第37話 才能の違い・ロークとサーニャの休息
セルラルの街を離れてから一週間。
俺とサーニャは次の目的地大都市【スリムラム】を目指していた。
近いとは言っても、やはり徒歩だと時間はかかる。
さらには、この辺は魔物も多い。サーニャとの連携で上手く魔物を倒しながら進んでいた。
「剣技! 【炎雷】」
「こっちは任せろ」
それにしても、サーニャはやはり凄いな。
剣技を何度も使用しても、疲れが全く感じないのか。
走り回りながら剣を振るう姿。味方ながら恐ろしいな。
流石は炎の剣士と言ったところか。俊敏な動きに攻撃力もある。
俺も負けてられないな。片方の魔物はサーニャに任せて、俺は背中を預ける。
――――フレグフエルという植物系の魔物。ツタの攻撃と強力な毒が特徴的。
この森の中では、主流な魔物だと聞いたことがある。気持ち悪いな……まだ、動物の魔物の方がマシだ。
俺は、巧みに使ってくるツタの攻撃を避ける。
毒は大きな口から吐いてくる。こちらの方が注意しなければならない。
飛散した毒は草木を簡単に溶かす。回避して、俺は背後に回り込む。
サーニャのように剣技を使用するしかないか。
俺は集中力を高める。
「剣技……【螺旋斬り】!」
風が発生し、フレグフエルのツタはバサッと斬られる。
まるで螺旋階段のように。風が生きているかのような動きだった。
一瞬にしてフレグフエルは消滅する。
これはまた新たな剣技である。どうやら、俺の主属性は風のようであった。
サーニャから聞いた話では。儀式を受けた瞬間に、得意な属性は決まっていたらしい。
これは、ある程度成長をしないと分からないらしい。
だが、才能がある者は早めに攻撃と共に判明する。遠回しに、俺は才能がなかったと言われているようなものだ。
ちなみに、サーニャはスキル名が炎の剣士だった為か。すぐに理解をしたらしいけど。
「おぉ! ローク! また新しい剣技を身に付けたのか!?」
「まぁな」
「すっげぇな! たく……どんどんと強くなっていってるじゃねえか」
「強くならないと勝てない、俺が敵視しているのは……もっと強い相手だからな」
そっちも終わったか。
サーニャが目を輝かせながら、俺の方に駆け寄って来る。
とても褒めてくれたが大した剣技ではない。
それよりも、お前の方が凄いよ。あの時、シエルとの戦いで見せた力はこんなものではなかった。
炎を盾に使用したり、あんな使い方は中々出来ない。
やっぱり、才能の違いか。まだまだ追い付くには時間がかかりそうだ。
この剣技は、この一週間で身に付いたもの。何度も戦闘を重ねた結果。何となく閃いた剣技である。
竜巻旋風は威力は高いが反動が大きい。一方で風車は威力が小さい。
使い勝手は今の所はこの螺旋斬りが一番いい。
「でも、少しずつ進んでいるからいいんじゃねえか?」
「そうだといいんだけどな」
「まぁ、簡単に強くなれれば誰だって苦労してねえよ……私だってもっと強くならないと」
「……確かにな」
「んじゃあさ! そろそろ飯にしないか? もう、腹も減った事だしよ! にししし! 今日は何にしようかなー?」
もうそんな時間か。確かに辺りが暗くなってきた。
夜の森は危険だという。サーニャの提案に賛成して、今日はこの辺で休む事にした。
「ローク! どうだ! この私のサーニャフルコースは!」
「いや、本気で驚いたんだが……」
「はぁ、やっぱりそんなに私って……女らしくないか?」
「そりゃな、そもそも女で冒険者を目指すのは珍しいんだろ?」
「まぁな、けど最近は増えてるらしいけどな!」
俺が驚くのも無理はない。それはサーニャの料理の腕である。
抜群の腕を披露して、素材の味を最大限に引き出している。
この一週間。共に行動をしてサーニャにまさかこんな特技があったとは。
そもそも、俺が作ろうとした時。自分で作るとサーニャが豪語したのが始まり。
とても不安だったが、今では完全に任せている。
今日は、暖かい具がたくさん入っているスープ。それにしても、たくさん作ったな……。
木の器にサーニャが盛って、同時に俺達は言う、
「「いただきます!」」
手を合わせて神に感謝する。……やっぱり上手い。火力はサーニャがしっかりと調節しているからか。
火加減が絶妙で美味しい。体の芯まで温まる。この森の中は寒い。だから、さらにこのスープの美味しさが引き立つ。
そして、豪快にサーニャは器ごと口に放り込んでいる。よっぽど腹が減っていたのか?
半分以上はサーニャがスープを平らげてしまう。
「お前……」
「ん? なんだよ?」
「もしかして、自分がたくさん食べたいからこんなに作ったのか?」
「あぁ、それがどうかしたのか?」
「いや、何でもない……あと、具をそんなに持ってくなよ! もう、最後の方スープだけじゃないか」
「こういうのは早いもの勝ちってママも言ってたけどな」
あぁ、そういう台詞は村に居た時も言ってたな。
……あまり考えるのはやめとこう。無駄な事だ。
それにしても、よく食うよなこいつ。見習う所なのか……まぁ、よく食べるのは良い事か。
そして、俺達は食事が終わり、後片付けをする。
火の鎮火もサーニャの力でとても楽だった。寝袋を用意するが、見張りは必要である。
一人の時は本当に仮眠しかなかった。いつ狙われるか分からなかったからだ。
「おい、ローク……」
「……なんだ? また腹が減ったのか?」
「ちげーよ! その、私が先に寝ていいのか?」
「先というか、朝まで見張っているから寝ていい……俺はやる事があるからな」
しかし、俺はサーニャに寝ていいと伝える。
最初は断っていたが、次第に根負けするサーニャ。いや、誰が見たって眠たそうにしていたからだと思う。
それに、寝ている暇は俺にはない。本が見えるぐらいに火を起こして、その灯りを頼りに勉学に励む。
街の事、そして魔術の事。次に目指す街……というよりは大都市。王国並みに大きいその街。
聞いた情報と本によると、魔術を駆使して生活をしている。流石は、魔術の都市と言ったところか。
サーニャはともかく、俺も魔術には疎い。だから、少しでも……。
「頑張り過ぎは体に毒だぞ」
「いや、大丈夫だ」
「……なぁ、どうしてそんなに頑張れるんだ? やっぱり、憎いのか?」
「お前や、憎んでいる相手と違って……俺には才能がない、だから人並み以上の努力は絶対に必要なんだよ」
「でも、ロークは頑張っているんじゃねえか? それでも、まだ足りないって事なのか?」
心配してるのか? 余計なお世話なのに。これは俺が好きでやっているだけだ。
努力は足らない。周りが寝ている間に、俺はもっと鍛錬を積まなければならない。
そうでなければ追い付くことも出来ない。世の中そういうものだ。
「あぁ、だってお前らだって同時に、努力をしていたら……追いつく前に追い越されてしまうだろう……元々のスタート地点が違うんだからな」
「そうか、私もそれは分かる気がする」
「……そうなのか」
「うん、だからその才能に溺れたら駄目になっちまうと思う、その点……ロークは自分に厳しくて努力を出来ているんだから、それは凄い事だと思うぜ?」
こいつ……恥ずかしいな。そんなに褒める程のものではない。当たり前の事だ。
それに、どんなに努力をした所で報われるものではない。
努力は裏切らないと言うけど、結果に直結する訳ではないからだ。
それが、あの勇者との決闘に出てしまった。……あいつには勝つには、まともな方法だけでは駄目だ。
悪魔に魂を売らなければ、それがあの闇の力だとしたら。
しかし、そうなったら。寝ているサーニャに危険が及ぶ可能性もある。
「凄くねえよ、俺は……もう」
「そんなに悲観的になるなよ! はぁ、もっと明るくいこうぜ」
「お前は、楽観的過ぎるんだよ! そんなに……楽観視は出来ない」
「ロークの場合は……な、けど! 辛くなったら、今度は絶対に相談しろよ? 何か、力になれるか分からないけど……今はお前の仲間なんだからな!」
仲間、か。もうこの言葉は聞く事もないと思ったのにな。
世界を敵に回しても。そんな事を言っても、所詮は弱い俺。
孤独が辛く、人肌が恋しくなった。感傷に浸ってしまう。
ふぅ、久しぶりにとてもいい気分だ。これからずっと一人で戦い続けると思っていた。
勝手だな、結局は自分を優先的に考えてしまう。
多分、一番この状況に喜んでいるのは俺だ。サーニャが付いて来ると言った時。
胸の高まりが止まらなかった。本来はこういう冒険がしたかったんだと思う。
でも、理想と現実は違う。そのかけ離れた事実に俺は苦しんでいた。
だけど、このサーニャの言葉で少しは救われた。と、思いたい。
「それじゃあ、お休み……ローク」
「あぁ、ゆっくり寝てろ」
サーニャは眠りについた。俺は、本を閉じてその顔を見る。
幸せそうな顔をしているな。これから辛い事、苦しい事が待っているのに。
でも、少しはこういうのも悪くない。
照れくさくて言えなかった。だから、それを言っておく。
「……ありがとな、サーニャ」
そして、俺は立ち上がる。剣を取り出して思いっきり振るう。
再び新たな剣技を身に付ける為に。俺の修行は終わらないだろう。
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