第34話 勇者への報告とシャノンの遊び


「トウヤ様! 大変です!」


 俺はナイルの騒がしい態度と言動。

 椅子から立ち上がり、状況を確認する。

 聞かされたのは、予想外であり想定内の伝達。

 そう、ニーナの死とロークの強さ。さらには、メイドのシエルと送った罠もやられた。

 ……最悪であり、最高の結果に終わったな。


「どうしましょうか? まさか天職の一人が……」

「まぁ、待て! まだシャノンとフローレンの二人いる……それに、ニーナの判断は独断だろう?」

「は、はぁ? 聞いてなかったのですか?」

「ナイル……お前はニーナとはあまり関わってなかった、だからあいつの事は何も知らないだろう?」


 ニーナとは俺が一番関わってきた。

 だから、その性格とか把握している。

 一言で言えば野生的。悪く言えば本当に動物みたいな奴だった。

 今回の独断は、別にそんなに気にしていない。

 弱い奴は死ぬ。帰って来たら褒めてやろうと思ったのに残念だったな。


「そうですね、私はシャノンやフローレンと一緒にいる事が多かったので」

「まぁ、そっちも久々に見に行くとするか……報告ご苦労だったな」

「いえ、しかし……アレースレン王国にとって天職を失ったのは大きな痛手ですね」

「痛手か、優秀な人材は案外すぐ死ぬ……期待されると人っていうのは、頑張ってしまうからな」

「はぁ……」

「けど、それで死ぬのは弱いからだ! 運命を変えたければもっと強くなるしかない」


 さてと、言いたい事を言ったしそろそろ行くか。

 なぁ、そうだろう? ニーナ。俺が色々と教えてやったのに。

 仕方ないから、俺が恨みを晴らしてやる。

 俺は、自分の部屋を後にする。とりあえずシャノンに会いに行く事にした。





 アレースレン王国。世界で一番大きいと言われている。

 人口、戦力、物資、人材。全てにおいて強大なものを保有している。

 一人一人が鍛え上げられ、優秀な人材が揃っている。

 王国の戦士はその中で精鋭揃い。それが、今回……ロークとその他にやられたというのか?

 ……まだまだ足りなかったか? 俺は、目付きを鋭くして廊下を歩く。


「あ、トウヤ……いや、トウヤ様」

「……別にトウヤでいい、お前だってその方が話しやすいだろ?」

「そう、なら遠慮なく」


 シャノンは廊下の壁にもたれながら。

 勇者の俺の前でもマイペースに振舞っている。

 こいつは、現在は魔術の教師として活動している。

 魔術の大都市【スリムラム】か。勇者として出向いた事はある。

 だけど、個人的な用事で行く事はほとんどない。


「シャノン、お前もまだ若いのに……ご苦労だな」

「まぁ、トウヤと比べたらまだまだね」

「でも、噂に聞くと指導力は抜群で、何人も魔術師として大成しているそうじゃないか?」

「たまたまよ……別に大した事はしていないと思うけど?」


 こいつはまだ20歳にもなっていない。18歳という若さで魔術の指導者。

 あの大都市の中で……ふ、才能は恐ろしいものだな?

 それも、シャノンは魔術以外にも容姿も体も優れている。

 これは、とても重要な要素。その証拠にシャノンを目当てに来る人も多いとのこと。

 そして、話題はニーナの件になる。


「それと聞いたか……? ニーナが」

「あぁ、死んだんでしょ?」

「……偉く、冷たいな? 血が繋がった姉妹なのに驚くなり悲しまないのか?」

「別に……だってニーナの独断だったんでしょ? そんなの、死んで当然じゃない?」

「お前も変わったな、ここに来る前は色々と嫌がっていたのに」


 環境の変化はやはり大きかった。

 ニーナも最初はシャノンと同じくトリス村に帰りたいと願っていた。

 だから、甘い誘惑と現状を見せてやった。

 年齢的な影響もあっただろう。フローレンはともかく。二年前は幼かった二人も、色々な経験をして成長した。特に、シャノンは成長が著しかった人物だった。


 ――――能力は抜群に成長したけど、問題は性格か?

 すると、シャノンは微笑みながら俺に近付いてくる。


「誰のせいだと思ってるの?」

「……さあな」

「ニーナとはやったんでしょ? やったよね……だって、しばらくしたらニーナはトウヤにベッタリだったし」

「まぁ、色々な要因が重なって俺に懐いたのもあるんじゃないか? 実際、王国に来てから一番ニーナと接していたのは俺だったしな」

「……よく言うわ、この色男」

「お前も人の事は言えないんじゃないか? もう、何人から想いを告げられた?」


 シャノンは顔を逸らしながら、窓から見える風景を見つめている。

 自分が受け持った生徒には年上から同年齢と層は広い。

 元々、教師と言う職業は人脈が広くなる。だから、出会いも多い。

 それに、シャノン程の女となると告白をしてくる男。それも後を絶たない。


 ……面白いな。人の事を言えない。そう言った理由。


「お前、別に止めやしないが……あまり恋愛で遊ぶのはやめろよ、いつか痛い目に遭うぞ」

「知ってたの? というか気付いていたのね」

「そうだな、たまたま話しかけられた女が泣いていたからな……何かと思って理由を聞いたら、他に意中の女がいたと言ってきてな」

「……へぇ、誰だか分からないわ」


 また嘘をついてるな。髪を手で巻く癖は直っていない。

 いや、俺の前では気が抜けて出てしまっている。それだけかもしれないが。

 とにかく、こいつは腹黒く何を考えているか。たまに理解が追い付かない場合がある。

 三人の中でロークに対しての想い。それが一番薄まっているのはシャノンだろうな。

 そして、シャノンは俺の方に視線を戻す。何か言いたい事があるようだ。


「私が魔術の教師になったのも……天職に選ばれて、誰かの役にたちたい! 別にそれだけの想いだった」

「お前の口から誰かの役にたちたいとか言うのはやめろ! 気持ち悪いぞ」

「はぁ、教師になれば自分より下の奴が見れるでしょ? 当然、上もいる訳だけど……それと、【他人のものを奪った快感】それは、ゾクゾクとするものがあるわね!」


 やっぱりこいつは屑だった。

 シャノンは興奮しながらも。すぐに冷静になる。

 そうだ。こいつは、生徒の中で彼氏持ちの女を狙っている。

 様々な手を駆使して、自分の虜にして別れさせて自分が付き合うというもの。

 最低だな。俺が聞いてもこいつはやばい奴だと思う。

 まぁ、好き勝手やってくれればいいという話だ。


「でもさ、奪われる方が悪いのよ? 所詮はその程度の関係って事でしょ?」

「……その奪って付き合った男はどうしているんだ? 当然だが関係は続けているんだろうな?」

「捨てるに決まってるでしょ? 関係は築くものであって断ち切りものなのよ……それで付きまとわれたら……」 


 シャノンは俺の方に手を向ける。

 これが何のサインなのか? だけど、俺はすぐに理解をする。


「殺せばいいのよ! どうせ、私達の事を詮索する奴なんていないんだし」

「……まぁいい、ただし! 調子に乗るなよ! 後始末が大変なのは俺とかナイルなんだからな」

「はいはーい! じゃあ、今日もスリムラムで授業があるから行ってくるわ! じゃあね!」


 笑顔になってシャノンは去って行く。

 俺はその後ろ姿を見ていた。ふぅ、相変わらず異常者というべきか。

 元々、魔術師は【魔女】と呼ばれ、人格が破綻している者が多いという。

 シャノンもその一人。もちろんまともな奴もいるが……。

 さて、どうしたものか? 天職だから黙っていたが、これ以上は危険だな。

 まぁ、シャノンはニーナと違って頭が回る。最年少で魔術師の教師になったぐらいだからな。


 ――――精々、頑張ってくれ。俺は別にやる事があるからな。


 俺は、シャノンとの会話を終えた後。城下町の方に向かって行った。


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