第63話 マガトの証と両親と決別
「マガトの証……そんなもの聞いた事がないな」
フローレンの話を半信半疑で聞いていた俺。
その体に付いている赤い紋章。
それで、全てが狂ったのか? それが全ての元凶なのか。
分からない。俺には分からないぞ。
「頭を抱えるのも無理はないと思うわ、だってこの事は一部の人しか知らないもの」
「……それを何で俺に教える? お前らにとってメリットは一つもないだろう」
「メリット……そうね」
今更何を言っている。お前が俺に重大な秘密を話した所で意味がない。
その、マガトの証で洗脳されていた。
だから、私は悪くないって言いたいのか?
そんな理由で今までを全否定する訳にはいかない。
例えそれが真実でも俺は認められない。
フローレン……お前の顔は綺麗だな。
この月に照らされてさらにそう見える。
けど、それに翻弄されてはいけない。
こいつは……俺に嘘をついている。それもまた致命的なものだ。
「情報を与えるって事は私は貴方に敵意がないって事! また一緒に暮らせる、また一緒に戦える! それでまた……家族になれるのよ」
「……」
「マガトの証の効力はあの忌まわしい勇者が消えれば無くなるわ! だから、一緒に戦ってあの憎き勇者を倒すのよ! 失った時間を取り戻すのよ」
馬鹿だな、フローレン。
そんな見え透いた演技。心の声が駄々洩れだ。
余計な言動は命取りだ。
そして、今まで選択を求められてきた俺にとって。
今の目の前のフローレンは恐ろしく……。
「愚かだな」
「……っ!?」
「お前が幾ら理想を語ろうと……俺が、何人殺してきたか分かるか?」
後戻りは出来ない。
お前がどれだけ戯言を言おうとだ。
気が付いたら俺はフローレンの胸を剣で突き刺していた。
血に染まるその手は決意の証だった。
「……交渉は決裂のようね」
「……なに?」
「ふふ、最初からこうなるとは思っていたけど、ローク……残念ね」
こいつ、体が溶けて……初めから正面から話すつもりはなかったか。
地面に泥のようにフローレンの体が流れ落ちていく。
全ては俺と話す為にだったのか?
いや、そんなはずはないはずだ。
恐らくだが俺とエドワード達を分断する為か? 戦力の分散と考えたら納得がいく。
とりあえずまだ話したい事はある。
フローレンの本体を見つけないと意味がない。
……何かいい方法はないか?
もう一度エドワード達の元へ戻るか。
「ろ、ローク……」
「あ、あぁ、ろ、ロークなの?」
聞き覚えがある声。それに俺は思わず反応する。
いや、まさか……そんなはずが。
まさかこいつらがこんな場所にいるはずが……。
常識的に、いや普通の考えでは駄目だ。
ここまで、俺は常識が通じない出来事ばかりだった。
受け入れろ。そして、立ち向かわないと。
「どうしてこんな場所にいる……父さん、母さん」
衣服はボロボロで表情に余裕がない。
見た感じ相当疲れているのか。
命令でこの森まで来ているのか。可哀想にこれもあの勇者の刺客か。
俺を動揺させて、焦らせる為に。
畜生、使える駒はとことん使っていくつもりか。
ある意味、この二人も被害者なのか?
いや、そんな言葉で片付けるつもりはない。
「どうして……それは」
「ローク! 貴方を助けに来た! もうあの王国は駄目よ! 全てはあの勇者に支配されてるのよ!」
「はぁ……」
だったら、今まで何をしていたんだ?
手紙の一つでも寄越せと言いたい。
確かに原因は勇者であの王国に原因があると思う。
でも、全てをそこに向けてしまっては……俺の怒りの矛先が分からなくなる。
「いや、それだったらどうしてもっと早く助けに来てくれなかった? そのチャンスは多くあったはずだろう?」
「そ、それは……」
一歩ずつ進んで俺は両親を問い詰めていく。
こんな両親は見たくはなかった。
育てるはずの子供に追い詰められていく姿なんて。
これが親なんて想いたくもないが。
とにかく、こいつらに俺を助ける気持ちなんて微塵もない。
感じるんだ。心を通じて。表情、声の震え、全てにおいて、結局こいつらの言葉は薄っぺらい。
「……さっき、フローレンと会ってな」
「……!? 何か言っていたの?」
「あぁ、私達はマガトの証で操られていたと言っていた……体につけられた赤い紋章だ! 二人とも、何か知っているのか?」
知っているよな、教えてくれるよな?
だって、二人は俺の両親なのだから。
親だったら自分の子供の事を第一に考えてくれるはずだ。なぁ、そうだよな? だから、教えてくれ。
二人は黙り込む。
フローレンと聞いて驚いているだろう。
俺からしてみれば、フローレンがこの場所に居たから驚いている。そう見えて仕方がなかった。
「そ、それはだな……話すと長くなる」
「だから教えてくれって言っているんだ」
「ど、どうして? そんな事を知りたいの? そ、それよりも、お腹が空いたんじゃないの?」
「あのな!? 俺の質問に答えてくれよ!」
何を言っているんだこの二人。
俺は思わずこの場で叫んでしまう。
返答が曖昧な二人に俺は感情を爆発させてしまう。
教えてくれない。お腹など今までの出来事で一杯だ。
これ以上俺に何も食わせないでくれ。
「お、落ち着け! ローク! 俺達にも立場って言うものがあるんだ」
「教えたいのよ! だけど……そうすると、私達の身も危なくなるのよ」
「は……? どういう事だよ?」
「……それは、俺達にも」
その瞬間だった。突然、口を開いた父親の体が弾けた。
両腕が地面に落ちて、目の前が赤く変色した。
どうやら、マガトの証は秘密を話すと消される。
だから、話せなかったのか。なるほど、クソだな。
弾けた男の肉片は緑を赤くさせる。
「あ、あなた……」
「ほ、ほら、こうなるから……話したくなかった」
「……そういうことか」
「そういうことって、貴方はこれを見て何も思わないの? 私達を追い詰めるだけ追い詰めて! 恥を知りなさい! だから、貴方は村からも追い出されて、そんな惨めな生活を歩んでるのよ!」
「お、おい、これ以上やめろ」
マガトの証には制約がある。
人によると思うが、それを知れただけでいい。
少しは信じようと思ったが、それも無駄だった。
時間が流れて場所が変わろうと同じだ。
「そっくりそのまま返してやるぜ」
躊躇はしない。
剣で斬りつけて母親の腕を狙う。
父親同様に腕が飛んで、この森に悲鳴が響き渡る。
普通だったら悲しむ場面なのに。
想像以上に清々しい気持ちだ。
惨めな人生なのはどっちだと?
確かに今の俺は世界を敵に回して戦っている。
這いつくばって敵うはずのない敵に挑もうとしている。
無謀だ。だけど、付いてきてくれる仲間もいる。
そんな証に縛られて生きているよりは、生きている。
その実感が強くある。
「がっあ、ろ、ローク」
「な、なんで、私達を」
「父さん、母さん、ここまで来てくれて悪いけど、もういいよ、俺は……俺の道を進み続けるよ」
「そ、そんなのできるわけ」
「出来るさ、俺がそう決めたんだからな」
……行かないと。
後ろから色々と聞こえるけど、無視しよう。
もう何かに縛られて生きるのは御免だ。
自分の意志でしっかりと行動する。
今まで育ててくれてありがとう二人とも。
例え、二人がハッピーエンドにならなくてもそれは俺には関係ない。だって、そうしたのは二人なのだから。
選択の間違いがこうなってしまった。
それは俺にも言えるけど。
とにかく今は……フローレンをぶっ潰す。
そうしないといけない。そうしないとここまでが嘘になってしまう。
何処にいる? フローレン。
必ずお前も見つけ出してやる。偽物ではなく本物を。
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