第33話 二人で一緒に


 トリス村から離れた時と同じ。

 今度は、このセルラルの街を去る事になる。

 俺は、荷物をまとめてバレない様に宿屋を抜ける。

 ソルトとガルベスの話を聞いてから三日後。

 完全には傷は癒えていない。けど、この街に滞在する訳にはいかない。


 ――――王国の命令で街の奴らはそっちにいっている。

 また、しばらくしたら戻って来るとソルトは言っていた。

 なるほど、ある意味王国の奴隷みたいなものだ。

 俺は、セルラルの街を高台から見下ろしながら。

 地図を広げて、次の目的地を探していた。


 次の標的がシャノンかフローレンか。

 このセルラルから距離がどうなるか。

 色々な要素を考える必要がある。

 だから、療養していた三日間考えた結果。


「次は、魔術の都市【スリムラム】か」


 この街は魔術に特化した街である。

 魔法使い、魔術師を目指している人材が多い。

 冒険者の中にそういう人材は必要不可欠。

 中距離、遠距離、回復と言った幅広い戦術が可能になる。

 だから、ここに来る人が多く大都市である。


 王国程じゃないけど、気を付けないといけない。

 もう情報が伝わっている。その可能性は大きい。

 そして、地図をしまって俺はある人物を思い浮かべる。


「シャノン……次はお前か」


 恐らく、あいつはこの街にいる。

 確証はないけど、王国にずっと留まっている可能性もある。

 あいつは変化を嫌うからな。とは言っても人間なんてすぐに心変わりする。

 今頃はいい位置で贅沢な暮らしをしているだろう。


 古の魔術師。あの時は魔術で動きを縛られたか?

 厄介だな、こっちも魔術系が使えればよかったんだけど。

 まぁいいや。とりあえず、早速向かおうとしよう。


「ま、待ってくれぇ」

「……! あぁ、お、お前……何で?」


 驚きのあまり俺は情けない声を出してしまう。

 何で、こいつがここにいるんだよ。

 膝を手に付いて俯いている。

 呼吸を荒くしているからよっぽど急いで来たのだろう。


 知らせていなかった。どうして、俺がこの日に出て行く事が分かった?

 そして、サーニャは顔を上げて俺に訴える。


「どうして、何も言ってくれないんだ? どうして、そうやって一人で決めちまうんだ!」

「お前はもうこれ以上は関わらない方がいい、もう終わっている俺と違って……お前には未来があるんだから」


 それでもこいつは聞かないだろうな。

 強情で馬鹿だ。綺麗に別れようと思ったのに。

 これでは未練が残ってしまう。

 俺は、興奮しているサーニャとは違って冷静に対応する。

 仮にもサーニャを連れて行ったらいけない。


「どうして、そう決めつけるんだ? こ、これは……私が自分で決めたことなんだぞ!」

「足も体も震えているのにか?」

「……っ! これは違う!」

「はぁ、とにかくだ! お前も俺の姿を見ただろう? あれでも、俺に付いて行こうと思うのか?」


 俺の姿とは。狂気に飲み込まれ、暴走寸前まで追い込まれた。

 あの時、サーニャを殺していた。その可能性は十分あった。

 それを淡々と話す。自分でも力の根源は理解していない。だから、危険なのだ。分かるのは、自身の復讐心。それが憎悪となって引き出される。

 それぐらいしか分からない。まぁ、とにかくだ。


 今後、復讐を進行していく内に。俺はサーニャを殺してしまうかも。

 それを伝えると、サーニャは何か言いたそうだった。

 だが、俺は合理的に物事を考える。


「立派な冒険者を目指すんだったら……紅の旅団に入った方がいいんじゃないか? あそこはAランクの冒険者もいる事だし……ガルベスも悪い奴ではないだろ」

「それは……」

「完全に否定をしないって事はそれが正直な感想って所だ……安定した人生を歩むんだったら、そっちに行った方がいい」


 まぁ、冒険者自体安定してるとは思えないけどな。

 悩めるサーニャに俺は提言する。

 紅の旅団がどういう場所か。どういう組織なのか。そんな事は分からない。

 だけど、サーニャにとってその方がいいと思う。

 俺は、静かにそう言って納得させようとした。


「確かに、その方がいいのかもなぁ」

「だったら、今すぐに戻るべきだ! 今ならまだ」

「あぁ、普通だったらそうするよなぁ……けど、私ってさ」


 サーニャは俺の服の袖を掴んでくる。

 何の真似だ? それはとても弱い力だった。

 振り解こうと思えば、簡単にそれは出来る。

 けど、俺は……その場で静止していた。

 何だこの気持ち? 久しぶりに感じた事のあるもの。


 ――――トリス村にいた時。両親から、そして三人からかけられた愛の言葉。忘れていた愛情。そして、信頼。暖かい。

 まるで、炎が心の中に宿っているかのような。それぐらいに胸が苦しい。

 俺は、サーニャに背を向けていた。だけど、その行動で後ろを振り返る。


 そして、そこには不器用な笑みをしているサーニャがいた。


「馬鹿だから、これでもロークと一緒に行きたいって想うのは……駄目なのか?」

「……本気で言ってんのか?」

「本気じゃねえとこんな事言わねえよ! それに私だってもう何人も王国の戦士を倒している……だから、後戻り出来ないのは私も同じだ」


 サーニャは掴む力が強くなる。

 そうか、こいつだってもう……王国から敵だと認識されているかもな。

 多数の王国の戦士を既に殺しているサーニャ。

 炎の剣士としての知名度もあり、こいつだって後戻りは出来ない。

 だから、こうやって俺と戦う事を選んだのか?

 いや、だとしても……。


「家族とかはいいのか? 俺に付いて行ったら悲しむぞ」

「いや、それはいいんだ……ソルトにも相談したんだけど、やっぱり自分が正しいと思った方を選択すべきとか言ってたからさ!」

「それで、正しいって思ったのが俺に付いていくって事か?」

「……あぁ! そうじゃねえと私の気も晴れない! このままお前を見捨てる何て私には出来ねえよ!」


 いい加減だな。俺は、上空を見上げる。

 どうすればいいものか。こいつは本気だ。

 俺が三人と約束を誓った時のような。そんな瞳をしている。

 ……あぁ、よく分からなくなってきた!

 トリス村を出てから、こんなに熱く想いを語られるのは初めてだ。

 信じていいのか? というより気持ちより。俺に、こいつを守れるのか? 後悔させないのか?

 そういう気持ちの方が強い。それに、こいつは……復讐についてこられるのか? その心配が大きい。


 サーニャは自分の胸に手を当てる。

 俺も本当に単純だなぁと思う。そんな自分が嫌いだった。

 だから、あの三人に裏切られて、捨てられたのかもしれない。

 たく……何やってんだろうな俺。この甘さが命取りになるのかもしれない。

 けど、今後戦って、復讐を遂げる為に仲間は絶対に必要だ。


 俺は、目を瞑る。あいつに、あいつらに勝つには。俺一人の力では絶対に駄目だ。

 それこそ、サーニャの言う信頼が出来る仲間。

 まだ、言葉だけだったらそれも幻。それでも、サーニャには実績がある。

 助けてくれた。こいつがいなかったら、ニーナにもあのメイドにも勝てなかった。


 だから、それを見越しての判断だ。


「どうせ、断ってもついて来るんだろ? 強情な奴だな」

「あぁ、そのつもりだったぜ! にししし」

「その笑い方……久しぶりに見たな」

「わりーな! 癖なんだよ、けど私は……絶対にロークに最後まで付いて行く! 例え、世界を敵に回してもな!」


 こ、こいつ……俺の台詞を奪いやがった。

 白い歯を見せながら、サーニャはいつもの雰囲気に戻る。

 俺も、表情を少し柔和なものとなる。久しぶりに心から笑った気がする。

 それは優しく、とても心地のいい状態。

 これも新たな剣技を取得が出来るチャンスなのかも。

 相変わらず、自分の状態で左右されるスキルらしい。

 感情の昂ぶりなのか、それとも何か別の理由があるのか?


「おっしゃー! じゃあ行くぞ!」

「そんなに楽観的に目指すものじゃないぞ」

「まぁ、いいからいいから! 今日ぐらいは楽しく行こうぜ!」


 お前の場合はいつもだろう。俺は、突っ込もうと思ったがやめとく事にした。

 こうして、俺はサーニャと共に【スリムラム】に向かった。


 待ってろよ、シャノン。次は……お前だ。

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