第61話 ドワーフの森の戦いと揺れない言葉
「この馬車の乗り心地はいいな! 馬も品種がいい!」
「一応、この時の為に準備はしておいた」
「がっははは! 流石は氷の魔術師! 準備がいいな!」
うるさいな……眠れないじゃないか。
俺はガルベスの大声に起こされた。
現在の時間は夜。
俺達はスリムラムを後にしてこの『ドワーフの森』を馬車で進行していた。
時間はあまりなかった。だから、最低限の準備はしてすぐに出発した。
……気持ちの準備は出来てないかもしれないが。
隣で気持ちよさそうに寝ているサーニャを見てそう思った。
「これでも、時間が足りなかった……もう少し準備の時間は欲しかった」
「ん……まぁ、十分だろ? お、ローク? 起きちまったか?」
お前の声で起こされたんだよ。
結局、ガルベスは紅の旅団の団長として付いて来たというが。
自分の旅団は大丈夫かと……思ったがこの森で合流予定らしい。
合流したら、俺達に味方してくれるとのこと。心強いかもな。
とにかく、この森を越えれば……遂に『アレースレン王国』の付近まで到着する。
何もなければいいが、そう簡単に進ませてはくれないだろう。
「いや、あまり眠れなくてな」
「おいおい、ゆっくりしろよ……ふわぁ」
「……ガルベス、眠たかったら代わってもいいぞ? 一度、起きたら眠気が完全に覚めた」
「お、いいのか? 正直、最近戦い続きで睡眠時間が足りなくてな……」
一応、敵や魔物の襲撃も予測して二人体制で交代で見張っている。
……何故だか知らないがあまり睡眠が必要ない体になっているのか。
スキルの影響か? 力が強まった影響か。
強い奴との戦いで何かが起こっているのか。
今後の戦いで何が起こるか……自分でも分からないのが現状だ。
「ローク、お前……何かあったのか?」
「……いや」
「サーニャか」
「……は?」
いやいや、何で知ってんだよ。誰にも言ってないのに。
見られてた? いや、そうだとしたら恥ずかしい。凄く、恥ずかしい。
今の自分の顔を鏡で見たら……めちゃくちゃやばいだろうな。
自分の顔の熱が嫌でも伝わってくる。
「……バレたくないならもっと上手くやれ、あの夜にお前とサーニャが時間差で出て行く所……バレバレだったぞ」
「まじかよ……」
「というか関係の進み具合が遅過ぎる……てっきり俺は既にそういう関係だったと」
「うるせーな! 何だよ、俺をいじる為に話しかけたのかよ」
おっと、俺が声出したら今度はサーニャが起きてしまう。
静かに、冷静に対処しろ。
何なんだよ、こいつは俺を馬鹿にしているのか。
そういう話はもっと落ち着いた場所でして欲しい。
文句を言いそうになったがエドワードが俺に話しかけた理由は他にあったようだ。
「まぁ、それはいい、一応確認をして起きたかった……お互いの関係性は把握しておきたかったからな」
「どういう意味だよ……焦らすな」
「これでお前には守るべき存在が出来たんだ……もう、これからは無理はするなよ」
「……いや、それは」
保証は出来ない。口には出さなかったがそういう事だ。
これから敵はもっと強くなるし厄介だ。
だからこそ、多少の無茶は承知で挑まなければいけない。
「それは出来ないって言いたそうな表情だな?」
「……」
「まぁ、今はいい! けどな……それで死んだらすべて終わりだぞ」
分かってる、そんなの分かってるけど。
止められない、絶望的だった。目的を果たすのは。
だけど、ここまできたら必ず討ち取りたい。
……エドワードは心配してくれているのか? いや、そこまで……まだ長く時間は過ごしていない。
こいつも、俺も、結局は一時の利害が一致している共闘関係。
サーニャはともかく、ガルベスも本心は分からない。
「あぁ、それと……言っておくが、お前と過ごした時間は短くてまだお互いの事は分かっていない……だから、何かあったらすぐに教えてくれ!」
「……え?」
「当たり前だろ、そうじゃないと機能しない……お前も俺もお互いを信頼して初めて本物の力となる」
淡々とエドワードはそう言っている。
こいつはちゃんと理解している。
チーム、組織、仲間というのを。
これからは一人の力を磨くだけではなく協力していかなければ勝てない。
そう、エドワードは言っているのだろう。
だからこそ、細かい点などを教えて欲しいのだろう。
「その点、お前とサーニャは安心だな」
「うるさい、もうそれはいいだろう」
「ふぅ、というか俺が居なかったらこういう話もしなかったんだろうな……言っちゃ悪いが、この二人は感覚派……恐らくだが戦術とか戦略は行き当たりばったりだろうな」
ガルベスはもう寝ている。
よっぽど疲れていたのだろう。
サーニャは起きる気配もない。
確かにこの二人は元気はいいけど頭はあまり良くない。
そう考えると、エドワードの加入はとても大きいな。
「確かにな、今までがむしゃらに戦ってきて考えられなかったのもあるかもしれないけど」
「……まぁ、あまり偉そうな事はあまり言えないが最後にこれだけは言っておく」
「え?」
「揺れるなよ、あの時計塔でも言ったが何があってもまずは自分を見失うな」
「それって」
「戦いの中でもそうだが、数々の選択肢の中で俺達は生きている……私情を挟むとは言わないが、それはいざという時に迷う事になる、だから……自分の考えや意志は常に持っておいて揺れるなって事だ」
「……そうか」
エドワードは目を瞑りながら俺に真剣にそう言ってくれた。
色々と思う所もあると思う。
けど、俺自身にここまで言ってくれる人物は中々居ない。
揺れるな、か。復讐とは言っても今まで迷う事もあった。
だから、このエドワードの言葉。そして、考え方。
今の俺にとって凄く重要で大事な事だ。
「だから……ん?」
「どうした?」
「ローク、話はここで終わりだ! 何か来るぞ」
馬車を止めて俺とエドワードはそこから降りて状況を確認する。
気配は感じた。それはエドワードも一緒だろう。
これは、魔物か? いや、反応が異質だ。
何なんだ? サーニャとガルベスは起きていない。
それ程に静かで僅かな反応だった。
「妙だな、姿が見えない」
「……あぁ」
「この森自体あまり視界がよくない……それにこの時間だと視野は狭くなるだろうな」
「だけど、この殺気は本気だろうな……いつでも攻撃出来る態勢に」
その予感は的中する。
うぉ、何なんだこいつら。
……死体? 地面から何体か出てきやがった。
服ははだけて、体全体の色がおかしい。
手足も関節が外れたような感じになっており正常ではない。
もう敵が襲ってきているのか? タイミングが良すぎる。
恐らくだけどここからはさらに強敵揃いとなる。
だから、動揺してる場合ではない。
「エドワード! これ、何かで動いているのか?」
「……恐らくだが死体操作(ネクロマンサー)で動かしているのだろう……」
「死体操作!? おいおい、マジかよ」
「俺も直接は見た事はないが学んだ事はある……性質的に暗い場所では活動出来るが明るくなると溶けて実体がなくなるらしい」
なるほど、だからこの時間帯なのか。
さらにエドワードの話では一体一体はそんなに強くはないとのこと。
段々と数は増えてくるがその話を聞いて安心した。
「だったら、速攻で片付けるのが……いいな!」
「だな、でも、気を付けろ? 敵が仕掛けてきたって事は……さらに増援が来る可能性が高いってことだからな」
「分かった、いくぞ!」
ドワーフの森での戦いが始まった。
しかしこれをきっかけにさらに敵が集まって来るのだった。
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