第98話 運命のトリス村
俺は父と一緒に、トリス村に向かっていた。久しぶりに外の世界へ出ることに、わくわくしている自分がいる。アレースレン王国の城壁を抜け、開けた平原を進む馬車から見える景色は、どこか新鮮で、冒険心をくすぐる。
辺境に近いトリス村は、都会の喧騒とは別世界のようだった。馬車が村の中心に近づくにつれ、祭りの準備で忙しそうな村人たちが目に入る。
「もうすぐここで伝統的な祭りがある」
父が教えてくれたとき、俺の目は自然と輝いた。
祭りと聞くだけで、子供みたいにワクワクするんだから、不思議だよな。
馬車の中、俺たちはしばらく黙って旅を続けていた。外は徐々に暗くなり始めていて、辺りは静かだった。そのとき、父が突然重要なことを聞いてきた。
「どうして、お前をここに連れてきたか分かるか?」
父の声は、いつもとは違う深刻な響きを持っていた。
俺は少し考えてから、「分からない」と答えた。
本当に、どうしてここに来たのか、俺には全く見当がつかなかった。
父は俺の答えを聞いて、何も言わなかった。ただ、彼の目は遠くを見つめているようだった。父さんが何を考えているのか、俺には理解できなかった。
何か重要なことを伝えたいのは分かる。でも、なぜ俺に言葉で語ってくれないのか。その沈黙が、俺を不安にさせた。
馬車の窓から見える景色は、だんだんとトリス村に近づいていることを告げていた。父が何を伝えたいのか、トリス村に着けば分かるのかもしれない。
俺の心は、期待と不安でいっぱいだった。これから何が起こるのか、何を知ることになるのか。父の沈黙は、ただの沈黙ではない何かを隠しているような気がしていた。
村に着いたとき、その静かさと平和さに少し驚いた。ここはアレースレン王国の活気ある都市とは違う、もっと自然に溶け込んだ場所だった。辺境に近いトリス村は、もうすぐ祭りで賑わうんだって。父がそんな話をしてくれたとき、俺の目は自然と輝いた。祭りの喧騒、色とりどりの装飾、楽しい雰囲気に、俺はワクワクしちゃうんだよね。
村人たちも祭りの準備で忙しそうだった。子供たちは走り回り、大人たちは飾り付けをしている。こういう光景は、城の中では見られない。なんて言うか、心が和むんだ。
「ねえ父さん、祭りの日は何をするの?」
「色々と祝い事だ……お前も楽しむといい」
父も、こういう雰囲気は好きなのか?
でも、なんだかんだで、俺の心は祭り以上に何か別のことで一杯だった。この村と父、そして俺自身の運命について。トリス村の祭りがもたらすものは、ただの楽しみだけじゃないはず。何か大きな意味を持っている気がしてならないんだ。
トリス村について、昔のことを母に聞いた時、母の目は遠くを見つめていた。まるで、懐かしい記憶の中に浸っているようだった。
「母さん、トリス村ってどんな場所?」
俺が尋ねると、母さんはほんのり微笑んだ。
「あなたの父さんと私が初めて出会った場所よ。小さくて平和な村だったわ」
母さんが話し始めると、俺の心はその言葉に釘付けになった。トリス村での出会い、そして二人の間に芽生えた愛。これまで父さんはその話を俺にしてくれなかった。
「父さんは、そのことを恥ずかしがっていたのかな?」
俺がそう言うと、母さんは優しく笑った。
「多分そうね。父さんはいつも強がってるから、そういう部分を見せるのが苦手だったのかもしれないわる」
母の話を聞きながら、俺はトリス村に隠された真実に近づいているような気がした。父がなぜ、そのことを俺に隠していたのか。そして、トリス村が俺にとって何を意味するのか。
俺たちはトリス村の静かな路地を歩いていた。父はずっと何か考え込んでいるように見えた。そして突然、彼は重大なことを口にした。
「自分は勇者などではない……本当の勇者はここにいる」
父の言葉は、俺の心に衝撃を与えた。
「どういう意味、父さん?」
俺はその言葉の意味を探ろうとした。でも、父さんはそれ以上何も説明してくれなかった。ただ、彼の眼差しには、深い意味が隠されているように感じられた。
俺は混乱した。父が勇者ではないとは、どういうことだ? そして、本当の勇者が「ここにいる」とは、一体何を指しているのだろうか。それは俺のことなのか、それとも別の誰かのことなのか。
父の言葉には、何か大きな秘密が隠されているように思えた。それは俺自身の運命に関わる重要なことかもしれない。でも、今のところはっきりとした答えは見つからなかった。
トリス村の祭りへの期待が、俺の心を浮き立たせていた。色とりどりの飾り付け、笑顔あふれる村人たち、そして祭りの夜の盛り上がりを想像するだけで、わくわくしてくる。けれども、同時に父の言葉が、俺の頭の中をぐるぐると回っていた。「自分は勇者ではない。本当の勇者はここにいる」というあの言葉は、一体何を意味しているのだろう。
そして父の計画。父は、俺をトリス村に連れてきた理由があるって言っていた。その理由は、村の秘密と深く関わっているみたいだ。ここに来て何を見せたいのか。父は何を伝えたいのか。それを考えると、心がざわつく。
祭りの夜が近づくにつれて、村はさらに活気づいてきた。村人たちの笑い声、子供たちのはしゃぎ声が、俺の心を癒やしてくれる。でも同時に、俺の中にはもやもやとした感情が渦巻いていた。
父は、村の中を歩きながら、時々立ち止まり、何かを思い出しているように遠くを見つめる。俺は彼に何か聞こうとするけど、結局、言葉にできないでいた。
この祭りが終わる頃、俺は何を知り、何を感じるのだろうか。父が俺に見せたいというその「真実」は、俺のこれまでの人生をどう変えるのか。そんなことを考えながら、俺は祭りの準備に加わる村人たちを見ていた。
父の言葉が頭から離れなかった。
「自分は勇者ではない」って、一体どういうことなんだ? 今までの勇者としての振る舞い、王国の人々に見せてきたすべては、一体何だったのか。
「母さんは、このことを知っていたのかな?」
心の中でそう思いながら、俺は父を見た。父は遠くを見つめていて、何かを考え込んでいるようだった。
いったい何を父は考えているんだろう。この村に連れてきた真の理由とは何なのか。父が本当の勇者ではないと言った意味が、どうしても理解できなかった。
祭りの準備で賑わう村の中、俺たちは少し静かな場所に立ち止まった。周りの喧騒とは裏腹に、俺の心は静かに沈んでいた。
「父さん、今までのこと、全て演技だったの?」
口に出してみるが、父はすぐには答えなかった。ただ、その顔には複雑な表情が浮かんでいた。
この村には何か大きな秘密が隠されている。そして、その秘密は俺の運命を左右するものなのかもしれない。父の沈黙が、それを物語っているように思えた。
俺は心の中で溜息をついた。父が何を隠しているのか、その真実を知るために、もう少し待つしかない。でも、この祭りが終わるころには、全てが明らかになるはずだ。
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