第14話 不穏な予測


 一週間経った。この間に俺は複数の依頼をこなしていた。

 その間にマナ石が何度も光り続けていた。

 スキルが進化したのか。強くなっているのか。


「そりゃ、進化するスキルか」

「知ってるんですか?」

「……まぁ、俺も元は冒険者だったからな」


 あのカーボンウルフを倒した後。

 俺はヤミイチさんに報酬の一部を渡した。

 まぁ、渡された物資以上だった。約10000Gこれは通貨にして金貨10枚相当。

 初めは拒んでいたが、お礼だと言って俺は渡す。

 押しの強さにヤミイチさんは負ける。

 お世話になったからね。この人がいなければ、カーボンウルフは倒せなかった。

 調合のレシピと対策。唯一協力してくれたという点。

 どれだけ感謝しても足りないぐらいだ。


「これだけ貰ったら、今後はお前にもっと協力しないといけねーな」

「やめて下さいよ、当たり前のことをしただけです」


 自分は勇者を敵に回して、全員から恨まれている。

 俺と協力関係を結ぶのは相当のリスクがある。

 その代償として多くの金を渡しただけだ。

 やっぱり信頼関係を築くのには、金というのは重要な要素。

 その誠意をヤミイチさんに示した。


「カーボンウルフをたった一人でたおして、灼熱のサタン火山を生き残った……やっぱり、お前には何かを感じる」

「それはヤミイチさんのおかげで……」

「それだけで実戦経験もないお前が勝てる何て思わねえよ! お前の実力もあるが、スキルも進化してるってことだ」


 スキルの中には。戦闘の中で進化していく種類もある。

 俺が儀式で授かったスキル。【錆びれた剣士】が【磨かれた剣士】と変化した。

 そして、現在は【光を待つ剣士】というものになっている。

 とても中途半端な名前だと感じている。

 ヤミイチさんが言う。確実に強くはなっていると。

 その証拠に……。


「え! 何するんですか!?」

「前触れもなく、急な攻撃も避けれただろ? そういうことだ」


 顔の付近にナイフが通過する。

 咄嗟に反応して避けられたが、命中していたらどうなっていたことか。

 しかし、確かに動きが見えた。あの、勇者との戦い。あの時よりかは成長している。

 ということは、段々と真の力が目覚めていく。そんな感じなのか?

 俺は、自分の成長に気が付いた。

 そして、話はさらに自分の中の核心に迫っていく。


「これなら、あの勇者の女にも勝てるかもな」

「……知ってたんですか?」

「情報が出回っているからな」

「ぐ! そうでしたか」

「まぁ、俺はどうでもいいんだが、やり方が気に食わねえな! 全員でお前のことを潰しに来ているのは……頭がどうかしてる」


 勇者の女、多分ニーナのことだろう。

 それにしても、この様子だと隠すのはもう無理だな。

 逆にあいつ(サーニャ)は気付いていないのか。

 まぁ、あの性格と状態からして有り得るけどな。


 マナ石は光り続けている。

 常に進化するスキルというのは本当なのか。

 その真偽は確かめようがない。

 あのシスターのナイルなら何か知っているかも。会う手段がない。

 だけど、ヤミイチさんも勇者であるトウヤ。そして、周りも好きではないと言う。

 俺にとっては好都合……だよな? 信じていいものなのか。


「勇者はともかく、あのニーナって女も……危なそうだな」

「どうしてそう思うんですか?」

「いや、男の勘ってやつだ」

「あ、そうですか」

「……お前信じてねえだろ」

「でも、その勘は案外当たっているかも……だって、実際俺がこうなっているのも」


 そう言いかけた時。この店に他の客が入って来る。

 何やら慌てている。気が気ではないようだ。


「ヤミさん! サーニャちゃんが帰って来ないんだ」

「あ? あの馬鹿女が? また、阿保みたいに突っ走って……」

「いや、一週間も帰って来ないなんて……もしかして、依頼先で何かあったに違いないぜ!」


 馬鹿女とヤミイチさんが言う女。冒険者サーニャは帰って来ない。

 常連である客は、サーニャをとても心配している。

 このセルラルで知名度があり人気がある。

 天真爛漫で、嘘はつかない純粋さは感じた。炎の剣士というスキルを授かっている。


 そんな人材をあの勇者が見過ごしておくか。いや、見逃さないだろう。

 ニーナがこの街に来た目的。きっと、サーニャをアレースレン王国に引き入れる。

 そう考えたら、納得が出来る。問題はこの街の人がそれに気付くか。

 ……微妙か? そもそも、内情は俺しか知らない。

 面倒な事になりそうだ。


「落ち着け! 別に冒険者を目指す以上……こういう事もある、それにあの勇者様の女も同行してるらしいから、死んでいる可能性は低い」

「に、ニーナ様か? そ、そうか!? あの方が付いているなら……」


 そして、客は帰って行く。その表情は安心していたもの。

 勇者の付き人が一緒にいるなら大丈夫。

 一方的に俺が悪者にされて、あっちが英雄扱いかよ。まぁ、仕方がない。

 しかし、これは何かあるに違いない。


「んで、おめぇはどう思う? あまり大騒ぎにはしたくねえだろ?」

「……悪い人ですね」

「いや、全員勇者っていう存在を信じ過ぎて本当に大切な事実が見えていない……サーニャが無事なのか? 誰も見ていないのに、今回だって勇者の何々だからって、あんな阿保面で去って行ったぞ?」

「えぇ、本当に理不尽ですよ」

「でも、世界は変えているのは、勇者でも選ばれた強力な力を持ってる奴って訳でもねぇよな? その辺の冴えない奴が……変革者になることもあるって訳だ」


 大きいことを言いますね。

 だからって、やっぱり力というものは必要だ。

 その変革者って者になるには。

 とりあえずやる事は……。


「精々頑張りますよ、だけどあまりこの街にはいないかもですね」

「……そうか、残念だ」

「意外ですね? 止めないなんて」

「貰うものは貰った、お前の力も確認出来た、無理にここに拘る理由もないだろう」

「こんな俺にも、普通の対応してくれたこと……感謝します! ただ、これ以上俺と関わっても、やっぱり貴方に多大な迷惑がかかる! それは、俺が許せないんです」


 そう言って店を後にした。

 これでいい。これで、いいんだ。

 サーニャが一週間街に帰って来ない。

 ギルド協会まで走りながら、街の人の声が耳に届く。

 俺と違って、かなり心配されているようだな。

 きっと、村からも祝福されてここまで来たに違いない。


 その違いにキュッと胸が苦しくなりながら。

 ギルド協会に着くなり、俺は他の冒険者に割って入る。

 業務中のソルトは驚いている。


「ちょっと! 順番はしっかり守りなさいよ!」

「……最近のサタン火山の依頼リストを見せて貰っていいですか?」

「はぁ? そんなの無理よ! 私の信頼が失われる……」

「これでどうですか?」


 有り余る通貨の一部をソルトさんの前に出す。

 ここまでする理由。本当によく分からない。

 だが、胸騒ぎがする。情報を得るためには多少の犠牲は必要だ。


「はい! こちらですよ」

「……あのさ」

「んー? 何? これが欲しいんじゃないの?」


 本当にこの人は……でもこれでいい。

 俺は、ソルトさんから渡された書類を受け取る。

 周りの視線など気にせず俺は目を通す。

 ここには、最近の依頼の受注が記されている。

 これを辿って行けば内容などが分かるはずだ。


 ――――これだ。それは一枚のリスト。

 内容は【サタン火山に行ってヤンゴの実を採ってきて欲しい】というもの。

 Cランク相当の依頼。サーニャの実力は俺は知らない。

 しかし、難しいものではない。ニーナも付いているし、一週間という時間も必要ない。

 ニーナと会った時。あれは普通ではなかった。

 剛腕の剣士、サーニャにとっては憧れの存在。

 しかし、俺にとっては……どうするべきか。


 このままでは、サーニャは危険。

 恐らくだけど酷い状態にされているかも。

 アレースレン王国に行った方が幸せ。

 それは三人の様子を見ていれば……分かる。

 俺だってこんな過酷な道よりも楽をしたい。


 ……考え過ぎかもしれない。

 だけど、またあいつらのおかげで潰される。

 その可能性が生まれている時点で。俺の怒りは止まらない。

 もう好き勝手にはさせない。帰って来ないんだったら……今度はこっちから出向いていやる。


 ――――行動するしかない。迷っているなら行けよ、ローク。


 手に取って書類を握り締める。

 決意を込めて俺は再びサタン火山へと向かって行く。

 そこで繰り広げられている出来事。

 それは、俺の想像以上に悲惨なものだった。





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