第9話 噂と冒険者


 地図を頼りに比較的トリス村から近い街を目指していた。

 幸いにも魔物との交戦は避けられた。

 未知数のスキルは進化を続けていること。

 錆びれた剣士からグレードアップするかは今後の自分次第だろう。


 村を抜けて、森を抜けて、俺は遂に初めての街へと辿り着く。

 遠くから見てもトリス村とは大きさが全然違った。

 こんな形で街に来るとは思わなかったけど。

 俺は覚悟を決めて、この【セスレル】に向かって行った。



 ――――しかし、俺の苦難はここでも尽きなかった。


 採集した素材をまずは売るために武器屋を目指していた。

 案内板を頼りに、街の中を散策はした。

 だが、街の人の反応はとても冷たい。


「うわ……来やがった」

「近寄るなよ、関わったら最後だ」

「あいつがそうか、ここに来るなよ」


 もう噂は広まっているのか。

 あの村からここに来るまで二日。

 そうか……やっぱり勇者の護衛を殺したのは不味かったか。

 一体どういう情報が伝わっているのか。


 避けていく民衆を無視して、俺は武器屋を探す。


「ここか」


 看板が立てかけられており、一目で分かる。

 しかし、武器屋の商人はとても嫌がっている。


「い、いらっしゃい」

「……これを売りたいんですけど」

「あぁ、分かったがそんなに売値は高くはないですよ」

「どうしてですか?」

「理由はあんたが一番よく理解しているだろう」


 採取したのは薬に使える薬草。

 キノコや木の実などが主である。

 どっさりと店主の前に出して売値を聞く。

 大量の素材はいつもなら喜ばれる。だけど、武器屋のおじさんは渋い顔で。


「うーむ……200Gぐらいかな?」

「これで200Gですか? 少なくないですか?」

「いや、このご時世不況で」

「せめて500Gぐらいはいって貰わないとそれぐらいの価値はあると思いますけど?」


 嘘だな。この商人は明らかに俺を避けている。

 そして、質はそんなにだが量はある。

 こういう素材は必要で数多くいるからな。手に入りやすいけど手間がかかる。

 それでも、200Gは安すぎる。これじゃあ、ご飯も食べられない。

 殺した護衛のお金はある。しかし、流石にそれだけでは凌げない。


 俺は退かずに交渉を続ける。完全に足元を見られているが、ここで負ける訳にはいかない。

 だが、長い交渉は逆効果だった。


「あぁ? 厄介者の雑魚スキル持ちの奴が何言ってんだ? いいから、言う通りにすればいいんだよ? それとも、こういうのも勇者とかに報告していいのか?」


 態度が急変する。なるほど、やっぱり普通の交渉は出来ないか。

 本当はあまり目立ちたくはなかった。

 だけど、ここまで言われて黙っている俺じゃない。

 煽っている商人の胸ぐらを掴む。自分の方に引き寄せて、俺は低い声で恐喝する。


「おじさん……ここがどういう場所か分かるか?」

「ぐぉ……何をする? 貴様、本当に」

「辺りを見てみろ? ここの武器屋は人通りが少ない! つまりは、どんなに叫ぼうと騒ごうと誰も来ないんですよ」


 本当に後戻りが出来なくなったな。まぁ、もうどうでもいいけど。

 俺は、剣も取り出し脅す。ふざけるなと言いたい。

 こちらが必死に集めた素材。自分勝手と言えばそうなる。

 だが、差別は許さない。その証拠に俺の前に売りに来てた人は、同じような組み合わせで高値だった。

 しっかりと見ていたぞ。嘘は駄目だよ。


「……600Gでいい! これは、今後も健康的にそして怪我なく商売をするのも含んだ金額だ」

「さっきより上がってる」

「ほら、どうした? 俺はもう失うものは何もない! ここでお前を殺してもいいんだぞ」

「わ、分かりました! そ、それで手を打ちましょう」


 初めからそれでいいんだよ。くそ! こいつにも自分の態度と対応に反吐が出る。

 出された金貨を奪い取るようにポケットにしまう。

 そして、商人は咳をしながら俺に恨みを込めながら。


「絶対に許さねーからな、覚えとけよ」

「あぁ、ありがとうございます」

「ち! 無様な錆びれた剣士! 二度と来るんじゃねえぞ!」

「はいはい」


 これでご飯とかも食べられる。今日の宿代も確保出来た。問題は泊めてくれるとかどうかだけどな。

 俺は、武器屋を後にして大通りへと移動する。

 しかし、当然だがここでも俺の扱いは酷いものだった。


「あー他を当たってくれ」

「私のお店は貴方には合わないと思いますので」

「今日はもう閉店するので無理ですね」


 どいつもこいつも……。うぐ、何だこの感覚。

 また体が熱い。そうだ、急に力が湧いてきた時もこうなった。

 俺はマナ石を見る。そこには錆びれた剣士という名前は消えかかっていた。

 映っているそれ。俺は、その場で立ち止まり、光り続けるマナ石を凝視する。


「【磨かれる剣士】? なんだこれ」


 まるで石とか宝石みたいだな。でも、儀式を受けてスキルを授かった時よりも強くなっている。

 少しずつだが前へと進んでいるような。それが、段々と進化している。

 完全に印象と推測だけど、このスキルってまさか……。


「おい! そこのお前!」


 女の声が聞こえて、俺はそちらを向いた。

 何だまたかよ。とても嫌悪感を感じながら、舌打ちをする。


「あ、無視はねえだろ! 人がせっかく話しかけているのに」


 こんな街の真ん中で大声で話しかける奴いるかよ。

 通り過ぎていく人の視線が痛い。元々、印象は最悪だけど。

 俺は、後ろを振り向いて女の声には反応しない。

 また、何をされるか。どうなるか分からない。

 それに俺と関わらない方がこの子の為でもある。


 しかし、この子はしつこい。


「待てったら待て!」

「おわぁ!」


 後ろから引っ張られる。元気と威勢がいいな。

 着ている服の袖を掴まれる。拘束されたみたいに力が強い。

 仕方がなく俺は元気のいい子の方を見る。


「ようやくこっちを向いたな……お前に聞きたいことがある!」


 まさか、もうバレたか。止むを得なかったけど人殺しに恐喝。

 この時点で重罪人。聞きたいことは多分それらだろう。

 俺は、覚悟を決めて次の言葉を待っていた。

 しかし、その内容は俺の予想とは違った。


「お前、ここ最近でスキルを手に入れた奴だろ?」

「……え?」

「私には分かるんだよ! 私だって、つい最近やっと【冒険者】としてデビューしたんだからな!」


 服装からして何となく察していた。

 この子は【冒険者】に成り立て。勇者とあの三人と違ってまだ幼さが残っている。

 そして、名前も知らない冒険者は俺に色々と聞いてくる。


「なぁ、そうなんだろ?」

「……というか、急に何なんだよ? 確かに、俺は【冒険者】だけど」

「やっぱりそうだったか、にししし!」


 変わった笑い方だな。それにしても似ている。

 この強引な性格と見た目もどことなく……って何を考えている。

 それにしても、こんな見知らぬ奴に頼むなんて目的は何なんだ。


「あ、私さ! 【サーニャ】って言うんだけど! お前は何て言うんだ?」

「……ローク」

「ほぉほぉ! ローク、いい名前じゃねえか!」

「別に名前何て良いも悪いもないだろ」


 サーニャと名乗る女。年齢は俺と同じ20歳らしい。

 なるほど、同世代があまりいないのか。

 彼女が言うには、この街はあまり冒険者。つまりは、スキルを取得している者が少ない。

 儀式は本人の意志と適正。さらには、儀式を行う周期がある。


 さらに冒険者自体。

 夢が溢れて人気が高い職業だけど、死亡率が高くて面倒ごとも多いらしい。


 スキルと職業。二つが上手く噛み合って初めてものになる。

 俺は、冒険者を目指すサーニャの目の輝きが眩し過ぎる。

 反対に俺は不本意の形で成り行き上ここに来ている。

 光と闇だと実感する。とにかく、誰かと一緒に冒険とか考えられない。


 あの後だ。人を信用が出来ない。

 どうせ、この子も最後には裏切るんだ。

 駄目だ、考えれば昂ってしまう。


「お、おい! どうした……顔が怖いぞ」

「あぁ、そういう顔なんだよ」

「違うぞ! 最初に会った時はもっと穏やかだった」

「もういいだろう? とにかく俺とは関わらない方がいい」

「あ、そうか!」


 分かってくれたか。それにしても悪人面になっているかな俺。

 初対面の奴にも怖い顔。何て言われて結構ショックである。

 サーニャは手の平の上でポンっと手を叩く。

 納得してくれて助かった。迷惑かける訳にはいかない……。


「お前、腹が減っているんだろ?」

「……は?」

「私の村でも人が機嫌悪い時や、怒りを鎮めるには美味いものを食えばいいと習った……ロークって言ったな! この街に旨い飯屋があるんだ! そこに行こうぜ」

「いや、何言ってんだ俺は別に」

「善は急げだ! ほら、案内してやるよ! 同じ冒険者を目指す者として色々と聞きたいこともあるしな! にししし!」


 白い歯を見せながら、サーニャは俺の手を引っ張る。

 何なんだよ、こいつ。しかし、腹が減っているのは事実。

 少しだけなら付き合ってあげるか。どっちにしろ、俺一人では何処の施設も入れてくれないからな。俺は、初めて相手にされた? この元気な女の子と空腹を満たすことにした。


 ――果たして。



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