第87話 圧倒的な力の前では全てが無意味だった

 最大の復讐相手が目の前に現れた。

 サーニャを殺す為に攻撃した最大火力の剣技。

 それも簡単に弾き飛ばされてしまう。

 アイツが持っている黄金の剣。嫌なぐらい眩しい。

 ……何故、この場に現れた? いや、俺を殺す為に現れたという事なのか? 


「久しぶりだな! 相変わらず、醜い姿をしている」

「お前……何でここに来やがった?」

「何でか? そうだな、簡単に言うなら……お前にまた絶望を味わせてやろうと思ってな」


 あの時と同じだ。冷たい瞳で、まるで俺はそれに吸い込まれそうだ。だけど、あの時と違うのは。


「黙れ! もう、俺はそんなに弱くはない、それに知ってしまったからな……この世界は絶望しかない! 俺は、それに気が付いて強くなった! 今の俺ならお前にも勝てるぐらいに」

「そうか……それは結構なことだな! だがな……」


 勇者、パティの言っていた話が本当なら。

 こいつの力は偽物だ。勇者というのは嘘でこいつの真の力は別にある。……厄介な事に変わりはないけど、勝機はある。あのトリス村の戦いの続きだ。


 そして、勇者であるトウヤはその黄金の剣を上に掲げる。一瞬にしてそこに黄金の光が集まる。

 ……これは、あいつの剣技か? あの剣に自分の魔力を流して一気に放出するのか? 仕組みは俺の剣技と似ている。だけど、技の発動の速度も威力も俺のそれとは。


「俺の力はお前以上だ!」

「……!?」


 桁違いだ。

 瞬く間にその黄色の光は光線となって俺に放たれていく。その威力は周りの建物を粉々にしてしまう。

 寸前の所で回避をするが、やはり脅威なのに変わりはない。こんな街中でお構いなしに大技を繰り出すとは。こいつは、俺もこの街も地図から消す気なのか? 飛んでくる瓦礫を剣で払いながら俺は勇者の方を見つめる。


「ほぉ……俺の剣技を回避したか、やっぱりあの時よりは少しはやるようにやっているな」

「ちぃ……」

「しかし、影で見ていたがお前はまた失ったようだな? 大切な仲間とやらを」


 アイツはサーニャの方を一瞬に見て俺の方を見る。

 俺もサーニャも勇者の登場は予想外だった。

 ……都合はいいが、他に敵も居そうだな。

 しかし、さっき敵の一人は殺した。

 勇者であるあいつを何とかすれば勝機は……。


「それにしてもコルニーは派手にやられたようだな……が、それも関係ないけどな」

「……!?」

「助かりました、ありがとうございます」

「ふふ、感謝しなさい! かなり手傷を受けていたけど私には関係ないけど」

「こ、コルニー! ぶ、無事で……」


 目の前に集結してしまう。

 トウヤ、フローレン、サーニャ、そしてあれだけの傷を完全に癒えているコルニーという男。

 ふざけているな。俺は拳に力が入る。

 街はさっきのトウヤの攻撃で半壊している。

 ……こいつらこのセルラルを消す気なのは間違いない。


 民家の屋根の上にいる四人。

 そして、半壊した建物の下から見上げている俺。

 状況が違い過ぎる。……でも、俺にもまだ仲間が。


「それで、カゲノとサキの状況はどうなっている? まぁ、あいつらが負けるはずもないか」

「ふふ、それに紅の旅団も増援に駆け付けていたわ! 戦力も質も圧倒的にこっちが有利ね」

「そうか、ならこの戦いもすぐ終わってしまいそうだな」


 サーニャはすぐに自分の口を塞いだ。

 その理由は俺にも理解が出来た。

 あいつは、俺よりコルニーの無事を嬉しのだろう。

 それで、この場所に現れたフローレンとトウヤ。

 完全に不利なのは俺の方だ。


 この世界の敵を回しても対抗が出来る勇者。

 意味の分からない回復、蘇生の力のある女。

 かつての仲間であり、才能の溢れる炎の剣士。

 実力未知数だが、王国の戦士である男。


 大して、俺は何も持っていない。

 ただ、復讐心だけでここまでやってきた男。

 さらには、あいつらと違って隣で戦ってくれる仲間が今は居ない。


 勝機があるなんて、思った俺が馬鹿だった。


「これで力の差を理解が出来たか? 所詮は力がある者が勝って、弱者を制圧するだけだ……力や権力が無ければ守りたいものも守れない……今のお前のようにな」

「……お前は何が目的なんだ?」

「それをお前が知ったところで意味がない! 何故なら、ここで死ぬのだからな」


 あいつが合図を出した瞬間に。

 コルニーとサーニャは動き出す。

 他の二人は見ているだけか。

 畜生が、何でこうなる。向かって来る二人。

 特にサーニャの方を見ながら俺は剣を構える。

 その表情は悲痛ながらも俺を攻撃するのは止めない。そして、突然に俺の体は金縛りのような感覚に陥る。


 あがぁ……こ、これは。


「ふふ、別に近付かなくても……貴方を縛るのは可能なのよ?」

「金縛りか、どうやらあいつ一人では強力な魔術に対する抵抗は出来ないようだな」


 全く体が動かない。

 回避が出来るはずの攻撃も、回避が出来ない。

 左右から迫ってくる二人と剣。

 そして、弱々しく掠れた声が俺の耳に届いてくる。


「ご、めん……ローク」


 目を丸くしながら俺は左右から剣の攻撃を受ける。

 突き刺さったそれはとても痛かった。

 でも、痛みよりも心の痛みの方が強かった。

 あぁ、そうか……。ようやく分かった。

 口から血を吐きながら、俺を視線を下に向ける。


 全て無駄だったのか。

 自分が正しいと思ってやってきたのに。

 ……その結果がこれだ。

 一人で何とかなるとは思わなかった。

 だから、仲間を作ったのに。出来たと思ったのに。


「あーあ! ねぇ、見て! トウヤ……あんな風には絶対になりたくないわね? さてと! さっさと殺しましょう!」


 向かって来てない二人の会話が聞こえてくる。

 どうでもいい。やはり、俺はあの時に死ぬべきだった。パティ、悪いな。今度こそ俺は本当に……。


「それもいいが……おい、少しお前と話がしたい」

「……は?」

「こんな形になったが、俺がわざわざこんな街に出向いたのも……お前の影響がとても強い」

「何言ってんだ? お前と話す事なんて何もない」

「……最高戦力のニーナとシャノンを倒し、こうして俺を前にしてもまだ生きている、そんなお前に興味もあってな」


 話だと? 圧倒的な余裕から来た考えなのか。

 そう思うと余計に腹が立つ。

 気が付いたらサーニャとコルニーも俺から離れて行った。体の左右に剣が突き刺さっていて、金縛りで動くことも不可能。いつでも殺せるはずなのに……ちぃ! 手を抜かれていると思うと余計に。


「興味だと……」

「あぁ、そうだ! 想像以上にお前は力を身に付けていると思ってな、その上での提案なんだが……どうだ? 俺達と一緒に来ないか?」

「……ふざけるな」

「そうすれば、お前はまた仲間や愛する女と日常を過ごす事が出来る! こんな無意味な復讐を続ける必要も」

「ふざけるな、ふざけるな!」


 俺は大声でこの場で怒鳴る。

 無意味な、復讐だと? 誰のおかげでこうなったと思ってる! お前らのせいで俺は……俺は!


「俺の全てを奪ってきたお前に、そんな事を言う資格はねぇ! 今すぐにてめぇを殺したい! フローレン! てめぇも遠くから見つめてないでこっちに来い!」

「……トウヤ、何を言ってるのよ? あんな奴……殺した方が今後の為にも」

「まぁな、だが……俺は王国の平和の為に必要な人材を何としても手に入れる主義だからな! あいつも、その中に入っている」

「へ、平和ですか?」

「あぁ、コルニー、サーニャ! お前達も王国の平和と維持の為の人材だからこそ……引き入れた」


 平和だと? 笑わせるな。

 この街をこんなにした奴がよく言うな。

 お前達のやっているのはただの破壊活動。

 もう、俺には何も考えられない。


 ……クソ! どうすればいいんだ。


「そうだな、さて……話はもっとしたかったが、俺も時間がないからな……サーニャ、お前がロークを殺せ! いいな? それがお前にとって王国の大きな初仕事だ」


 こんな形で終わるのかよ? ぐぅ……あああああああああああああ! どうしてだ!!! うわぁぁぉぁぁぁ!


 俺は近付いてくるサーニャをただ待っているだけしか出来なかった。


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