第67話 さようなら、ローク
どうしようもなかった。
私はこの八方塞がりの状況に怯えていた。
この人の話が本当だったら、私の家族は……うう、考えたくない。拷問を受けているママやパパ。
そして、村の人達の事が頭に思い浮かぶ。
助けださないと、だけど、それはとても途方もない……高く聳え立つ壁のようだと思う。
でも、超えられるものだと思っていた。
ロークと一緒なら、どんな困難でも立ち向かっていけるはずだと。そう思っていたのに。
「それが本当だとしても私は……」
言いたかった。ロークと、ここのみんなとお前達を倒す。これだけの事なのに、私は黙り込んでしまう。
結局、力があると思い込んでいた私達は無力だった。
人質という形で私の家族は拘束されて、さらにはガルベスさんの仲間も王国に居るという訳で。
これは、私だけの問題ではない。
ここにいる人達、ううん……今までだってそうやってきたのだろう。人の嫌がる事を平気でやってきた。
だから、ロークみたいな人が生まれる。
それは止めないといけない。
そういう時に、力のある人が動く時なのに。
この世界は残酷だ。大きな力を持っている人に限って、悪い人ばかりだ。ニーナさんの時だってそうだった。
でも、一番の問題は……圧倒的な力を持っている勇者があんな人だから。ロークも普通の生き方が出来なかったんだ。
「それで、どうすんだ?」
「……そんなの」
「時間ねぇのは俺達も一緒だ! 王国に帰って勇者に文句もあるしな……それで、お前達は生きたいのか? それとも、死にたいのか?」
「卑怯だ、そんなの脅しじゃない」
頭の中で思い浮かぶのは、ロークの顔。
初めて会った時は何も感じなかったけど、一緒に過ごしていく内に考えが変わっていった。
戦っていくと、あいつはとても強くて、優しかった。
怖いというのは不思議となかった。だから、私はロークに付いて行った。
二人で一緒に戦って生きていくと。そう、決めた。
それで、気が付けば私は好きになっていた。
だから、告白したんだ。想いは止められず、勇気を振り絞って私はロークに伝えた。
好きだと。必死に堪えていた気持ちだった。
えへへへ……我慢が出来なかったんだ。
浮かれていたのかもしれない。ロークと一緒ならどんな敵でも負けない。例え、自分達より強大な敵が現れようと。倒して、それを続けていけば……いつかは。
「……言っておくがな! お前らは俺の仲間を傷つけた……この女は俺にとって大切な人だ! それだったら、報復するに決まってんだろ?」
「それは、そっちから仕掛けてきたからだろ!? 私達はこんなの望んでいない」
「はぁ? よく言うぜ……まぁいいや、お前がそう言うんだったら、大切な家族は死ぬだろうな! 可哀想に……」
それを聞いて私は胸が痛くなる。
攻撃をされている訳でもないのに。
さっきまではロークの顔が思い込んでいたのに。
すぐにそれは塗り替えられる。
ママ……パパ……みんな。
「辛くなったらいつでも帰ってきていいからね」
「娘を送り出すのは辛いが……お前は強いから安心だ! でも、本当に死ぬそうになったら逃げろよ? お前は俺達にとって命より大事な存在だからな」
セルラルに来る前に村の人達はとても心配してくれた。
それで、ママとパパは冒険者になると決めた私を応援してくれた。でも、初めは反対されたんだ。
わざわざ冒険者にならなくても、お前は可愛い。
さらには、強力な力も授かっている。持ち前の明るさと、純粋さは私の武器だと言われたんだ。
自分でも自覚してないけど、みんなから言われたらそうなんだろう。
ここまで育てて貰った思い出は忘れられない。
村の人達も優しかった。食べ物も、私が辛い時に相談にのってくれた。それは、ロークも一緒だ。あいつも、何度も私の事を助けてくれた。
セルラルからここまで……あれ?
私は馬鹿ながら考えついてしまう。それは、自分勝手でどうしようもない結論。
なんだよ……どうして、私は最低だ。
私が嫌いになる。嫌いになるに決まっている。
だって、一方的に私は助けてくれて好きになった人物を悪者にしてるのだから。
ロークが居なかったらどうなっていただろう?
私は普通に生きられていたのだろうか?
そんな保証は絶対にない。それどころか、もっと悲惨な事になっていたかもしれない。
何を考えてんだ! 私は自分の頬を叩く。かなり強く……痛いな。でも、これで目覚めた。
やっぱりどんなに家族が大事でもロークは……。
「聞くか? お前の家族の様子を?」
「……っ!? 聞きたくない! やめろ!」
「まずは顔を殴られて、蹴られて、痣だらけになったら爪を剥がされて……」
「やめろって言ってんだ!」
何だよこれ。気持ち悪い。具体的に拷問の内容を聞きたい訳がない。それに、大切な家族が拷問されてるってだけで、耐えられないのに。ぐぅ、今にも吐いて楽になってしまいたい。負けちゃ駄目だ、屈したら負けてしまう。私は、剣を取り出そうとした。今ここで、この二人を殺せば……まだ希望はある。
微かなものかもしれないけど、目標としている王国まではもう少し。引き返したらまた戻っちゃう。
「そうか、お前らはロークの事を心配してるんだな? だったらそれは安心しろ! そもそも、あいつがお前らの家族や仲間を苦しめているんだから」
「な……」
「……は?」
「おい、小娘……お前がロークと出会った時からもう破滅の一歩目は始まっていたんだよ! それ以外の奴らもな」
ロークと出会って、ニーナさんと出会って、戦ってさらには色々な出来事があった。じゃあ今までの流れは全て、仕組まれていたってこと? 駄目だ、馬鹿な私には考えられない。でも、これだけは言える。
こいつらは敵に回したら駄目だって事だ。
「もう話はいいだろ? とにかく、お前達の仲間のロークは悪だ! このままあいつの仲間だとこの全世界を敵に回す……それでもいいなら、あいつに付いて行け!」
「……飛躍し過ぎだな、ロークの一人にそれ程の影響力があるのか?」
「あるさ、だからお前達は何も知らない……いや、知ってはいけないと言った方がいいか? それよりも、はやく決めろ! 助けたいんだろ?」
エドワードはいいな。頭が良くて、こんな時でも冷静でいられるのは凄いよ。でも、私も言わないと。
お前達には、付いて行かないと。例え、全世界を敵に回してもロークと一緒に戦うと。
……あははは。そうだよ。それがいいよ。
一緒にいた時間は短いけど、ロークに救われた。
今ここに居られるのも、あいつのおかげだ。
私はお礼をしなければいけない。
でも、でも!
「サーニャ……戻って来てね」
「俺達が危険な時はお前の力で助けに来てくれよ!」
あーそうか。あの時は無邪気にうん! って言ったけ。
助けに行くと決まっている。そう言ったのは確かだ。
言わなきゃよかったなぁ。そうだったら、ここで悩む必要はなかったのに。けど、やっぱり無理だ。
ごめん、ごめんなさい。半端な気持ちで私は戦ってきたのだと思う。すぐに答えを選べないのが何よりの証拠だと思う。
……決めた。本当に恨むよ。こんなにも弱くて、卑怯な私に。それで、謝っても許されない。この選択がこの先にどうなるか? ううん、これは……。
「助けたい」
「あぁ? 声が小さくて聞こえないな?」
「助けたい! 私は……家族を、た、助けたい」
「サーニャ……お前、本気で言ってんのか?」
「お、おい! 何がどうなってんだよ? てめぇ、あいつを裏切るのか?」
「おいおい、面白い所なんだから黙ってろ! はは! 結局、お前は普通に人間だった、それだけだ」
二人からは非難される。当然だと思う。
でも、普通の人間だという敵の言葉に納得する。
勢いとロークの強烈な目的。それだけで、私は勘違いしてしまった。あぁ、勝てる。悪い奴らは殺して、倒していけばこのまま世界を変えられる。ロークの目的も達成させてあげる。そう思ってしまったんだ。
馬鹿だなぁ……本当に。私は、強くはない。
弱くて何も変えられない一人の人間。
ごめん、ローク。私には耐えられない。
ローク、私はお前が好きだ。どうしようもなく。
だけど、その気持ちだけでは無理だった。
この世界は私が思っている以上に大きかった。
それで、私には荷が重過ぎた。本当にごめん。
……私は、進むよ。でも、ここでお別れだと思う。
さようなら、ローク。
こんな最低な私を……ここまで導いてくれてありがとう。今日ここで私は選択をした。
これは間違いなのか、正解なのか。誰にも分からない。
だけど、この勇者や王国に逆らったら駄目。
それは私でも分かってしまった。
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