第62話 フローレンと赤い紋章
「キリがないな……」
「あぁ」
俺とエドワードはこの大量に発生したゾンビに苦戦していた。
時間帯は夜で視界も悪い。さらにはこの森。
状況も展開も最悪だけど、ここで立ち止まってられない。
「エドワード……こいつらを動かしているって事は……操作している奴がいるってことだろ?」
「そういうことだ」
「だったら、そいつを倒さないと話にならないんじゃないか?」
「……それも見越している可能性もある! これだけの魔術を使うって事は……相手もかなりの手練れだろうな」
つまり、罠にハマる可能性もあるって事か。
……なるほど、厄介な相手だ。
でも、倒さないと先には進めない。
休みは俺達に与えてくれない。ゾンビは俺に襲い掛かってくる。
無駄だ。何度やっても同じだ。
数は多いが、強くはない。
剣で首を斬り落とし、手足を削げば動きは止まる。
それでも、こんな消耗戦は長くは続けられない。
「ぐ……おい、ローク! お前は、これを操作している奴を探しに行け!」
「は? でも、それじゃあ」
「このままやってても、先に潰れるのは俺達だ! 確かに強力な相手に変わりはないが……これだけの数を操作しているって事は、術者も近くにいるはずだ」
エドワードは若干息切れしながら俺に話しかける。
本当にそうだ。このままじゃ、俺も、エドワードも、サーニャも終わりだ。
敵も疲れた所を狙うはずだ。
そう考えると、今回の敵はバリバリの戦闘タイプでは無い。
あの二人のように、前線には出てこないようだな。
だったら、見つけたらすぐに殺す。
「分かった!」
「余裕が出来たら馬車の中で寝ている二人も起こしてお前の所に向かわせる! 無理はするな」
「ああ、ありがとな!」
俺はエドワードを信じて森の奥まで駆けて行った。
待ってろよ、すぐに見つけて出してやるからな。
感じる。やはり、力が蓄えられてきたのか?
俺は僅かな魔力な反応から確かな反応の場所まで。
一直線に向かう事が出来た。
これが、俺の真の力だとしたら。今までの出来事は何だったんだ?
……茶番だな。俺は、変わろうとしている。
そして、そして……あ?
その時に聞こえてきた歌。
俺はそれに全てを奪われる。
視覚、聴覚、考え。あぁ、なるほどな。
まさかとは思ったが、本当にそうだったのか。
苛立ちが隠せない。そして、透き通る程に美しい声。
それもこの声に聞き覚えがあるからだ。
木の上から聞こえるその声。
俺は振り向く事をせずに。俺は軽やかに歌っている人物の名前を呼んでやる。
「久しぶりだな……フローレン」
「あら? あらあらあらあら! 誰かと思えば……」
「これで三人目だ、やっと会えたぞ! このクソ野郎!」
我ながらこんな表情を披露するとは。
鏡で見えないのが残念なぐらい。
酷く、見るにも堪えないものだ。
どちらが極悪人か分からないぐらい。
いや、俺はもう手遅れだ。とにかく俺はこいつを……。
「殺す! 絶対に」
「……ふふ、変わらないな相変わらず」
「そっちこそ……憎たらしい程に」
「でも、その前にお互いに久し振りだし、少しお話をしないかしら?」
「は? お前と話す? そんな事に意味があるのか?」
「そうね、強いて言うなら私達の事、そして、勇者と私達の真実……かしら?」
どういうことだ? 今更何を言っているんだ?
するとフローレンは木の上から降りてきた。
両手を上にあげてこちらに敵意はない。
そういう意味だったが、俺はすかさず剣を取り出す。
「落ち着きなさいよ」
「……ふざけるなよ! 今更、そんな事を言われても、はい! そうですか! と言えるか!」
「ふふ、そうね、だけどそれはこの話を聞いてからにしましょう……今日はいい月が空に出ているわね」
フローレンは笑った表情を崩せない。
三姉妹の中で年長者で考えが読めない。
少しでも情報が得られるならばそれでいい。
その後でこいつを殺せばいいのだから。
でも、どうなんだ? 一体、何をこいつは知っているんだ?
「そうね、何から話せばいいかしら? そうね、まず……ニーナ、シャノン、そして私も含めてあの勇者に好きで従っていた訳じゃないの」
「……は?」
「ふふ、当然の反応ね、そうね、私達は運が悪かった……と言えば話が速いかしら?」
運が悪かった。フローレンはそう言っている。
けど、それで納得が出来るはずもない。
それに、好きで従っている訳じゃなかった。
そうやって言うんだったら、気になる事は数えきれないぐらいある。
「じゃあ、何で……俺を裏切った? 俺と一緒に付いて来なかった?」
「……裏切った? ふふ、それは話が違うわよ、ローク」
「なに?」
「あの日に貴方は私達を勇者に賭けた、そして無様に勝負に負けたのよ! 本当に大切だと思っているなら、そんな無謀な賭けをしないはずよ」
フローレンから笑みが消える。
何なんだそれは。確かに、俺はあの日負けた。
トリス村で現れた勇者に。あの時の俺は焦っていた。
大切なものを奪われないように。だから、あんな無謀な勝負を持ちかけたんだ。
そして、フローレンは俺にあるものを見せつけてきた。
服を若干はだけた先に見えたもの。
それは、赤色の紋章。とても、禍々しい見た目をしている。
これが何を意味するのか?
「……これが、私達を縛る紋章【マガトの証】と呼ばれる勇者の証よ」
俺は知らなかった。知りたくもなかった。
どこまでいっても勇者からは逃れられない事実を。
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