第24話 新たなスキルとサーニャの気持ち


 サタン火山を俺はサーニャと下山している。

 ニーナの死体を処理して、無言で俺達は歩く。

 ……雰囲気は最悪だ。

 お互い嫌な事実、姿、光景を目の前で見てしまった。

 特にサーニャにとっては刺激がとても強かったようで。


「な、なぁ……ローク?」


 急に立ち止まり、サーニャは俺に顔を向けてくる。

 酷い表情をしている。人の事は言えないけど。

 俺は、何かを聞いてくるサーニャと向き合う。

 話したくない。ニーナを殺す時に、俺は素の部分が出てしまった。

 怖かっただろう。あれだけ狂気的になってしまった。顔はあのニーナが怯える程に。


【マナ石】は光続ける。そして、スキルはまた変化している。

 …………【風と闇の剣士】? なんだ、これ。

 それに気が付いて、俺は困惑する。

 風はさっきの剣技。それと、王国の騎士を倒した時。それと、カーボンウルフでの戦闘。

 予兆はあった。やっぱりスキルに関係はあったと思う。

 だけど、闇の部分は不明。こんなの……狂っているとしか思えない。

 事実を考える前に、サーニャが今にも泣きそうな顔をしている。

 あぁ、そっか。こいつの相手もしないといけないよな。

 俺は、マナ石から目を離してサーニャの話を聞く。


「何だ?」

「うぅ……本当に、お前は今のままでいいのか?」

「どういう意味だよ? 別に、お前には迷惑かけないよ」

「違う! 私が、私だけ、ローク! お前だって、立派な冒険者になるべきなんじゃ……」


 立派な冒険者か。元々、そういうのはあまり興味なかった。

 ニーナ、シャノン、フローレンが一緒にいればよかった。

 俺達が一緒ならどんな苦難も困難も乗り越えられる気がした。

 それなのに、裏切られた。いや、俺が不甲斐なかったからか。

 目の前で無謀に勝負を挑んで。勇者にボロ負けした。

 二年間という時間は長い。その間にニーナの話でもあった通り。心変わりをしたんだろう。


 俺が、立派な冒険者になれる訳がない。

 弱くて、未熟で、脆くて、もう罪を犯している。

 もうお前(サーニャ)みたいには目指せない。だから、俺のやれることは……。


「言っただろ……俺にもう構うな! お前と違って、冒険者に興味はないんだ」

「それも村とかあいつ(ニーナ)の影響なのか?」

「……関係ない、とにかくだ! 俺と関わっても、お前にとっても不幸だぞ」


 こいつもさっきのニーナを惨殺している場面を見ている。

 あの時は、話を聞いた反動。それが全て返ってきた。

 復讐心に飲み込まれて、俺は自我を失っていた。

 確実に誰かに目撃されたら、終わってしまう。残虐非道で最低な男。

 俺は今以上に動きにくい状況になる。それは、自分だけの問題ではない。


 少なくとも、復讐に関係ない人。巻き込む訳にはいかない。

 まぁ、ヤミイチさんやソルトさんには多少は協力して貰った。本当に感謝している。

 王国や勇者のことを快く思わない人物。一定数は存在すると分かった以上。それだけで収穫だった。


 サーニャ、お前は俺みたいになるな。俺と違って待っている人がいる。

 家族や街の人もサーニャの帰りを待っている。大きな違いがある。

 ……それを邪魔する。俺には絶対に出来ない。

 こいつだってそれを望んでいるんだろう。幾ら、馬鹿でもそれは人間なんだから当たり前だ。

 自分が大切なのは変わらない。利益もなく、人の為に動ける人間なんて……存在しないだろう。


 忠告する俺。これで分かってくれただろう。


「不幸……そんなのお前が勝手に決めてることだろ」

「あ? お前、それ本気で言ってんのか?」

「当たりめぇだろ! いいか! よく聞けよ!」


 やっぱり似てやがる。さっき殺したニーナも同じ事を言っていた思い出がある。

 ある意味、屈強な精神力があるサーニャ。

 慕っていた人物が目の前で殺された。それなのに、何を言い出すんだ。

 サーニャは声量を高めながら。


「最初は驚いたよ、信じていたのに、尊敬していたのに……あんなに最低な人だった」

「あぁ」

「んで、ロークの話とさっきの話を聞いて、何が正しくて、何が駄目なのか、そんなの分からねぇと思った……元々、私は馬鹿だからな」

「それは馬鹿とか利口とか関係ないだろ……状況とか立場によって、その答えは変化する」

「だ、だよなぁ? それで考えた! お前は……辛かったんだな、苦しかったんだよな?」

「サーニャ、別にお前にそれは理解して貰わなくても」


 本当にやめてくれ。

 耳が痛くなる。胸も痛くなる。二重の苦しみが俺を襲う。

 もう、いいんだ。誰かに理解して貰わなくても。

 また裏切られて、捨てられるんだ。どうしても疑心暗鬼になってしまう。

 他人を信用出来ない。病気なのだろうか。いや、これは仕方がないこと。


 あんな話をされて、急に治る病気ではない。

 自分より格上とは言っても、一緒過ごした時間が長い異性。それを簡単に盗られた。

 屈辱的だ。死にたい。本当に……俺は。


「いや、ロークがそう言っても私がそうする!」

「……どうして、そこまで俺に拘る?」

「そんなの当たり前だろ!」


 サーニャは俺に近付いて来る。力強く、俺にそれを主張する。


「お前に、助けられたから」

「……は?」

「それに、ロークを殺そうとしたから」

「それはお前が」

「でも、殺そうとした事は事実だ! 最低な奴だよなぁ、私って……だから、ローク! お前と一緒に」

「それは駄目だ」


 駄目だろう。俺は、サーニャを軽く突き飛ばす。

 ニーナと王国の戦士に脅されていた。

 だから、サーニャは仕方なく俺を殺そうとした。

 同じ状況だったら、俺も同じ事をしていた。許されないが、同情はしている。

 きっとサーニャは俺と一緒に戦いたいと思っている。けど、そんなの駄目だろ。


 荷が重すぎる。サーニャ……お前にはもっといい場所がある。

 失って、壊して、また失って。俺はもう既に消失している。

 だからこそ、その場の勢いで決断するものじゃねえよ。

 俺は、否定をして断る。ただ、サーニャは結構頑固な性格なようで。


「いや、お前と一緒に行く」

「駄目」

「何でだよ!」

「……じゃあ、またあんな目に遭っていいのか? 今度は本気でお前はあいつらに犯されるぞ」

「……っ!」


 あーあ、言っちまった。サーニャの先の事を思って言っている。

 だけど、少し後悔している。

 女性にとっては致命的に嫌悪感を感じる言葉だった。

 多少の罪悪感を感じているが、俺とサーニャの距離を離す為。

 両手を口で塞ぎながら。サーニャは俺に背を向ける。

 よっぽどショックだったのか。サーニャは駆け出す。

 ……はぁ、損な役回りだ。仲間は増やせない。畜生……。

 本音が出そうになるが我慢する。その後ろ姿を見ながら、俺は考える。


 とりあえず、このサタン山に籠って生活をするか。幸いにも物資は……まぁ、何とかなるだろ。

 それに、この騒ぎはきっとセルラルの街にも伝わっている。

 全体に広まるのも時間の問題。それまでに、もっと強くならねえと。

 俺は、下山した方向と逆を向く。とりあえず、気付かれない場所に移動しよう。


 まだ終わった訳じゃない。道のりはまだ長い。

 だからこそ、俺は強くなる。待ってろよ……シャノン、フローレン。


 最後は、お前だ。勇者……いや、トウヤ! お前だけ……必ず俺の手で殺してやる!


 こうして俺はまた進んで行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る