第47話 絶望の黒の雷
「……嘘だろ!?」
全力の剣技が防がれる。
体の強化の他に薄い魔力の壁を発生させていた。
これは察知が出来なかった。
初めからこいつは俺が攻撃するのを予測していた。
そう、復讐心を逆に利用されたのだ。
魔術剣を簡単に対策……しているのか?
ガルベスの話ではこの剣は魔術に有効なはずだった。
だけど、この魔力の壁は破れない。
このままでは反撃されてしまう。頭では分かっているが体が反応出来ない。先程のパラライズの影響があるのか。
畜生……鈍いな! シャノンは次の魔術を唱えようとしている。
不味い! 何とか体を動かそうと努力はする。
しかし動かない。仕方がない、あまり使いたくはないけど。
もう一つの力。そう、風に変わるあの力。
「魔術……【氷昌盾(クリスタルシールド)】」
「あーあーもう少しだったのに」
「え、エドワード」
「何の力か知らないが、今のお前の目……やばかったぞ」
あの闇の力を使用しようとした直後。
エドワードが救ってくれた。
シャノンと俺の間に氷の盾が作られる。
分厚く耐久性のあるその盾。シャノンの雷魔術はそこに吸い込まれる。
威力がなくなり、シャノンの攻撃は消滅する。
俺は体を回転させながら、すぐに距離を取る。
危なかった。それにしても隙が無い。いや、隙を作らせて攻撃させている。つまりは、カウンターを狙っているという事か。
頬の汚れを手で拭いながら。俺は、静かに立ち上がる。
単純な力勝負では敵わない。
魔術師と剣士というだけでも不利なのに。
天職を相手にしたら勝ち目は……。
「けど、二人共ここで始末してあげ……」
「偉く建物が壊れていると思ったら……こういう事だったのか」
この声……俺には聞き覚えがあった。
大剣を振り下ろしながら、豪快に登場する大男。
石の地面を粉砕するが、シャノンには回避される。
攻撃による風圧が俺達にまで届く。何て威力だ。
「また味方? ローク! よかったねぇ……お仲間がたくさんいて」
「ガルベスか」
「遅れて悪かったな……それでこういう時に何て言えばいいんだ?」
「ふざけてるのかしら?」
シャノンは空中から再び魔術を使用しようとしている。
瞬時の切り替えの速さ。そして、的確な判断力。
どれをとっても一級品。しかし、ガルベスの目線は横にあった。
いち早く俺は気が付く。ガルベスの名前を叫ぼうとした瞬間。
「ふざけてるのはそっちだろ!」
「……まだいたのね」
さ、サーニャまで! 剣技を連続で使用した為。
俺は片腕を抑えて見守る事しか出来ない。
だが、駆け付けたガルベスとサーニャによって何とか救われる。
サーニャは炎を身に纏いながらシャノンに迫る。
お互い地面に着地して、それぞれの攻撃がぶつかり合う。
「はぁぁぁ!」
「……この女、うざいわね」
「にししし! それは誉め言葉って事でいいよね?」
「サーニャ、お前は援護に徹しろ! こいつは、並大抵の相手ではない」
「分かってるって! ロークの事を考えたら……容赦はしないから!」
さ、サーニャ……。それにガルベスも。
剣士二人でシャノンを上手く挟んでいく。
挟み撃ちで逃げ場をなくしていく。
これではシャノンと言えども魔術を使う暇はない。
「貰ったぁ!」
「……ち」
「その調子だ! 攻撃が出来るときは積極的にしろ」
「ほいほーい! 剣が一本だと思ったら……大間違いだよ」
そうか、あいつは二刀流だったか。
片方の剣がシャノンに回避された後。
すかさず持ち替えてもう一本の剣で攻撃したのか。
直前まで隠しながら戦い続けたのはこれが理由か。
器用な奴だ……いや、あいつも成長しているのだろう。
「俺だって……負けてられねぇ!」
踏ん張りながらも気合いで立ち上がる。
痛みと苦しみを耐えながら。
俺は剣を持ち直してシャノンの方を見る。
そこには、頬を剣で斬られて全く動かないシャノンの姿があった。
ガルベス、サーニャがゆっくりと迫って行く。
諦めたのか? もう少しで本当に終わってしまうのに。
考えろ。あいつ(シャノン)がそう簡単に終わるはずがない。
村に居た時。最後に逆転をされた。
あの時は……そう、絶対に追い詰めたと思ったのに。
負けた。シャノンは何かを考えている。
それも恐ろしい……事を。
「あは……あっははははははははははは! きゃははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
「な、なんだ……」
「お、おい! こいつ狂ったのか?」
いや、傷を受けた衝撃なのか。
本気になったシャノンは止められない。
この点はニーナと同じである。
凶変したシャノンは両手を天にあげる。
これがどういう意味なのか。俺とエドワードが理解するのに時間はかからなかった。
「魔力が集中してる……まずいぞ!」
「やばいのか?」
「あぁ、今までのとは違う! おい! 二人共離れろ! このままじゃ……」
エドワードの叫び声は俺も含めて。サーニャとガルベスも反応する。
冷静なエドワードがこれだけ取り乱している。
俺はシャノンの顔を見ながら攻撃に備える。
だが、備えるという攻撃範囲と威力ではなかった。
血を流しながらシャノンは魔術を唱えた。
「天術……【黒雷宴(くろのうたげ)】」
空が急に曇る。今まで快晴だったのに。
これはシャノンが意図的に変化させたもの。
分かる。これから起こるのは……地獄。
黒の宴……名前からして物騒だ。
だが、その威力と範囲は想像以上のものだった。
「な、なんだ!?」
「く、黒い雷……こんなの見た事が」
「離れろ! こいつもこの魔術も……ぐぁ!」
次の瞬間。エドワードの体が硬直する。
驚くよりも先に俺の体もピリピリとしている事が分かった。
黒の電流。それがエドワードを襲っているようだ。
体が動かなくなり、その場に崩れ落ちる。
何が起こったのか。それを理解するのには時間がかからなかった。
「全員……ここで死ねばいいのよ」
「おい! 何がどうなったんだ!」
「……逃げろ」
「返事が出来るのか?」
あれだけの攻撃を受けて生きている。
だが、服が破れて火傷の後が目立つ。
これだけ見ても致命傷なのは分かる。
それに急変したこの空。黒い雲が目立つ。
エドワードはヨロヨロと立ち上がる。
「あぁ、だが予想以上にこいつはやばい」
「この空はどうなっている?」
「……この魔力の量は異常だ、この攻撃は恐らく」
体を抑えながらエドワードはシャノンを睨み付けている。
俺も、警戒を怠らずシャノンから目を離さない。
狂気的だな。あまり意識しなかったが、こいつも狂っている。
丁度いい。これで情けをかけなくてもいい。
残虐に殺して、絶対に後悔させてやる。
こいつらが俺に……。
「残念だけど逃がさないわ! 全員ここで殺して……ううん、少しずつ痛めつけて殺してあげる!」
「気を付けろ! 次の攻撃が来るぞ!」
上空からの黒の落雷。
必死のエドワードの叫びも虚しい。
黒雷宴は俺達を狙うものではない。
正確には無差別に攻撃を仕掛けるもの。俺はエドワードを抱えて攻撃を避ける。
「おわ!」
「サーニャ、上空からの攻撃に気を付けろ!」
「うっへ……何なんだよ」
地面に寝転びながら俺は状況を見極める。
そこには地獄の光景が広がっていた。
「な……これって」
建物が落雷によって破壊されている。
聞こえてくる悲鳴。そして、爆発音。
そう、シャノンはもう無差別に攻撃をしていた。
標的というのは関係ない。もう、シャノンの頭の中には破壊する。
その衝動が膨れ上がっている。
もうこうなったら止められない。
俺は、エドワードを体で支えながら。
「シャノン……くそ!」
「お、おい! ローク! 何処に行くんだよ!」
「エドワードを頼む! 俺は絶対にあいつを殺す!」
「サーニャ、あの魔術師を手当てしろ」
「で、でも!」
「どちらにせよ……誰かがあの金髪を止めないと俺達もやられる……それぐらいに強力な奴だという事だ」
俺は向かって行く。
剣を取り出し、シャノンに向かって。
全ての怒りをあいつにぶつける為に。
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