第29話 炎の剣技と暴走の前兆


 ……ローク!? 私は胸の高まり止まらなかった。

 見つけた! というよりは、遭遇してしまった。

 こういう表現の方が正しいのかな? いやいや、何を言っている。

 それは、ちょうど一か月後の朝。私はいつも通り街の中心部に向かう。

 だけど、妙な事があった。誰一人として街の人がいない。

 この静けさはおかしいな。だって、誰かしら店の準備とかしている。

 異様だな。何か理由があるのか? それが、もしあれだったとしたら。


「つ、はぁはぁ……」

「あら? どうしたのですか? もう打つ手がないのですか?」


 物陰から私は見つめる。……う、血だらけで倒れている人。

 二人いる? 女の子とあれってヤミイチじゃん!? ど、どうして……。

 それにロークだって傷だらけだし、やばいじゃん。

 敵はあのメイドなのか? 鎖を上手く使っている。


 ――今にもロークはやられてしまう。


「んなわけねえだろ! 絶対に……倒す!」

「気迫は凄いですわね? ですけど、終わりですよ? この街の雰囲気を見て下さい」

「……? 何が言いたい?」

「ふふ、気が付きませんか? 何故、街の人の気配がしないのか?」


 それは私もおかしいと思っていた。

 今日の街の様子はとても静かだった。

 でも、そう思った時には。あのメイドが手を上空にあげた瞬間。


「一斉に撃て!」

「……っ!」


 この街に銃声が響き渡る。

 凄まじい音は、私の鼓膜を破壊しようとする。

 あ、ぐぅ……ろ、ローク!? それは集中してロークを貫く。

 多分、事前に用意されていたんだ。私は、両手を口で塞ぎながら。

 絶対に声を出さないようにする。バレたら殺される! 駄目だ、どうなっているんだ?


「あら、終わりましたね? 皆さん! ありがとうございました」

「目標は?」

「えぇ! 予定通り始末しました……これで、私達はまた王国の地位を高められますわね!」


 うわぁ、あいつら。ゾロゾロと王国の戦士達が出て来る。

 そうか、多分……ずっと気配を消していたんだ。

 銃口を向けられて、一斉に銃弾は放たれた。これは防ぐことは出来なかった。あの、サタン火山の時と同じだ。潜んでいた敵は、相手が弱ってから登場する。畜生! 消耗戦はロークが絶対に不利。


 さらに、遠距離から攻撃されたら抵抗しようがない。


 ――――これが、罰なのかよ? あいつは、奪われた側なのに。

 あの勇者に。それで、それで……うぅ。

 地面に倒れるロークを見ながら。私は何度目かの涙を流してしまう。

 目の前であんな残虐な死を目撃する経験。それは、ニーナの時にもう……。

 けど、こんなに……胸が痛んでどうにかなってしまいそうだ。


 壁に体を預けて。私は、考える。

 このままではロークは死んでしまう。いや、もう手遅れかもしれない。

 だけど、何もせずに逃げるか。ソルトも言っていた。

 ここで、見なかったことにすれば……私は。



「やめろ!」


 でも、それは出来なかった。

 両手に剣を持ちながら。私は、ロークを守るように。

 鎖のメイドと王国の戦士の前に対峙する。

 怖い、怖くて頭がどうにかなっちまう。こいつらは、数も実力も私を上回っている。逃げていれば、安定した生活と王国にも行けただろう。


 でも、関係ねえよ! 目の前で苦しんでいる人がいる。

 しかも、そいつは私を助けてくれた恩人。

 それで、王国を敵に回して復讐を遂げようとしている。

 これは正義ではない。だけど、私はロークに恩返しをしたい!


 ここに、炎の剣士として私はこいつらを倒す!


「あらあら? またまた……ふふ、今度は元気のいい女の子ですね」

「何か、ニーナ様に似てないか?」

「あぁ、けどニーナ様よりはまだ貧相か?」

「すぐに終わらせようぜ? 勇者様もお待ちだろう……」


 舐めてやがる! 王国の戦士達は再び銃を構える。

 数は多い。そして、敵も強い。ローク……待ってろよ! 私が必ずお前を助け出してやる! 戦士達が銃口を向けた瞬間。


「剣技! 【炎の守人(ほむらのもりびと)】」


 銃声が鳴り響く中。私とロークに優しい炎が発生する。

 これは、攻撃用の剣技ではない。その名の通り、炎に包み込まれ盾のように扱える。銃弾は全て弾かれる。自動でそれは作られる。

 私が、初めて取得した剣技。これは……私のママが教えてくれた剣技。

 だから、こんな奴らに破られる訳がない! 気合いを込めて、私は対抗する。


「な、なに!?」

「あらあら? どうやら、ただでは終わらない相手のようですね?」

「今度はこっちから行くぜ!」


 炎の守人は継続しながら。ロークを守りつつ、私は駆け出す。

 撃て! と聞こえてきたが気にしない。

 銃弾は炎の守人が防いでくれる。だから、気にせず私は突っ込めるぜ。


 二刀流である私。剣を交差させながら、戦士を斬りつける。

 さらに今回はもう一工夫を加えている。


「ぐぁぁぁぁ!」

「どうだ! これが、私の剣術だ!」


 剣に炎を流し込む。これは普通の剣ではない。

 炎に耐えられるものであり、溶けることはない。

 この一か月。私は何かしななければいけない。

 だから、足りない頭で考えた。炎の剣士として何が出来るか?


 鉄の鎧も焼き尽くす。私が斬った戦士が倒れる中。


「この野郎!」

「何やってやがる! こんな餓鬼に!」


 両方から戦士が襲い掛かって来る。ち! やっぱり数では勝てないか。

 すると、剣に持ち替えて戦士達は迫って来る。

 銃だけではなく、近接武器も持っているのか。厄介だと思った。

 でも、私は迷うことなく、両手に持っている剣で受け止める。

 舐めんなよ! 私は、さらに炎を流し続ける。そして、再び剣技を発動させる。


「剣技……【炎雷(えんらい)】!」


 まるでそれは雷みたいに。戦士達に降りそそぐ。勢いよく炎は戦士達の上空に落とされる。剣に伝わった炎を使用して、それが上空にいく。

 そして、炎は形を変化して雷のように落下する。

 狙われた相手は、鋭い炎に焼かれ悶絶する。この場は軽い火の海となる。

 王国の戦士は動かなくなった。


 ――ふぅ、これならいける! 剣を構えて今度はメイドに向ける。

 数は多いと言っても、サタン火山の時よりは少ない。

 さらに、私自身も成長している。あの出来事があったから、強くなれたのかも。

 とにかく、これで王国の戦士達は処理する事が出来た。


 後は……。あのメイドだけだ!


「意外にお強いですわね? まさか、用意していた王国の戦士達が……」

「ちょっとどうするのよ? せっかく、入念に準備したのに!」

「ふふ、落ち着いて下さい! 私とリエル様……二人の力があれば勝てますよ」

「……それは勝ってからの台詞よ! とにかく、さっさと片付けましょう」


 どういうことだ? 敵はメイドだけじゃねえのか?

 すると、隣にいる女性。目を瞑りながらメイドの方を向く。


「魔術……【強化(ブースト)】」

「……? 強化? ということは……」

「ありがとうございます! これで、さらに強くなれます」

「流石にこれ以上は、強化の魔術はかけられないわよ?」

「えぇ、分かっています! 最初の戦闘で事前に一回……そして、今ので二回目! ふふ、私の鎖もこれで並大抵の攻撃では壊れませんよ!」


 そうか、だからロークの剣技が通用しなかったのか。

 どうやら、あの隣の女の人。補助魔術の中でもかなり上位のものを使用出来るらしい。

 攻撃だけが、全てではない。私の考えは甘かった。くっそ……そんなのありかよ!

 青白い光がメイドを包む。そして、ロークを翻弄させた鎖。それが、私に蛇のように迫る。

 けど、私だって炎が守ってくれている。焼き斬るか溶かすだけだな!

 私も剣で応戦する。こちらだって並大抵の物に通用する。


「はぁぁぁぁ!」

「無駄、ですね」


 ガン! と鎖はとても強度があった。通用、するはずだったのに。

 鋭く、勢いよく迫る鎖。それは、一瞬で私を拘束してしまう。

 手足を縛られ、これでは剣の攻撃は出来ない。

 やられた! 微動だにしない鎖。私の攻撃はいとも簡単に止められてしまう。


 ――完全に動きが停止してしまう。やばい、このままじゃ。

 必死に踏ん張って力を込める。だけど、ビクともしない。

 どうすればいい? メイドは止めを刺そうとしてくる。


「では、これで終わりです! さようなら」

「や、やめろぉ!」

「命乞いは見てて虚しいだけですよ?」


 すまん、ローク。私もここで……。

 鎖はさらに私に襲ってくる。今度は本当に何も出来ない。嬲(なぶ)り殺される。

 全力で戦った。剣技も使用した。だけど、相手の方が上回っていた。

 うぅ、助けたかった。勝ちたかった。こんな奴らに私は!


「……!? あ、あれは」

「ろ、ローク! 生きていたのか!」


 目を疑った。私の目の前に立っていたのは、ロークだった。

 血だらけだった。体全体が傷だらけだった。ボロボロなのに、ロークは立ち上がる事が出来た。

 それよりも、私は生きていた事に感動していた。大量の鎖を一瞬で斬った。

 あの女の人の強化の魔術を使用ししている鎖。かなりの強度なのは実感している。


 それを、剣でこの状態で相殺した。いや、やっぱりこいつは……あれ?

 おい、ローク? 何か、雰囲気が違くねえか?

 そこに私の知っているロークはいなかった。とても冷たく、近寄りがたい存在。

 どうしちまったんだよ。けど、これであいつらに勝てる……かも。


 目覚めたローク。私は感激していた。だが、目覚めた最初の一言が。


「全員、絶対にぶっ殺す!」

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