦しませてあげようかしら」

「ローク……これがこの人の本性なのか?」

「あぁ、でもそれは関係ない! どちらにしても、俺がこいつを殺す!」

「……とりあえずはこの場を何とかしないと駄目そうだな」


 俺は再び集中力を高めていく。

 だが、シャノンの威圧はそれ以上だった。

 エドワードと二人の力をあわせても勝てる保証はない。

 しかし、やらなきゃ駄目だ。煙と炎が立ち込める中。

 剣を後ろに引きながら、一気に走りだす。


「無策ね……何もない状態で突っ込んで来るのね」


 何も答えない。ただ、突っ走るだけだ。

 だが、シャノンは冷静に俺の前に手を出す。


「華麗に散りなさい! 魔術……【雷球(サンダーボール)】」


 雷の球体が何発か迫る。

 触れたらただでは済まない。俺は、軽く飛び上がり剣技を発動させる。

 体力と気力を振り絞る。これで防げなかったらそれまでだ。


「剣技! 【風車(かぜぐるま)】」


 何回転もしながら雷球を弾き飛ばす。

 多少の電撃の痺れは感じた。

 しかし、そんな事を気にせず俺はシャノンに斬りかかる。


「シャノン! この野郎!」

「……っ!」

「悪いが、あんたはここで死んで貰う! もう少し話はしたかったが」


 エドワードは再び足場に氷を発生させている。

 とてもいいサポートだった。先程よりも強く、量も多い。

 これなら……いける!

 俺は風車を解除した状態した勢いを利用しながら。

 一気に空中から降下しながらシャノンに攻撃を与えた。


 ――その瞬間。シャノンの体が吹き飛んだ。多量の血と共に。

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