第45話 別の勇者と爆発
ガルベスとの修行が終わった後。
俺はこの氷結の魔術師と都市を散策していた。
エドワードという男。第一印象は……考えてもよく分からない。
白髪に隠れ気味の瞳。見ているだけで恐怖を覚える。
ただ、こいつは勇者を恨んでいるという事。
そして、俺と同様にシャノンを倒したいという事。
「いきなりで悪かったな」
「いや、別に」
「……ローク、だったか? 噂は聞いている」
俺の体は少し震える。ガルベスとサーニャは今はいない。
どうやらエドワードが二人で話をしたい。
それが望みだったようで、俺達は都市を散策した後。
現在は誰もいない図書室で話している。
危険な場所という訳でもないか。少しは警戒しているけど。
お互いの距離感が掴めない中。俺は、エドワードに素直に聞く。
「噂を聞いているんだったら……尚更、俺と絡む必要があるか?」
「いや、必要はある」
「はっきりと言うな……知っての通り、俺はこの世界の敵として認識されている」
「あぁ、知っている! だから、こうやって接触してるんだ」
「……? よく分からないな」
なんだこいつ。話の流れが掴めない。
しかし、エドワードという男。それは氷結の魔術師と言われている。
そして、かなりの戦闘能力がある。敵に回したら厄介な相手。
今の所は好意的。しかしいつ寝返るか分からない。
俺は警戒心を常に持ちながら。
エドワードと対面する。
しかし、少し間を取りながら。エドワードは話している。
何かを考えているのか?
「さっきも言ったが俺と協力して欲しい……俺も恐らくだけどあんたと同じだ」
「……俺と同じ?」
「あぁ、あの女、シャノンに個人的な恨みがある」
「恨みって、それはどういったものなんだ?」
エドワードの表情が少し曇る。
しかしすぐに元の冷静なものとなる。
こいつの話を聞くと内容は悲惨的なものだった。
嘘か本当か。いや、それよりも今は……。
シャノン、お前……どこまで。
いや、今はあいつを恨むよりも、状況を把握しないと。
俺はエドワードからさらに情報を聞き出したい。
そもそも勇者の秘密を聞ける。それで付いて来た。
だが、エドワードは俺の事をさらに詮索してくる。
「お前はどうなんだ?」
「……俺か? 俺は別に」
「いや、是非聞いておきたい」
「別にそんなに面白くない……聞けば悲しくなって胸が痛くなるだけだ」
しかしエドワードは一歩も引かない。本当に何なんだこいつ……。
面白くない、胸が痛くなるだけだと忠告しようとも。
この白髪は俺の内情を聞きたいようだ。何が目的だ? やっぱりこいつも敵なのか?
アレースレン王国からのスパイの可能性もある。
駄目だ、考えれば考える程に疑いの念は晴れなくなる。
だが、エドワードは次の瞬間。
「それは礼儀みたいなものだ!」
「……はい?」
するとエドワードはピシッと指を差しながら。
俺の方に高らかに声を張り上げながら宣言する。
どうやら、自分だけが言って俺が言わなかった。
それがとても嫌だったようだ。
本気で読めない奴だ。だけど、確かにそれは分かる。
軽く俺は気が乗らなかったが話す。
全てを話し終えた時。エドワードは椅子に座って一言。
「それは、大変だったな」
「あぁ、だから俺は……シャノンをどうにかしたい」
「俺とは違った苦しみが伝わってくる、そうか……だが、引っ掛かる事が多々あるな」
この男エドワード。まだ出会ったばかりで謎が多い。
しかし、この考察と洞察力。俺は驚かされる。
「天職が三人同時に儀式でなるというのも確立的におかしなものだ」
「……何が言いたい?」
「俺もこの世界の事はあまり知らない、だが疑問に思う所はたくさんあるな」
「疑問?」
「あぁ、同じ村にしかも天職が三人同時は出来過ぎていると思わないか?」
今まであまり気にしなかった。だが、エドワードには妙な自信があった。
さらにエドワードは話を進めていく。
それはこのアレースレン王国についてだった。
「俺も何度か王国には行った事はある……そこで勇者のトウヤの食事もした」
「な、なに!? それは本当か?」
「とは言ってもその時はお前の言う三姉妹はいなかったけどな……問題は話した内容だ」
氷の魔術師としてエドワードは王国に招聘された。
だが、滞在しただけで断った事はある。
そうか、こいつもシャノン達と同じように誘われたのか。
それも、王国の中で勇者から直々に。余程、人材として欲しかったんだな。
断りにくい雰囲気の中でも、エドワードはきっぱりと拒否した。
「王国に招聘して手厚い保証は受けられる……さらには、今後の自分の力も伸ばせるから好都合だろう」
「じゃあ、何であいつからの提案を断った?」
「……家族も王国に招聘して欲しいと頼んだら、断られたからな! だから、俺は……」
「分かった、もうそれ以上はいい」
話したくない気持ち。大体の状況は理解した。
こいつにとって家族が一番の存在。
自分の成長と今後を考えたら、勇者に付いて行った方がいいだろうな。
胸が苦しくなる。俺も似たような状況だったのか?
歯向かわなかったら、俺も今頃は別の人生を歩んでいたのかもしれない。
だが、こいつは強い。負けずに取り返そうとしている。
奪われた家族の心。そして真相を解明しようとしている。
芯の強さを感じた。出会ったばかりだけど。
エドワードは落ち着いた後。勇者と話した内容を俺に伝えてくれる。
「いや、別に大丈夫だ! それであの勇者は言っていたんだが、もしかすると……勇者をお前を徹底的に潰したいようだな」
「……俺か、でもその気になれば潰せるだろ? ここまで来るのに何度も殺されかけたぞ」
「あぁ、だがその食事の時……偉く、ロークという名前を出していたからな」
それは意外だった。あいつの口から俺の名前が出ていた。
かなりの頻度で、内容も具体的なものだったらしい。
トウヤから見れば俺なんてゴミのような存在。
それなのに、俺を凄い意識しているのは何故なのか?
エドワードは聞いた話と個人的な見解を述べていく。
「勇者の伝説と何か関係していると俺は思ったんだが」
「……勇者の伝説?」
「あぁ、図書室に来たのもそれが理由でもある」
「一度本で読んだことある……確か、勇者が争いを鎮めて世界を平和に導いた……だろ?」
「そうだな、ただ怪しい所は多々あった」
エドワードが言う指摘。
それは勇者の言っている事が抽象的過ぎるという事。
何かを隠しているような言動、素振り。
勇者が侮っていたとは思わない。
だが、それを超える観察力と精神力。勇者を前にしても怯まない度胸。
本物に近い。やはり、氷結の魔術師は天職に近い存在。
能力だけじゃない。その他も能力もかなり高い。
俺はエドワードから受け取った本。それはこの都市の図書室の伝記。
そう、勇者の歴史と秘密。これは、俺も何度か読んだものだった。
だが、エドワードは指を差しながら指摘する。
「ここに【勇者が人々の争いを鎮めて、世界を平和にもたらした】だけど、前後が突発的過ぎる……何か、この本自体が改竄されているかのように」
「……まさか、それが本当だとしたら」
「それに、勇者の悪い事や失敗が全く書かれていないのも気になる……現に他の伝記には多少は書かれているのに、おかしいと思わないか?」
「……それで、何が言いたい?」
言われてみればというぐらい。
気にしなかったというよりは、そこまでは読み込まなかった。
ただ、エドワードは何度も調べる内にある結論に辿り着いた。
それは、別の勇者の存在。
「もしかすると、勇者は……また別にいるのかもしれないな」
「別に? それって」
その時だった。この場が急に爆発する。
俺とエドワードは爆風に巻き込まれてしまう。
「久しぶりね……ローク? 残念だけどそれ以上は……知られる訳にはいかないわね」
そこにいたのは、最も恨む存在。
そう、シャノンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます