第65話 復活と裏切りの前触れ

「戦っているのか?」


 別の場所から戦闘音が聞こえる。

 多分、エドワード達が戦っているのだろう。

 俺もはやく行かないと、敵は増えていると思う。

 斬撃の音が複数ある。全く厄介だな。

 でも、俺にもやる事はある。フローレン、一体何処にいるんだ? 放置しておくと、また死体を操作する可能性もある。もう、消耗戦はしたくない。


 ……感じろ。僅かに残っている魔力からフローレンを探し出せ。この力は経験と時間と共に強くなる。

 数々の戦いで俺の眠っている力は本物になりつつある。

 この千里眼のような力も副産物なのか? 分からない事が多いが、とにかく今はフローレンを倒す。


 それは波紋のように俺の体内に流れてくる。

 波が発生するように。目を瞑りながら、気が付いた時にはフローレンの場所を察知が出来た。


「……そこか」


 低い声でそう言って俺はその場から駆け出す。

 見つけた。そこで、静かに潜んでいるのか?

 そうやって安全な位置から俺達を殺そうとしているのか? フローレン、昔からそうだったな。

 一歩後ろからそうやって俺達を見ていた。

 自分は何もせず、上手い汁を吸っていた。許されるわけねえよな、そんなの……卑怯だよな?


 雑木林を剣で斬っていく。この先に憎悪の対象があるなら、多少の傷は我慢が出来る。

 暗く、険しい道を駆けて行ったその先には。


「見つけた」

「……ふふ、見つかっちゃった」


 上空から一気に俺は剣を振り下ろす。

 暗闇の中でも一段と光のように輝いて見える存在。

 宝石のように美しい彼女は、俺にとっては薄汚い石のようだった。その辺に転がっている小石の方がマシだ。


 この距離、この間合いならいける!

 戦闘タイプではないフローレンなら……これで充分だ。


「でも、負けた訳じゃないけどね」

「……は?」


 受け止められる。いや、それはいい。

 だけど、どうして……お前がここにいる。

 動揺していると俺は吹き飛ばされる。

 痛い。顔面を勢いよく殴られて何とか受け身を取る。

 何とかこの状況を理解しようとするが追い付かない。


 いや、あり得ない。お前はあの時、俺が倒したはず。

 どうして、生きている。


「ニーナ……どうして、お前がここにいる?」

「はぁ!? それはてめぇのカスみたいな頭で考えろ! それとも、久しぶりの再会で感動しちゃったのかな?」

「いや、俺はあの時に殺したはずだ! どうして、こうやって目の前で話している!」


 確かにニーナだ。声も姿も綺麗に元通りになっている。

 こ、こんな事信じられるか!? せっかく……ここまで来たのに。


「ふふ、驚くのも無理はないと思うわ……でも、ローク? これは現実よ、夢でも何でもないのよ」

「……お前か?」

「ん? どうしたの? そんな怖い顔をして?」

「お前が……フローレン! お前の仕業か!?」


 死体を操作していた奴だ。もしかすると、死んだヤツも生き返らせるのかもしれない。でも、そうなると……俺の今までやってきた事は全て無駄? 嘘だよな。


「たく? こんな奴に私は殺されたのか? なぁ、フローレン……シャノンは生きてるのかよ?」

「うーん、シャノンを取り返すのは少し難しいわね? でも、ニーナ! 貴方が居ればロークは倒してくれるわよね?」

「当たり前だろ? もう負けるはずがない! あんな屑に……でも、今度は油断しねえよ」


 駄目だ、考えるな。ここで立ち止まったら終わりだ。

 剣を握れ。そして、また殺せ。それで終わりだ。

 この殴られた顔の痛みは本物だ。

 あいつは、ニーナは生きていた。いや、生き返った?

 とにかく目の前にいる限り倒すしかない。


「ふふ、じゃあ、後はお願いね……私は先に王国に戻っているわ」

「あぁ、トウヤにもまた宜しく言っておいてくれ」

「そうね、トウヤもまた喜ぶと思うから、それじゃあね……ロークも」

「待て、逃すかよ!」


 同時にお前も殺す、フローレン。

 こんなチャンスなかなかこない。

 手を伸ばしながら近付こうとするがそれは阻まれる。


「……っ? 私の存在が見えないのか? このクソ野郎!」

「ちぃ! そこをどけ! ニーナぁぁぁ!」

「叫んでも無駄だ! うるさい野郎だな!」


 姿が見えなくなっていくフローレン。

 畜生! こいつを倒さないと進めないか。

 あいつの力はこの先とても脅威になる。

 殺したはずの奴が生き返る? そんな事……認められねぇ。俺はフローレンの力に驚きながらもニーナを相手にしなければいけない。


「あの火山の時とは違う……全力で叩き潰してやるよ!」

「……それは俺も同じだ! 一瞬で片付けてやる」


 互いの剣がぶつかり合う。あの時は圧倒的な力の前に諦めかけた。そんな時間もあったが、今なら……。


「剣技【竜巻旋風】」

「なに!?」


 この場に竜巻きが発生してニーナを取り囲む。

 肉を削り、相手の視界も奪う。ニーナの方が力はある。

 だからこっちは今まで学んで取得してきた技で勝負。

 間合いを詰めて、剣を振り払う。


「それで満足か?」

「いや……逆にこれで終わったと思ったか?」


 踏み込みながら俺は剣を握る力を強くする。


「剣技【風車】」


 鍔迫り合いになる前に相手の剣を弾き飛ばす。

 その場で回転しながら俺はニーナに攻撃をさせない。

 いや、油断するとやられる。それは変わってない。

 相手は俺より強力な力を授かった奴。

 あの勇者様に認められた女なのだから。一筋縄で勝てるはずがない。少なくとも、昔の俺だったら。


「ぐぅぅぅ……これは」

「お前が眠っている間に俺も強くなっている、当然だろ! 俺はお前達を殺す! その為に生きてんだからな!」

「……そうか、あの時からお前は何も知らないようだな! この世界の事も、王国の事、そして……勇者の事も」


 急に腹を抱えながら笑うニーナ。

 ……何がおかしい? 何がそんなに笑える。

 まるで、何も知らない俺を嘲笑うかのように。

 いや、本当にそう見えてしまう。

 ニーナも、フローレンも何を知っている? 俺の知らない……何か重大な秘密を知っているのか?


「そんな驚く顔をするなよ! 本当はあのサタン火山で言おうと思ったが、せっかくの機会だ……ローク! お前が事実を知って絶望する顔も見たかったしな」

「お前は、お前達は何を知っている?」

「そうだな……簡単に言うなら、お前じゃ私も含めて本当の意味で私達には勝てないって事か?」


 何を言っているんだ? 本当の意味で勝てない。

 その言葉の真意が俺には理解が出来ない。

 俺は一度ニーナに勝っている。確かに殺したはずだ。

 今回だってフローレンの化け物みたいな力で、ニーナは生き返っているが、それは想像の範疇を超えている。


 持っている情報量が違い過ぎる。

 だから、俺とこいつらで溝が出来ているのか?

 いや、フローレンが言っていたあの事。

 そして、ニーナの言っている事を適当だが纏めると。


「……紋章か?」

「は? お前、それは知っているのか?」

「この森でフローレンから聞いたからな、それでお前も体に紋章がついているのか?」

「……あは、あっははははははは! そうか、そうか! それなら、面倒な説明はしなくていいな! お前の言う通り、私にも紋章はついている」


 やっぱりそうか。王国に行った奴らはあの紋章をつけられるのか? いや、でも……。


「その紋章はつけられる基準はあるのか?」

「基準? あぁ、そうだな……それは勇者のお気に入りって事でいいのか?」

「……お気に入り? じゃあ、ニーナ、お前は……」

「その辺の奴とは違って、私はトウヤに愛されてるからな……少し一緒に寝ればすぐにお気に入りになれる」


 じゃあ、あの二人は勇者のお気に入りではなかった。

 だからあんな風に体が破裂したのか。

 人によって権限が違うって事か。それにしても、気持ち悪い話だ。聞いているだけで、胸がムシャクシャしてくる。じゃあ、王国の人間は完全に支配されてるってことか? そんなの、洗脳の一種じゃないか。

 でも、こいつらはそれを望んでいる。望んでいたんだ。


「ふざけてるな、その紋章もあの勇者に支配されてるって言っているようなものだ! あいつの気まぐれでお前も、他の人も死ぬかもしれないのに」

「はは! 何を言い出すかと思ったらそんな戯言か? 王国に居れば欲しい物は手に入る! それに、みんな勇者に少しでも気に入られようとしている! そうなったら、幸せな生活が待っているんだからな!」

「でも、そこに自由はねえだろ!」

「自由……? あっははは! 笑わせないでよ! なぁ? ローク……じゃあ聞くけど、私とあんた今の状況考えてどっちが幸せで自由なのよ?」


 その質問は……答えられない。

 ただ、お前らに裏切られて、全てを失った頃に比べればとても恵まれている。仲間、愛する人。俺には後ろで戦ってくれている仲間がいる。だから、クソみたいな紋章に縛られているお前らと比べたら、自由で幸せだ。


「俺には仲間がいる! それで、お前達を倒して世界を変える! それが、今の俺達がやる事だ」

「……それって、本当に仲間なのか?」

「……はぁ?」

「いや、それはお前が勝手に言っているだけで、本当に仲間なのかって言いたいんだよ」


 舐めた質問ばかりしやがって。

 本当の仲間に決まってる。ここまで命を削って戦ってきたんだから。そうに決まってるだろ。

 ……これは間違いない。悩む時間も勿体無い。


「……強くはなっているがそこら辺は何も変わらないんだな?」

「あぁん!? お前らと違ってあいつらは違う! 俺と一緒に戦ってくれる真の仲間だ! お前達とは……」

「立場は環境、そして……真実を知れば人は変わるんだぜ? ローク、私達が何もして来なかったと思うか?」

「……は?」

「戦いって言うのは、力と力のぶつかり合いだけじゃねぇってことだよ! お前のお仲間さんは……もう、私達の手の中にいるかもな?」


 どういう意味だ? もし、本当にそうなったら……いや、考えるな。こいつの言っている事は嘘だ。

 俺を動揺させる為にそう言ってるだけ。


「ふざけるな! そんなのあり得るはずがない」

「それは自分の目で確かめろよ! まぁ、お前はここで死ぬんだけどな!」

「ちぃ! さっさと終わらせてやる」


 行かないと。信じている。あいつらは違う。

 でも、何だ? この違和感は……いや、落ち着け。

 もう、あんな悲劇は繰り返したくない。

 だから、こいつを殺して俺はすぐに仲間の元へ戻る。


 俺は真実を知っても変わらない。

 ただ、突き進むだけだ。

 何度でも俺の前に現れようと……ぶっ潰してやる!

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