第93話 封印魔術、天と罰 

 まさか、これほどとは。

 俺は目の前の男の力に驚愕している。

 この街も簡単に占領が出来て、歯向かう勢力を蹴散らすつもりだったが、これは計算違いだ。


 ……それに、俺は大きな嘘をついている。

 こいつの仲間とやらは全員死んでいない。


 予想以上にこいつらは……。


「久しぶりだな、氷の魔術師」

「お、お前がどうして、こんな場所に?」

「戦争、そのための前準備と言っておこう……このセルラルも我々の力となって貰う、それだけだ」

「……相変わらず、やっていることは変わらないようだな」


 懐かしいと言っておくか。

 確か名前はエドワードと言ったか?

 一時期だが、我々の国に所属していたことがあったか? いや、そんなの今は関係ない。

 こうして俺と対峙をしている時点で、過去などは関係がない。


「……ふん、しかし惜しい男だな! 我々と一緒にいれば、これ以上苦しまずに済んだのにな!」

「……そうだな、アレースレン王国は世界を支配するだけの力がある、それは俺も理解している」

「それを理解しててなぜ? 俺達に」


 そうだ。敵うはずがない。

 あのロークという男もそうだが、戦力が桁違い過ぎる。お前たちがどんなに足掻こうとは我々には勝てない。


 でも、こいつの瞳は光を失っていない。

 それどころかあの頃よりも、まるで燃え続ける炎のように轟々としている。


「あぁ、勝てない、かもしれない」

「しれない……? しれないじゃない! 絶対に勝てない」

「そうだな、少なくとも俺一人では」


 ……!? これは体が動かない。

 魔術か? それもかなり高度なものだな。

 この俺を拘束して縛りとは大した魔術だ。


「そうね、一人じゃないわね、エドワードちゃん」

「……ロークは大丈夫なんですか?」

「……多分ね」

「そうか、ならはやく終わらせないとですね!」


 合流したか、ただ女が1人増えたところで……ん?

 この違和感? 何だ? この黒髪で胸部が強調されている女から感じる力。

 これは普通の人間ではないな。俺にかけられた魔術に練り込まれた魔力。並大抵の人間では不可能な出力。


 考えられるのは、いや導き出される答え。

 ……とにかく舐められたものだ。


 俺は硬直した体を無理やり動かそうとする。

 だが、それと同時にこの場に冷気が発生する。


「動くな」

「む……これは」

「手伝うわ! エドワードちゃん! 私の魔力も使って!」


 氷の魔術師……その通り名は流石だな。

 あの街にシャノンを潜り込ませた所まではよかった。だが、この氷の魔術はとても素晴らしい。

 それに、あの女の魔力供給。足先から感覚が無くなっていく。


 見事な連携だ。だが、お前らの快進撃もここまで。


「フローレン……」

「はーい! 今すぐ解除しますね」

「現れたか」

「ちょ!? 私の魔術とエドワードちゃんの魔術でも駄目なの? あり得ないっしょ!」


 隠れていたフローレンが俺を助ける。

 一応は準備はしていた。だが、力の温存が出来て助かった。そして、フローレンに続くように。


「んだよ? まだ生き残りがいたのか?」

「……そう見たいね」


 カゲノとサキ……やっとここに集結したか。

 恐らく、サーニャとコルニーはあちら側で交戦している。準備は整った。


「……一気に潰すつもりか? まずいですねこれ」

「フローレンに、あの2人まで!? こんな時にロークは何やってんの?」

「さて、これでも俺たちに立ち向かうつもりか?」


 こいつらの戦力の余剰はない。あの旅団の大男もこちらで拘束している。

 ……予想外や計算違いは戦いにつきものだ。

 あいつらは今は2人しかいない。


「周りを見て見ろ? この街は崩壊して普通に暮らしていた住民も死んでいるのに……これで何が正義だ?」

「……けど、お前がやっていることは確実に正義じゃない! 無秩序で人を利用し、人の気持ちを弄ぶお前のような……」

「そうか、だがそういうのは俺に勝ってから言え」


 言葉と同時に動き出す。

 氷の魔術師は再び冷気を作り出す。

 だが、同じ手にはかからない。

 上空に飛び上がり、俺は魔術を発動させる。


「【風魔滅弾】」


 風の気弾を発生させて、あの二人に向かって放つ。

 一瞬で何発も作り出し、それと同時にカゲノとサキも動き出す。さて、あいつらがどうくるか?


「風の気弾か……なら、【氷壁】!」

「手伝うわ! はぁ!」


 風の気弾が防がれたか。

 俺達の目の前に巨大な氷の壁が作られる。

 それは我が国のどんな防御壁よりも強力で巨大なもの。一瞬でこんなものを作りだせるとは大したやつだ。だが、そんな大技を発動させたら。


「後ろが好きだらけだ」

「……!? エドワードちゃん」

「分かってます!」

「……! 背後にも壁を作り出しやがったか」


 カゲノを既に背後に回り込ませていた。

 しかし、奴らは先に察知していたのか。カゲノの斬撃は作り出された氷の剣によって防がれる。

 なかなかやるな。カゲノの斬撃をあんな即興で作り出した氷の剣で防ぐとは。


 だが、甘いな。


「ぐ!? 鎖……これは」

「残念だけど、あの森の戦いであなたのスタイルは見させてもらった、動きを封じれば私たちの勝ち」


 サキによる鎖による拘束。

 本来は攻撃用だが、こういう時に使える。

 そして、動きを止めたらこちらの番だ。


「フローレン、あいつらに思い知らせてやれ」

「そうね、開発中の薬を使いたかったし……いい機会ね」

「頼むぞ」


 隣にいるフローレンが懐から薬を取り出す。

 戦闘能力というよりは、こいつの場合は錬金術師としての力に期待している。


 そして、動きを止めた時点で。


「薬を巨大化して……カゲノとサキ! 離れなさい!」

「おっと、あれはまずい」

「……離れないと巻き添えはごめんね」

「……っ!? なんだ? あれは……いや、あれをまともにくらったらまずい、だけど」

「あれって……エドワードちゃん! 待ってて! 今すぐ……え?」


 お前が厄介だからな。さっきから魔力の供給と的確なサポート。だから、お前を何とかすれば力は大きく落ちる。あの女に向けた拘束する道具。

【神の鎖】これは拘束する対象が天に存在が近いほどに効果を発揮するもの。

 無数の鎖が女を縛りつけて、動きを止める。


 そして、巨大なフローレンによる薬が男に放たれる。……これで氷の魔術師も終わりか。


「……な、なんだ? 魔力が全く感じない」

「ぐぅ! え、エドワードちゃん!」

「これで、魔術も使用出来ないしまともに動けないわね」

「じゃあ、もう殴りたい放題ってことだな」

「あぁ、だが女の方に手は出すな、少し……話があるからな」


 フローレンの薬は開発中とは言ったが、効果は絶大だった。これは相手の魔力を完全に消失させるもの。体から浴びたあいつはしばらくは戻らない。

 氷の魔術師も魔力を使えなければただの人だ。


 カゲノとサキが男の方に向かう。

 すぐに相手を痛めつけるために、殴って蹴る。

 男は動きを拘束されて、さらには魔術も使えない。

 一方的に殴られ続ける姿は見ていて。


「痛々しいな」

「ぐぅ……離せ!」

「そう喚くな! なぁ? 元女神?」

「……なぁ! な、何を?」

「この鎖は神の存在に近しい者ほどに拘束力を発揮して、力も強くなる、そこて俺はある仮説を立てた……もし、何らかの事情で女神がこの地上に降りたらどうなるか?」

「し、知らない! わ、私は……」


 何の理由があるかは知らないが、まぁ事実だろう。

 とにかく、力は半分以下になっているが厄介な存在ことには変わりはない。

 ここで、始末するのが今後にとって有利な展開となるだろう。


「まぁいい、ここで死ね」


 戸惑いもなく俺は剣で女を突き刺す。


「ぐはぁ! こ、この剣は……」

「惜しいな、俺が相手じゃなかったら勝てたが」

「……そ、そうね、それでも舐めないで欲しいな!」


 突き刺さっている剣を掴んでくる。

 ん? これは……黄色の光? 何をするつもりだ。


「残念だけど勇者は私達が作り出したもの……これなら、あなたでも無事では済まないと思うけど?」


 これは……。考える前に黄色の光は俺を含めて、この場を支配する。


「【封印魔術、天と罰】!」


 こいつ、やはり……。そう思った時には俺の視界は黄色い光で奪われた。

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