第44話 魔術剣と出会い


 ガルベスと再会してから一日後。

 俺とガルベスはスリムラムの広場にいた。

 しかしパレードを行った場所ではない。

 周りにバレないような隠れた箇所である。

 朝早くから、俺とガルベスは剣を装備していた。


「……よく起きたな」

「あんたに起こされたからな」

「乱暴で済まなかったな、しかし、いい朝だと……お前もそう思わないか?」


 うーん掴めない。こいつは何者なのか? 何で俺に協力してくれるのか?

 色々と疑問はあるが、ここまで来てくれた事は確かだ。

 少しは気を許してみても……いいのか?

 俺は剣をギュッと握り締める。不信感があるのか。手汗が凄い。

 体格のいい大男が目の前に立っている。

 それだけで威圧感が半端ではない。

 ただ、実際は……。


「うーむ、上手く口で言えないな……やはり言葉の勉強した方がいいか?」

「いや、別にそれは気にし過ぎだ」

「紅の旅団でも俺は言われるんだ……お前は口下手だからよく分からないって……なぁ? 本当にそう思うか?」


 あぁ、面倒だな。不安げにガルベスは聞いてくる。

 中々本題に入らない。思ってたのと人物像が違う。

 もっと融通が聞かない。いや、頭が固い奴だと思っていた。

 だが、思ってた以上に親しみ深い人物なのかも。

 いや、簡単には信用が出来ない。してはいけない。

 紅の旅団……か。冒険者達の中では有名らしい。

 このガルベス自身もAランクの実力者。まぁ、今の俺よりは強いと思う。


 適当に話を合わせながら。俺はガルベスとの修行の内容を聞く。


「そうだな、簡単に言えば……【魔術】に対抗する為のものだ」

「魔術に対抗……それって魔術を学ぶって事か?」

「いや、そんな事はしない、悪いが俺は魔術は知らないからな」


 自信満々にそう言うなよ。

 ガルベスは腕組みをしながら真剣な表情だった。

 発言した内容は頼りないものだったけど。

 剣士としての実力は確か。だが、魔術の知識もなく、扱えない。

 それでどうするのか? だが、ガルベスは一本の剣を取り出す。


 ……何だこの青い剣? 長剣で青く光り輝いている。

 朝の日差しに照れされながら。その剣は光を止むことはない。

 見た事がない。この剣はどういったものなのか。

 すると、ガルベスは俺の前に放り投げる。


「ほら」

「おわっと!」

「これは、【魔術剣】その名の通り……魔術師を殺す為に作られた剣」


 慌てて受け止める。聞くととても恐ろしいものだった。

 遥か昔に魔術師を止める為に作られた剣と言われている。

 それ程に魔術師は厄介で強大な存在。

 先天的なもので決まってしまうのは事実。だから、普通に戦っても勝てない。


「この剣は昔に俺が手に入れた剣……まぁ、もう使用してないからいいけどな」

「でも、これだけで勝てるとは」

「あぁ、もちろんだ! 魔術師と剣士自体があまり相性は良くない……ただ、この剣は、【斬った魔術を無効】に出来る代物だ」


 それは凄いな。ガルベスが説明する。

 つまりは、剣技と上手く組み合わせれば最強と言う訳だ。

 この剣を持っている限りは、自身の体にも効果があらわれる。

 薄い魔術の防御にもなるという。なるほど、魔術剣だけでもかなりの戦力。

 敵が多くても、この魔術剣だけでこの都市の魔術師。

 それをかなり殲滅出来そうだ。もちろん、やっぱりこれだけでは……。


「斬る以外にも剣で防御すれば、ある程度のものは防げる」

「大雑把だな」

「あぁ、俺もこの剣を使うのも、取り出すのも久しぶりだからな! 実は埃が被っていてどうしようもなかった」

「……そんな剣で大丈夫なのかよ」

「安心しろ! その証拠として……」


 おわ! 急に何なんだよ。

 するとガルベスは目を瞑り集中力を高めてきた。

 急に剣技を使用する気かよ。

 重い一撃を俺に使用してくるガルベス。だが、普通の剣技とは違うものだった。


「天技……【翔派劇(しょうはげき)】」

「……!?」


 天技と呼ばれる剣技を超えると言われるもの。

 本で見た事はあるが、まさかガルベスが使えるとは。

 いや、Aランクの冒険者だから当たり前なのか。

 それよりも、この天技はかなり……本気だぞ!

 翔派劇は空気を切り裂き、こちらに向かってくる。

 全力過ぎて困惑してしまう。だが、この剣ならば……いけるのか?


「一か八か!」


 俺は剣でガルベスの天技をタイミングよく合わせる。

 ぐぉぉぉぉ! 何て威力だ。

 気を抜いたら押し負けてしまう。必死に剣を天技に負けない様に力を加える。

 この天技は俺が使う風の剣技と似ている。でも、威力も範囲も桁違い。

 手が痺れる。このままでは持っている剣が弾き飛ばされる。


「……剣技! 【竜巻旋風】」

「ほぉ、やるじゃないか」


 本当にギリギリだった。極限の状態だったから上手く剣技を使えたか?

 竜巻旋風でガルベスの天技を相殺する。

 俺は膝から地面に崩れ落ちる。ただ、今の俺ではこれで限界だ。

 対してガルベスは汗一つ目立っていない。冷静に俺を分析する。


「これが魔術剣の力だ、身をもって理解しただろ?」

「……酷いな、下手したら死んでいたぞ」

「どちらにせよ、お前はもう……えっと、まぁいい! とにかく、強いだろ?」


 またガルベスの口下手が発動する。説明するより体で覚えろってか。

 まぁ、その方が確かに……いいかもな。

 ガルベスの場合はそれが出来ないって言った方が正しいけどな。


 今回、ガルベスは天技に魔力を込めて発動したらしい。

 だから、魔術剣で相殺が出来て上手く威力を吸収が出来た。

 ……器用な事をするんだな。この修行の為にやったと思うんだが。

 とにかくこの剣の力は確認出来たと思う。

 俺は静かに立ち上がり、ガルベスと対面する。


「あいつに勝つんだったら……これぐらいは防がないとな」

「やっぱり知っているのか」

「言っただろ? ソルトとあの口の悪い元冒険者から頼まれているからな……」

「しかし、知ってて俺に協力する事がよく分からない! あんたも旅団の人達も危険になるぞ」

「それは別に大した問題じゃない! 冒険者自体が危険な職業……覚悟の上だ! それに」


 金を積まれて頼まれても有り得ない話だ。

 そして、ガルベスは真っ直ぐな瞳で。


「紅の旅団は強い! 俺達が負けるはずがないからな!」

「……そうだといいけどな」

「あ、信じてねえな? まぁいい、頼まれたから俺はお前を守る! 例え、周りが敵になろうとも……それが、信頼の証となる訳だからな」


 背中は大きく見える。これが、上の冒険者か。

 嘘で言っているようには……思いたくない。

 だけど少しは信じてみないと何も進まない。

 そして、気になるのはガルベスの目的と動機。


「とは言っても、目的と動機が不明だとお前も不安だろ?」

「まぁな、そもそもよく考えたらやっぱりリスクが高過ぎる」

「……上手く言えるか分からんが、俺はある調査も頼まれている」

「調査? この都市に何かあるって事か?」

「あぁ、簡単に言えば……【勇者の真実】について、隠された力、歴史、それが偽っている可能性もある」


 ……本気か? 勇者と聞いて胸の高まりが凄くなる。

 ガルベスはこの都市に俺の状態の確認。そして、強化。

 同時に調査も個人的な目的にあると言っている。

 だが、全て推測の話。証拠もなければ、辻褄も合わせられない。

 情報は本で見た勇者の歴史だけ。これで何が分かると言うのか。


「俺は、勇者が嫌いだ」

「……はっきりと言うな」

「あぁ、全く面白くも良い奴とも思えない、実際に……今のアレースレン王国は腐っているからな」

「やっぱりそう思うのか」

「じゃなかったらここには……ちょっと待て」


 いち早くガルベスが気付く。同時に俺も異変を察知する。

 この場に冷気が発生する。この暖かい時期に。

 俺は警戒して攻撃に備える。今の話が聞かれたか? やっぱり下手な事は言えないな。

 幸いガルベスもいる。戦って負けることは……ん?


「あんたら、今の話……詳しく聞いてもいいか?」

「あ、お前は」

「知っていたか? パレードで無駄に目立ってしまったからな……」


 白髪に目付きの鋭い人物。こいつは氷結の魔術師と言われているエドワードだった。

 敵か味方か? だが対応的には若干だが好意的である。

 そして、氷結の魔術師は俺達に手を差し伸べてくる。


「あんたらの知りたい事……それで俺も協力して欲しい事がある! だから、これは等価交換だ」

「それはどういう意味だ?」

「そうだな、勇者の秘密とシャノンを叩き潰す事だ」


 このエドワードとの突然の出会い。

 それが俺の目的達成と真実に一気に近付く事になる。

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