第8話 進化する力
さようなら、トリス村。
色々あったけど一応育ちの故郷だから感謝はする。
だけど、今となっては憎しみしか生まない場所。
使い古された剣と少しの食料を持って俺は旅立つ。
朝早く、あいつらが馬鹿騒ぎした後だった。
畜生が許可書は持ってきたが何も意味を成さない。
勇者トウヤが言っていた。癪だけど、俺という存在はもう罪人扱い。
すぐに世界中に知らされて、情報が伝わるのも時間の問題。
俺は、すぐにでも出発したかった。だけど、その前に片付けたい問題がある。
「……そろそろ、起きた方がいいですよ! というか、目覚めているんですよね?」
「あぁ」
「これからもうどうするかですよ? 俺は貴方の名前も知らないし、助ける余裕もないです……まぁ、ここまでは助けましたけど」
「妻にも娘にも見捨てられて俺はもう」
「それはもう知ってます、俺も……味わった痛みですから」
トリス村に長くいたのにこの人を俺は知らない。
まぁ、人数は少ないと言っても交流してない人も当然いる。
座ったまま動かない魂が抜けた男性。
俺は、どうしようかと考える。
このまま置いて行くのが一番いいだろう。
助ける義理もないし、よく面倒をみた方だろう。
それに何だか体中が再び熱くなっているような。
フローレンの薬による効果? いやそれとは違う。
体に馴染んでいるような熱さ。俺の体に何が起こっているんだ。
とにかくここから離れないと。
「それでどうします? 俺はもう行きますよ」
「……俺は、戻る」
「……はぁ?」
「何かの間違いだ、何かの間違いだ」
「分かってるんですか? もう、貴方の奥さんと娘さんも以前とは違います……それでも」
「俺は君みたいに簡単に切り替えられない」
それだけ言って男性はふらふらと歩いて行った。
何でそうなる。戻った所で待っているのは地獄なのに。
だけど、それが本人の意志だったら仕方がない。
止める権利もないし、そこまでする必要性はない。
「ぐぁぁぁぁ!」
「愚かだな、どこまでも」
「だが、これでお互い終わりだ」
本気かよ、殺さないって言うのも嘘だったのか。
振り返った時にはもう死んでいた。
体を真っ二つにされ、男性は苦しむ時間もなかった。呆気ない最期。
初めて見る人が死ぬ瞬間。瞳を見開きながら、しばらく静止していたがすぐに現実を直視する。
「ロークだな、悪いが勇者様の命令でお前をここで殺す」
「……どうしてあの時殺さなかった? その方が楽だっただろう」
「流石に証拠に残るのは不味いからな、仮にもお前も儀式を受けた者だからな」
本で読んだことがある。儀式を受けてスキルを取得した者。
それは王国の書籍に記録されている。だから、あまり派手な動きは出来ない。
例外というのはある、と強調されて記されていたけどな。
今回のそれが勇者が絡んでいるとすれば、それが適応されるだろう。
朝早くからあまり眠れていないのに。
本当に腐ってるな! 勢いよく剣を抜刀する。
もう剣が重いとか言ってられないな。そういう次元ではない。
「抵抗するのか? 無駄だ……我らは勇者様の護衛として選ばれた精鋭! 錆びれた剣士に負けるはずが」
体が軽い。尚且つ、俊敏に動けて手に取るように何をすればいいか分かる。
気が付いたら相手の肉体を斬る。やられてしまった男性と同じ運命をお見舞いしてやる。
やっぱり何かが変化している。肉体、反射神経、動体視力あげたらキリがないな。
それと決定的に大きな違いがある。
「お、おい……聞いてねえぞ! こ、こんなに強いなんて」
人を殺す事に。戸惑わない、躊躇しない。斬られた肉片を見ても、大量に流れ落ちる血を見ても。
それが敵で殺す相手だと認識すると、殺人鬼のようになる。
剣に付着する赤い液体。流れ落ちて、それは地面に垂れていく。
「はは、簡単なことだったんだな」
ゆっくりと歩きながら、俺は剣を残っている護衛に向ける。
一人殺したらもう後は同じ。
どのみちもう俺は真っ当な生き方は出来ない。
だったら、邪魔する者。俺の道を阻み者は……。
「殺すだけ」
この感覚。何かに目覚めたのか? いや、でもマナ石は何も変化がない。
マナ石が現在のスキルを教えてくれるとしたら。
俺はまだ錆びれた剣士のままという訳か。
剣を弾き飛ばし、護衛を足払いで転ばせて顔の前に剣を突き刺す。
「勇者様、無念です」
「護衛にしてはそんなに強くないな? 捨て駒って訳じゃないよな?」
「失礼な奴だな? ぐ……だが、見くびり過ぎていたか?」
「どうでもいい」
首をかき切って追って来た護衛を二人とも殺す。
隙も与えず、直属の護衛をやってしまった。本当に何なんだ。
まぁいいか。とにかく、今の物資と武器では不安だからな。
こいつらから色々と物色していくとするか。
数分後。俺は、殺した二人から武器とお金を奪っていく。これだけあればしばらくは困らない。
後は……。無残に護衛にやられた男性の元へ行く。
「すみません、助けられなくて」
気持ちが落ち着く。護衛を前にした時との感情の昂ぶりがない。
やはり何かが引き金となっている可能性がある。
だけど、それが明確じゃない。制御とかが出来ればまた変わると思うけど。
……それにしても、後味が悪い。きっとこの人も家族に会えていれば……いや、考えるのはやめよう。
もう、後戻りは出来ない。誓ったからにはやり遂げないといけない。
世界を敵に回すか。本当に大変なことになったよな。
そして、俺は殺した護衛を物色した中に。この世界の地図も含まれていた。
これを頼りに街に向かおうとする。
時間はない。だから急ごう。
待ってろよ、必ず……次会う時は。
グシャりと地図を握り締めながら目的地の街へ向かって行く。
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