第38話 シャノンとの再会


 夜が更けた後。俺とサーニャは遂に【スリムラム】に到着した。

 セルラルとは比べ物にならないぐらいの大都市。

 森を抜けて、少し歩いたらローブを着ている人物が多かった。

 恐らく、スリムラムに向かう人なんだろうな。


「すっげぇな……セルラルとは大違いだ」

「……あんまりはしゃぐな? バレたら大変なことになる」

「てか、大丈夫なのか? これだけの街だったらもうバレちゃってる可能性もあるけど」


 顔まではバレていない。

 そうだったら、通り過ぎて行ったローブの魔術師と戦闘している。

 それが起きてないって事は、まだ大丈夫なはず。物凄く曖昧だけど。

 今後は、俺の名前ではなくサーニャの名前を使っていく。

 宿屋とか何か名前が必要な時。必要最低限以外は、なるべく名前を使用しない方針にした。

 とは言っても不安要素は多い。


 とにかく目立ち過ぎる行動は駄目だ。セルラル以上に影で動かなければならない。

 かなり大変だがこれも仕方がない。

 そうこうしている内に、俺達はスリムラムの前まで来る。

 到着するなり、門の前で空を飛んでいる人達を見かける。

 隣でサーニャが騒いでいる。俺も初めて見たが、あんなに器用に飛べるもんなんだな。

 絨毯を浮かせたり、ほうきで飛んだり。別世界に来たような感じだった。


 そして、門を潜ると……。


「うっわぁ! おい、見ろよ!」

「これが魔術の大都市か」


 辺り一面、魔術師だらけだった。

 凄い、一言だった。初めて来る街だからか。俺は珍しく純粋に興奮気味だった。

 そして、俺達は突然声をかけられる。


「旅のお方ですか? ようこそ、魔術の都市スリムラムに!」

「……どうも」


 どうやら、遥々と旅に来た人を案内する女性のようだ。

 バレたんじゃないかと不安だった。

 しかし、俺の顔を見ても動揺していない。だから、これでいいのか?

 まぁ、本とかでしかこの街の事を知らない。聞いておきたい事はたくさんある。

 俺とサーニャはその女性の話を聞く事にした。


「この街は見ての通り、魔術が生活の原動力となっています! 世界でも有数の魔力量を誇っていて、魔術師を志す人が多いのも特徴ですね」

「おぉ、見ろよ! 人がいないのに物が運んだり、水が空中で浮かんで器に入ったり……どうなってんだ?」

「あれは、自動魔術と言われるもので、皆さんが蓄えて下さった魔力を使わせて貰って……あのような動きを可能としています」

「へぇ! 凄いな! 流石は魔術師の都市だけあるよな」


 女性はサーニャと笑いながら話している。

 確かに凄いな。この都市全体が魔術と魔力で成り立っている。

 剣士などはいない。本当に魔術師だけが集結している。

 しかし、ここで引っ掛かる事が一つあった。

 それは、【魔力を蓄えているという】ここの女性の言動だった。


「俺達はこの街の事について何も知りません! 失礼ですが、その魔力を蓄えているというのは……誰の、どういう場所で蓄えているのですか?」

「それは、魔術師の皆さんで、そして、それはこの都市の聖なる場所……【始まりの時計塔】と呼ばれる場所で、蓄えられた魔力がこの年に放出されているという事です」

「始まりの時計塔……」

「丁度、こちらの都市の地図を渡しておきます! 時間があるなら観光も兼ねて、行ってみたらいかがですか?」


 俺とサーニャはスリムラムの地図を渡される。大都市なだけあってセルラルより細かい。

 女性の言っている【始まりの時計塔】それは、このスリムラムの中心部にある。

 恐らくだけど、ここで魔力を何らかの方法で蓄える。そして、放出してさっきみたいな自動化を可能としているのか。上手く出来た仕組みなんだな。

 隣にいるサーニャは興奮して、地図を何度も見直している。……可愛い奴だ。


 しかし、この女性の歯切れが悪い。最初に出会った時よりも。

 終始、笑っているがぎこちない。色々と裏切られてから、洞察力が磨かれたと思う。

 それに、敢えて俺の事を知っている。でも、対応は優しい。うーん、警戒はしといた方が良さそうだ。でも、せっかくだし後で行ってみるか。気になる所でもあるし、単純に見たい。


「そうですわ! もう少しでこの都市でパレードがあるので、見に行かれたらどうですか?」

「パレード?」

「えぇ! この大都市が誇る一大イベントです! 今日の夜……定期的に開かれるんですが、せっかくですし見に行かれたらどうですか?」

「おぉ、いいな! なぁなぁ見に行こうぜ! パレードとか一回も見たことがねえし!」


 あぁ、分かった分かった。サーニャは俺の腕を引っ張りながら駄々をこねる。

 パレードか、イベントは多いな。

 でも、もしかすると何かを掴めるかもしれない。見る価値は充分にあると思うな。

 夜という事はまだ時間はある。その間に、色々と宿とか物資などを確保しておきたい。

 サーニャの押しの強さ、そしてパレードの重要度。

 総合的に判断して俺はパレードを見る事にした。


「パレードは大広場で行われます! 華やかな衣装に、優秀な魔術師さん達が、魔術を駆使して盛り上げてくれます!」

「……それは楽しみですね」

「えぇ、旅のお方は是非楽しんで下さいね! では、ご機嫌よう!」


 女性はロングスカートの裾を上げて丁寧に別れの挨拶をする。

 ……というかこの格好は目立つな。俺とサーニャは完全にこの都市では浮いている。

 服も買った方がいいよな。これでバレたら本当にどうしようもないからな。


 それにしても、パレードか。村に居た頃は軽くそういう事はした思い出がある。

 普段よりも豪勢な食事。あの女性も言っていた華やかな衣装。

 ……取り敢えず、夜までに色々と買い揃えておくか。


「なぁ、ローク」

「何だよ、まだ何かあるか?」

「いや、いい匂いがするんだけど何か食べて……」

「分かった、俺も腹は減った所だ」

「わーい! 流石は話がはやいよな」


 俺達は夜のパレードまでに色々と準備をすることにした。

 サーニャは食べる事しか考えていないようだが……。









 スリムラムの夜は長いという。

 俺達は服装をこの都市に合わせた格好をする。

 確かに、この都市の盛り上がり具合は半端ではない。

 パレード前ではあるが、それを差し引いても凄い。


「これ、フカフカで暖かい……これ、どう思う?」

「あぁ、似合っていて可愛いぞ」

「……っ! そ、そんな事言うな」

「……? 別にいいだろ、本当の事を言ったまでだ」


 俺は地味系の緑を基本としたローブ。サーニャは少し派手な赤色のローブだった。

 よく似合っているから、可愛いと言っただけなのに。まぁ、いいか。

 照れくさそうにしているサーニャを引き連れて。俺達はパレードが開催される場所に向かう。

 大広場は普段は子供から大人まで休憩に使われる場所。

 しかし、今日はパレードの開催場所に使用されるという。

 人の波が凄い。どうやら、この場所らしいな。

 しかし、これではサーニャとはぐれてしまう。


「サーニャ、掴まってろよ」

「お、おい! ……分かったよ」


 思わず、俺はサーニャの手を握ってしまう。

 抵抗は多少はあったが仕方がない。迷子になったら面倒だからな。

 それにしても、こいつの手は小さくて温かい。

 何かサーニャは掠れるような小さな声で、何かブツブツと言っている。

 それにしても、この温もりは何だか安心する。気持ちが落ち着く。別にいやらしい事は……考えていない。

 とにかくもう少しで始まる。俺は、結構楽しみな気持ちがあった。


「さぁ! 皆さん! お集まり頂いてありがとうございます! 今回もたくさんの参加者、そして観光されている皆さん……感謝の気持ちで一杯です!」

「あ、あの人って……さっきの」


 やはり何か関係していたか。隣でサーニャが驚く声を上げる。

 あれは俺達に話しかけて、パレードの事を話した女性。

 ということは、やはり何かあるのか? このパレードで俺にとって重大な……何かが。

 進行役の女性は、笑みを浮かべながら話している。不気味だな。

 そして、この場の盛り上がりはさらに上昇する。


「今回は、このスリムラムのパレードが開催されて以来……魔術師の技量、人材も豊富でかなり楽しめる内容となっております! それでは……まずは! 代表として若いながら! このスリムラムの教師として活動していて……【魔女】の称号を得ているあの方」

「何か凄そうな人が来そうだな」

「……あぁ」


 まぁいい。今日は楽しむとしよう。

 せつかくの機会だし、何があってもな。

 俺は、女性の話を聞きながらそう思った。

 だが、俺にとっての本番はその後だった。


「さらには、あの【天職】のスキルを授かり、勇者様の側近であり……」


 ……は? お、おい。それってまさか……。

 聞き間違いだと思った。いや、有り得た可能性。どうしようもなく、俺は動揺していた。

 まさか、その思いが強かった。女性の紹介通りだったら。俺の知っている人物で一人しかいない。


 あいつだ……天職で【古の魔術師】という強大な力を授かったあいつ。


「そう! 教師であり、魔女である……シャノンさんです!」


 すると、黒い光と共に。あの日から変わっていない。

 その姿が俺の前に現れる。

 黒いロングスカートに、束ねた金髪色の髪。雰囲気は多少は変わったが、俺には誰だか分かってしまう。それを見た瞬間、俺から楽しむという感情が消え失せる。

 童顔だが目付きがあの日よりも、強くなっている。自信に満ち溢れているような……。


 そして、あいつはこの大勢の観衆の前で挨拶をする。


「どうも……シャノンです! 今日は楽しんで言って下さいな!」


 歓声が大きくなる。シャノンは丁寧にスカートの裾を上げて頭を下げる。

 だが、俺はどうしようもなく、膨れ上がっていた。


 ――――殺す、殺してやりたい。


 俺は気が付けばサーニャを握る手を強くしてしまっていた。

 そして、感情の昂ぶりが抑えられず。

 剣を引き抜こうと、どうしようもなく、暴走しそうになっていた。

 突然のシャノンとの再会。それは、俺の闇の力を発動する引き金になってしまった。


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