第82話 絶対的支配者とコルニーの思惑
私達はセルラルに向かって行っている。
人員は私も含めてコルニー、カゲノ、サキ、フローレン。
そして、今回は驚く事にあいつもいる。
「ふぅ……そろそろ休憩しよう」
「はぁ? ここでかよ? セルラルまでもう少しじゃねえか?」
「今回は正面からは仕掛けない、仕掛けるのは隠れながら行う事にしよう」
そう、勇者であるトウヤが自ら戦場に来ていた。
いつもは国を守るなどの理由があって来なかったのに。まぁ、それはいい。だけど、もっと多くの人数で攻めると思っていた。それなのに、この場にいるのは6人。とてもじゃないが、舐めているとしか思えない。だけど、トウヤはいつもの余裕の表情をしながら。
「それに、この人数だ……後から追加の戦力を呼ぶとは言っても最初はこれで奇襲を仕掛ける」
「ふーん? 何でそんなに警戒してるの?」
「ふ……言っただろ? 俺の悪い勘はよく当たる! このセルラルについて妙な情報を聞いてな」
む……それは、【ヤミイチ】の事か?
それだったら私でも分かる。
そして、その私の予想は的中する。
「セルラルに送っていた諜報から聞いた話だが……元アレースレン王国の剣士が居るらしい」
「……!」
休憩中。私は口に含んでいる水を変な所に飲み込んでしまう。咳き込みながら、私は何でもないと主張する。トウヤは少しだけ私の方を見て話を進める。
「……そいつは俺も知っていたな、一人でとてつもない戦闘力を誇っているんだ……運が悪いとここにいる全員が相手にしても倒せない」
「はぁ? トウヤ……本気で言ってるのか?」
それは嘘じゃない。ヤミイチは一人でこの全員を相手に出来る力。いや、100人程度の完全武装の兵士が相手にしても勝てるだろう。それぐらいに強い。
実際戦った私だからその強さは保証する。
この場にいる人にそれは言わないけど。
でも、トウヤの読みは鋭い。そんな相手が街に居る事など普通は思わないからだ。
「あぁ、だから油断せずに奇襲で一気に叩く! 奴は仲間想いだからな……誰かが危険になれば自分の身を挺してでも守るだろう」
「……よく知っているわね? まるで一緒に戦っていたみたいに」
フローレンは薄気味悪い笑みを浮かべている。
ヤミイチは話してくれなかったが、トウヤと一緒に戦っていた。いや、それは想像が出来ない。
多分だけど、それは仲間として戦った。そうじゃなくて、敵として戦ったのか? 本人に聞きたい所だけど……今の私を見たらヤミイチは悲しむだろう。
本当に……行きたくない。戦いたくない。
そして、トウヤは私達にヤミイチとの過去を語り出す。
「あいつはアレースレン王国の元兵士だった……だけど、ヤミイチは冒険者としても活動していて、正式な戦士ではなかった」
「……兵士と戦士では何がどう違うのよ?」
そ、そうだったのか。ヤミイチにそんな過去があったとは思わなかった。元々口数の多い奴ではなかった。口が悪い部分もあったけど、決して悪い奴ではない。年齢は離れているがお兄ちゃんが居たら。あんな感じなんだろうな。
そして、フローレンは疑問をトウヤにぶつける。
兵士と戦士。トウヤはそこをとても強調している。
何の意味があるのだろう? どちらも意味合い同じのような気がするけど。
その何気ない質問にトウヤは笑う。
「ふ……それは俺に従順か、そうじゃないかだ」
「……え?」
「それは、トウヤさんに従うか従わないかで変わるという事ですか?」
「コルニー……そんな怖い言葉で考えなくていい! 俺は優しいから、本人にはあまり危害は加えないさ」
コルニーは声を震わせながらトウヤに聞く。
出会ってからあまり見ないコルニーの表情。
怒っている。表面上はそうは見えないけど、腹の底では煮え切れない想いがあるだろう。
そうだ、コルニーは王国に家族を殺されている。
救われた私とは違って酷い経験している。
だから、今のトウヤの発言は許せないんだろう。
実際トウヤに嫌われるか、好かれるか。
それによって大きく運命は変わる。
トウヤの言う【本人には危害を加えない】その言葉が引っ掛かる。……ヤミイチも何かこのトウヤにされたのは確かだと思う。
本当にロークとは全然違う。
こいつは他人を道具としか思っていない。
距離が近くなったから分かる。本当に地獄に堕ちるべきなのはこいつだと思う。
……って! 何を他人を悪く言ってるんだ。
自分も裏切った身だろう。
だから、この戦いで私は罪を償う。自分が出来る事は……ロークに。
「本人には? 僕の家族を殺したようにですか?」
「……こ、コルニー!?」
「はぁ? テメェ何言ってんだ?」
「……やめなさい、コルニー」
「ふふ、何か面白くなってきたんじゃないの?」
フローレンはとても楽しそうに聞いている。
この状況でも楽しめる神経が分からない。
サキはコルニーを止めていて、余計な事を言うな。
そうやって釘を刺しているように思える。
カゲノはコルニーの事情を知らないようで。口は悪いが心配しているように思えた。
意外にも仲間意識はあり、カゲノとサキはコルニーを思っている。ただ、切り捨てるだけの関係。
利用するだけではなく、しっかりお互いの事を思っている。この二人にもマガトの証はついているが、効力はとても薄い。だから、勇者であるトウヤにも意見を言えるのだろう。
しかし、トウヤは動じないでコルニーに安心させるように提案をする。
「それは仕方がなかった……俺だって巻き込みたくて、巻き込んだ訳ではない! 国の為に、民衆の為に、その生活を維持していくには、多少の犠牲はしょうがないだろ?」
「仕方がなかった……? それで済ますんですか?」
「まぁ、話を最後まで聞け……知っていると思うが、フローレンの力は人を生き返らせる事が出来る! それで、簡単に話すとお前の家族の体の一部分を王国に保管してあると言う事だ」
そのトウヤに言葉にコルニーは驚く。
それは、私だって同じだ。
フローレンの力は便利で強大。味方にしたら頼もしいけど、敵にしたら厄介。あの牢獄で聞いた話は嘘じゃない。トウヤは話を進める。
「非常に心は痛むが、君は家族にまた会える……と言う訳だ! だけど、それは今後の君の働き次第の所もある」
「は、働き次第……ですか?」
「あぁ、何を企んでいるか知らないが余計な事は考えない方がいい……なぁ? サーニャ?」
うぅ! バレていた。
私とコルニーの会話はどうやら筒抜けだった。
具体的な内容までは話していない。
だけど、私の部屋での会話は聞かれていたのは本当。クソったれ……私は唇を噛みながら悔しがる。
私達にもう自由はないのか? 確かに優雅な生活は出来るけど、私はそれは望んでなかった。
大切な人と歩む人生。それが私の理想だった。
でも、諦めている私とは違ってコルニーは力強く発言する。
「そうですか、それなら迷いません、僕は家族の為にわざわざここまで来たんですから……本当は家族を殺した貴方達に復讐するつもりでした」
「……っ! おい! やめろ!」
「だけど、本当に家族が生き返るならその必要はありません! 僕は目的のためなら何でもします!」
「ほぉ……」
ま、マジかよ。コルニーの顔には迫力があり、私には怖いぐらいだった。迷いのある私とは違う。
いつでもコルニーには覚悟が出来ている。
家族という何よりも大切なものの為に。
初めからコルニーは覚悟が出来ている。凄いや、ははは……とてもじゃないけど私には真似が出来ない。私の頭の中にはずっとロークがいる。
どんなに存在を消そうとしても駄目。
トウヤはそんなコルニーを感心している。
もう、王国の為に尽くすと。コルニーは覚悟を決めている。……私も迷うのをやめないと。
でも、一瞬だけ私は見逃さなかった。
コルニーは私の方を見て微笑んだ。
……何だろう? 何を伝えたいんだ?
その顔は今までの表情より優しくて、言葉にしたいが出来ない。
だいぶ前の話だけど。私は親に【人の気持ちに敏感】と言われた覚えがある。頭は悪いけど、人の感情や本音が見えやすいらしい。ほんの少しの変化で相手の感情の変化を読み取れる。
だから、コルニーの僅かな変化も感じ取れた。
他の人は気付いてないけど。いや、私にだけ向けたもの。それに、コルニーは私に気付いて欲しかった。何故だ? ……分からない。だけど、あいつは私を庇い続けている。自分の身が危険になるかもしれない。
「まぁ、いい! コルニー……特にお前には期待してるぞ! よし、そろそろ行こうか……戦場に!」
こうして私達はセルラルに向かって行った。
しかし、待っていたのは私にとって最大の地獄だった。
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