第52話 救いと決着をつける為に


「……間に合わなかったか」


 俺とエドワードが聞いた衝撃音。

 その場所に来てみると見たくない。信じたくない現実がそこにはあった。

 ガルベスが倒れており、まずはそれに驚きを隠せなかった。

 まさかこの人が……いや、まずは悩んでいるよりも。


「サーニャ! サーニャ!」


 胸部を抉られて倒れているサーニャ。

 地面は血塗れで独特の異臭を放っている。

 俺は何度もサーニャを呼びかけるが返答はない。


「なんでだよ……なんで」


 俺は泣きながらまだ助かると信じていた。

 だけど、この出血量と俺達がこの場所に来た時間。

 恐らくだけど結構な時間が経っている。

 ……これが復讐の代償なのか? だとしたら……俺は。


「まだ息はある、諦めるな!」

「……エドワード」


 すると、エドワードが俺の方を頷きながら駆け寄って来る。

 ガルベスさんは重傷だがすぐにエドワードが回復魔術と応急処置で対応した。

 生きている。まだ、助かる。俺はサーニャの手を握りながら泣き崩れた。

 隣でエドワードは俺の肩に手を置いてくる。


「安心しろ、俺が救ってやる」

「……すまん」

「謝るのは二人が助かった後だ」


 その言葉に俺は少しだが平常心を取り戻す。

 それからエドワードは必死にサーニャを看病した。

 幸いにもサーニャの傷は致命傷を避けていた。


「……妙だな」

「た、助かるのか!?」

「あぁ、二人は助かる……悲惨な状態だったが何とかなりそうだ」

「うぅ、よかった、本当に」


 サーニャの手を握りながら俺はホッとする。

 その手は冷たくなっていた。でも、それも少しの辛抱。

 目が覚めたら温かいスープでも飲ませてやりたい。

 自分のせいで二人が死んでいたら、俺はどうなっていただろ?


「とにかく二人を安全な場所に運ぼう、ここじゃ危険だ」

「運ぶ? でも、こんな状況じゃ」

「俺が色々と研究している部屋がある、そこなら安全だろう」


 研究? とにかく今は従った方が良さそうだ。

 俺達は二人を運んでエドワードの言う研究施設に運ぶ。

 すぐに救ってやるからな。サーニャ。

 この時は復讐よりもサーニャの無事を祈っていた。










 サーニャ達が倒れていた場所から少し離れた路地裏。

 そこに秘密の地下通路が存在していた。

 慣れた手つきでエドワードは扉を開けて階段を降りていく。

 俺もサーニャを抱えながらそこに向かって行く。


 着くなり病室に案内されてサーニャとガルベスをそこに寝かす。

 包帯と薬を持ってきてエドワードは手当をしながら。


「この場所は俺がこの街に来てから見つけた場所だ」


 薄暗く、蝋燭の灯りだけが頼り。

 俺は近くにあった椅子に座って話を聞く。


「親父が不倫して、母親が鬱になって、もう寝たきりの状態……になって」

「……その原因がシャノンだった」

「あぁ、それでここに母親も寝ていて、妹も別の部屋に引き籠っている」


 そうだったのか。聞いているだけで胸が痛くなる。

 父親の不倫。家庭内暴力によって再起不能な母親と妹。

 エドワードは治療を終えて俺と対面する。

 重い腰で椅子に座って、俺と向き合う。


「少し考えてみた、この世界について、シャノン……先生がどうしてああなったのか」

「あいつが言っていた事か?」


【もう少しでこの世界はどうなっちゃうのかしら?】


 この発言がどうにも頭から離れない。

 もしかすると、このまま何もなくてもこの世界は崩壊する。

 エドワードは最近の世間の動きに注目していた。


「そもそも、儀式で一度に三人もそれも身内から……」

「俺もそれは考えたけど、たまたまだって片付けた」

「そうかもな、だが、一連の流れが勇者側に上手く出来過ぎている可能性もある」


 話を整理する為に、エドワードは大きな紙を持ってくる。


「儀式でスキルが発覚した後、勇者はトリス村に現れた……お前は勇者に勝負を挑んで負けた」

「あぁ、そうだ」

「目覚めたら三姉妹は居なくなっていて、手紙が送られてきて、二年の月日で凶変した三姉妹がトリス村に来たって訳か」


 本当だったら思い出したくもない。

 けど、何だか気持ちが軽い。

 誰かに真実を打ち明けているからか。

 エドワードは事細かく時系列をまとめて、事細かく俺から詳細を聞く。


「大体分かった」

「俺も時間のある時に何でこうなったのか、何度も考えた事がある……けど、何も分からなかった」

「話してくれてありがとうな! 一人でも無理でも二人なら分かる事がある」

「エドワード……」

「俺さ、人付き合いが苦手なんだ、一人ぐらいこういう事を言い合える奴が……あ、今のは忘れてくれ」


 頭も力もあるがよく分からん奴だなこいつ。

 俺は苦笑いをしながら、エドワードは椅子から立ち上がる。

 冗談か本音なのか。そして、エドワードは話を続ける。


「お前が気絶している時に、トリス村で魔物が襲った出来事」

「あぁ、運が……」

「いや、タイミングが良すぎると思ってな?」

「どういうことだ?」

「俺からしてみれば【天職持ちの三姉妹を自分の味方に引き入れる為の演出】にしか思えないけどな」


 違和感はあった。確かに、魔物があんなに大量に村に押し寄せてきた。

 今まで生きてきた中でそんな場面はなかった。

 結界で守られていて、破壊される。そんな事……。


「後は【三姉妹の本質】について、俺は関わりは薄いからあまり知らない……けど、お前なら」

「いや、長い間生活をしてきてそれが当たり前と思っていた……だから、俺は三人の事を知ったつもりだった、だけど本質は大きく違った」

「そうか、確かに付き合った期間は短いけど、シャノン先生には色々と教えて貰った、この回復魔術も様々な手当とかもそうだ」


 そうだったのか。皮肉にもそれのおかげで助かった。

 ただ、エドワードにそんな事を教える必要があったか?

 不利になるかもしれないのに。やはりよく分からない。


「お、お前ら……」

「が、ガルベス!」

「目が覚めましたか」


 すると、ガルベスは意識を取り戻す。

 俺はまずは謝罪はする。

 しかし、自分が怪我した事よりサーニャを心配していた。


「あいつは、無事か?」

「あぁ、何とかなった」

「そうか、いや済まなかった」

「何言ってんだよ……俺の方こそ」


 無事でよかった。本当に。

 俺は安堵していた。


「目覚めた直後で悪いんですけど、何かあの人の事で分かる事はありますか?」

「……お前」

「エドワードだ、一応あんたとそこの女の子を救わせて貰った」

「そうだったのか……ある、あいつは全てを終わらせようとしている」

「全てを? どういうことです?」


 全てを終わらせる。

 それはこの街自体を破壊する。

 辛うじてガルベスが気絶する前に聞いていたシャノンの発言。


【始まりの時計塔……そこで全てを終わらせる】


 始まりの時計塔。このスリムラムに来た時に紹介された。

 聖なる場所と言われており、魔力が蓄えられている。

 確か、スリムラムの中心部にあった。そんな記憶がある。

 でも、今更そんな所に行って何をするんだ?


「魔力が蓄えられている……まさか、それを利用して」

「利用? そんなの個人の判断で出来るのか?」

「あの人が天職で特別な権限を持っていたら……さらに、俺達に知らされていない事実があるとすれば……放出、時計塔に蓄えられている魔力を利用すれば」

「……あの女の魔術を間近でみた俺なら分かる、それは認めたくないが可能だろう」


 まさか、もう始まっているのか。

 俺は頭を抱えながらとんでもない事が起こる可能性。

 もう少しでこの街を終わってしまう。

 時間もかなり経過しているし、今から行って間に合うのか?

 きっとシャノンは今頃笑っているだろう。


『結局、ロークは私には勝てない』


 想像が出来る。幼い頃から勝てなかった。

 遊びでも、そして今回も。


「ローク、お前が行け」

「……エドワード」

「俺はこの二人を治療しなければいけないし、これはお前の役目だろ?」


 俺の役目と聞いて納得する。

 そうだ、自分がやらないと。

 まだ、時間はある。この街を破壊するだけの魔術。

 準備にも相当時間がかかるはずだ。


 やるしかない。行くしかない。

 好都合だ、復讐相手がそこで待っているんだったら。


「戦闘の連戦であの人もそんなに力を発揮が出来ないはずだ! チャンスを逃す訳にはいかない」

「悪い」

「いや、本当は俺も行きたい所だが、ここを離れる訳にもいかないからな……」

「……気を付けろ、奴は強い」


 あぁ、絶対に……勝ってみせる。

 この街の為にも、自分の為にも。

 俺は軽く準備をした後。すぐに【始まりの時計塔】に向かって行った。


 あいつ(シャノン)と決着をつける。

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