第39話 氷結の魔術師と殺しの依頼
シャノンと再会した。
俺は体を震わせながら、その姿を見ていた。
あいつは、変わっていない。だからこそ、憎い。
「お、おい……どうした?」
「……」
「どうしたんだよ!? い、痛い!」
「……っ! すまん」
サーニャの反応に俺は首を横に振る。
深呼吸をして気持ちを和らげる。
謝りながら俺はサーニャから手を離す。
無意識に力が入ってしまったか。復讐相手が目の前にいる。それが引き金になりかけた。
サーニャと過ごした時間。それは決して無駄ではなかった。
落ち着け、冷静になれ。飛び出しそうになるが、必死に抑えつける。
手を握る力も強くなってしまい、俺は反省する。
せっかく出来た仲間なのに……俺ってやつは。
そして、俺が動揺している時もパレードは進行していく。
「シャノンさん! 今日もお綺麗ですね!」
「そうね、今日の服装は似合っていると思うわね」
「ご謙遜なさらずに! それでは、今日は何をお見せしてくれるんですかね?」
「えぇ、今日は……【二人】でこのパレードを盛り上げようかと」
二人……? 俺はシャノンの言葉に反応する。
誰か他にいるって事か。昂った感情はとりあえず落ち着く。
剣を引き抜くのを中断して、パレードに集中する。
今は駄目だ。この大勢の人達。魔術師だらけのこの場で……動くのはやめとこう。
それに、あいつがどれだけ強くなっているか。それは知らない。
だけど、仮にも天職の一人。ニーナとはまたタイプも違うしな。
どちらにせよ。無策で突っ込むのは危険だ。
そして、二人という言葉に敏感になったのは。
「おい、まさか……夢の共演か?」
「そうか! 【氷結の魔術師】なのか……!」
「それは楽しみねぇ!」
氷結の魔術師。その名を聞いても何も感じない。
名前通りに凍らせるという意味なのか?
周りは凄い盛り上がっている。これから何が開始されるのか?
そして、シャノンの横に登場した人物。
「……どうも」
「はい! という訳で……今回は、今を時めく有名人! シャノンさんとエドワード君のパレードの開始です!」
「嬉しいわ、優秀な生徒がこういうパレードに出てくれて」
「別に、シャノン先生の頼みなら仕方ないですよ」
シャノン先生と呼ぶ人物。白髪の短髪のボサボサ具合が目立つ。
そして、目付きが鋭く迫力が伝わってくる。
クールで何を考えているか読めない。そういう点はシャノンと似ている。
腹黒さはあいつにはある。そして、先生という事はあいつ……教師なのか。
そう言えば昔から人に何かを教えるのは得意だった。なるほど、天職を生かして教師になったのか。
気に入らないな。あのエドワードという男も敵になる可能性が高い。
今のうちにどういう力なのか見ておきたい。
「ふふ、素直でいいわね……」
「……ちょっと近過ぎですよ?」
「別にいいんじゃない? 教師と生徒の禁断の関係?」
「僕と同い年ぐらいでしょ? 俺が好きなのは年上なんでね」
「あら、フラれちゃった! 悲しいな」
……何なんだ? あのやり取り? シャノンとエドワードという男の距離が近い。
まるで付き合っているかのように。
男の方は拒絶気味だが、シャノンが無駄に育っている胸を押し当てている。
何か意図があるのか? 長い付き合いだからこそ分かる。
この場はシャノン達に注目が集まっている。あいつは無駄な事はあまりしないタイプ。
だからこそ、読めない。教師としての行動ならリスクが高過ぎる。
それ以上にシャノンが伝えたい事。したい事……何かあるのか?
周りを見渡して、俺は考えた事を試す。もしかするとあいつは……。
「あの子……」
「ん? どうしたんだ?」
「いや、何でもない」
声が出てしまう。それは盛り上がっている中で。
一人だけ俺と同じような目をしている女の子がいた。
憎悪がとても込められているような瞳。
何なんだ? ただシャノンとエドワードを見ている。怖いな……何が、どうなっているんだ?
多分、俺がさっきシャノンを見た時はあんな目をしていのだろう。
客観的に見れるいい機会か? と、そんな事を思っていると
やっば……目が合った。すぐに視線を逸らして、シャノン達を見る。
ドキドキした。いや、余計な行動は慎もう。
とりあえずは、あいつらの魔術がどんなものなのか。確認する必要があるな。
「それでは、シャノンさんとエドワード君による魔術合戦……皆さん、ご覧になって下さい!」
「それじゃあ、始めようか……課外授業だと思えばいいのよ」
「……あぁ、全力でいきますよ」
魔術合戦は、それは互いの魔術を競うものである。
と、あの女性から貰った地図に書かれていた。
戦闘とはまた別物らしく、あくまで相手に干渉はしない。
気性が穏やかな魔術師達だからこそ出来る事。
本当にそうなのかと首を傾げてしまう。
そして、開始された。
「魔術【雷球(さんだーぼーる)】」
雷属性……。やっぱり成長している。
黄色の球体は電撃を纏わせながら、シャノン指先で操作している。
そして、上空まで移動させて軽く爆発させる。
この場には黄色の閃光が散らされる。花火のような感じとなっている。
……綺麗だな。何発も発生させて、強さや大きさも変化させている。
高等技術なのは確かだ。真似しろと言われても無理な話。
シャノンの華麗な魔術とその美しさに。
この場は最高潮の盛り上がりとなる。
だが、しばらくして落ち着いた後。
「魔術【氷晶塔(クリスタルタワー)】」
な、何だ……これ。一瞬にして氷の塔が作られる。
冷気のない場面でこれだけの氷魔術は見事。
何メートルあるのかと突っ込みたくなる。
あれは攻撃にも防御にも使用が出来る。……厄介な相手だな。
シャノンの雷球の凄みがすぐに消滅する。本当に氷ついたような感覚。
エドワードは俯きながら、服のポケットに手を突っ込んでいる。
何処までもクールな奴だな。俺は、眉を険しくしながらそれを見ていた。
「すっげぇ! 流石は【天才】だな」
「あぁ! 天職じゃなくてもあれだけの高密度の魔術を出せるんだ……」
「そうだよなぁ! 本当にエドワードは俺達の希望だ」
「それにカッコいいし、やっぱりクールだよねぇ」
「私、告白しちゃおうかな……なんちゃって」
この都市の人にとっては尊敬と希望の象徴なのか。
確かに、天職と通常のスキルでは差がある。
あのエドワードも天職と同等ぐらいの力があるのだから。
自分達も努力すれば……という気持ちになるだろうな。
そして、魔術合戦はさらに激しさを増していく。
「魔術【氷球(アイスボール)】」
「魔術【雷檻(サンダージェイル)】」
「おいおい! なんか本当にレベルがちげーぞ……」
「あぁ、マジで化け物みたいな奴らだな」
「凄い凄い! シャノンさんとエドワード君! 二人の天才による魔術のぶつかり合い……そして、披露している!」
進行役の人も興奮しているな。
でも、サーニャの言う通りだ。レベルが違う。
ニーナも凄かったが、別の角度で凄みを感じる。
魔術の知識も経験もない俺にとって。
かなりの強敵であるのは間違いない。
とんでもない奴がまた現れたな。どうしたものか?
雷と氷。二つがぶつかり合い、氷の結晶と花火が発生する。
融合した二つ。このパレードの華やかさを増している。
魔術は魔力を使用して初めて発動させられる。
だから、自分の魔力量とセンスが問われる。その分、効果は絶大。
回復させたり、あんな風に雷とか氷とか発生させたりと。
何か対策は必要だな。今のままでは勝てない。
パレードの終了と共に。俺は足りないものを分析する。
いや、足りていない……ものの方が多い。
とりあえずは宿に戻ってから考える事にしよう。
「いや……それにしても凄かったな! 初めて見たけど感動したぜ」
「……そうだな」
「特に、あの人、そう! シャノンさん!」
俺は足を止める。サーニャにその名前を呼ばれて再び蘇る。
感情が爆発しそうになる。言うのを忘れていたな。
ここは、人気のない都市の路地裏。辺りを見渡して入念にチェックする。
もうサーニャも同じ。復讐を手伝って貰う関係。
という事は伝えておく必要がある。
……とその前に。
「そこにいるのは分かってる! 出て来いよ……」
「は、はぁ!? 何言ってんだ……ろ、」
「何で分かったんですか? 気配は消していたつもりなのに」
スキルの影響か。気配をとても感じた。
俺の予想通り、路地裏の物陰に隠れていた女の子。
……あの時の女の子か。気配を消したつもりだったと思う。
だが殺気が凄い。瞳からそれが伝わってくる。
パレードでシャノンを見ていた視線。あれは本物だった。
サーニャが俺の名前を言いかけた所で。
「やっぱり、貴方がロークでしたか」
「……俺の名前を知っているのか?」
「えぇ、パレードを進行していた女性を覚えていますよね? あの人から……聞きましたから」
やっぱり気付かれていたか。
顔がバレていない。しかし、情報が出回っている。
もう隠すのは無理っぽいな。だが、それでも接触してくるこの女の子。
何が目的だ? 金か? それとも……。
「そうですね……貴方に頼みたい事があるんです」
「俺に?」
「えぇ、それはあの女……いえ、シャノンを殺して欲しいんです」
俺をそれを聞いた時。耳を疑った。まさか、自分以外の人物から。
それを望んでいる人が現れるとは。思ってもいなかったからだ。
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