第12話 サタン火山と剛腕の剣士


 一日宿屋で宿泊した後。サタン火山に向かう。

 もちろんしっかりと準備はした。

 一人で向かうため大量の物資は必要であった。

 長期戦を備えての、食料と水分。そして、替えの剣。

 これらが買えた理由。それは、書類の下の方にあったメモ書き。


『お店とかはここを使うといいよ! どうせ、貴方はこの街でも悪者扱いされているから……このお店なら、誰でも受け入れてくれるし、勇者に忠誠心がまりないからねーそれじゃあ、精々生きて帰って来られるように頑張ってね!』


 味方なのか敵なのか。よく分からない。ただ、助かった。

 簡単な地図も書かれていて、その店は品揃えが豊富。

 そして、他の店と違う雰囲気があった。

 怪しいと言うならそうだけど、店主も変わっていた。


「何かようか? つうか、今から飯なんだが」


 愛想が悪く、目付きが鋭い店主。

 確かに客もあまり来ていない。

 しかし、コアな客層が訪れているとのこと。潰れていないのが何よりの証拠か。

 その店主の名は、【ヤミイチ】という。

 俺は、晩飯前に訪れたことを謝りながら、事情を話す。

 すると、ヤミイチさんは椅子から立ち上がる。


「お前が……そうか」

「明日から俺はサタン火山に向かいます……その為には準備が要ります」

「だから、俺の店を利用したのか」

「話した通り、俺はもう普通の生き方は出来ませんからね、だからこうして頼んでいるんです」

「別にそれはいい! だが、本気であそこに一人で行くのか? それも、その依頼の内容からしてお前じゃ倒せるかどうか」

「はい、とにかく強くならないといけないので」


 迷ってられない。俺は、店主に力強く宣言する。

 ヤミイチはため息を吐く。静寂の時間が流れる。

 やっぱり駄目か。そうだよな、協力したら何をされるか。

 俺に協力した時点で、大きな力で潰される危険性がある。

 この人にも事情がある。巻き込む訳には……。


「俺はこの世界も、王国も、そしてあの勇者も嫌いだ」

「……はい?」

「ここの店に来る奴らは、そういう奴が多い……王国ははっきり言って腐ってやがる! みんな言わないだけで不満も多いもんだ」

「腐っている? なんでそんなことが?」

「……俺も元はアレースレン王国にいたからだ」

「まじですか?」


 まさかの展開。内情をよく知っている人間がいれば心強い。

 ここは是非とも仲良くなっておきたい。

 俺は、ヤミイチさんに誓った。


「だったら、俺に任せて下さい……俺に投資してくれれば、必ず貴方にとって得になりますよ、それは絶対に保証します」

「ほぉ、だけど聞いた話だと今のお前は弱くて使い物にならない」

「えぇ、だからこれから強くなるんです、というかならないといけないんです」

「……威勢がいいな、しょうがねえな」


 すると、棚から素早く必需品を取り出す。

 回復薬に食料など。凄い大量である。

 こんなに一度に差し出されても困る。持ち合わせの金はそんなにない。

 俺は、困惑しながらそれを見ていた。

 だが、ヤミイチさんは背中を叩いてくる。これがどういう意味なのか。


「いいな! この食い物とかはお前に預けた……金がねえんだろ? そんなに言うんだったら、証明して見せろ! どのみち死ぬ気で行くんだったら、協力しねえつもりだったが、お前から感じる雰囲気はただ者じゃない」

「……ありがとうございます」

「ただし! 生きて帰って依頼を達成したらその時は還元しろよ? まぁ、あまり期待はしてねえけどな」




 ―――こうして今に至る。


 セルラルからサタン火山に向かう。

 距離的には情報通りそんなにない。

 早朝に行ってサクッと済ませたい。

 不安定な状態だが、これだけの物資を補給して貰った。

 期待はしていないという言葉。依頼を終わらせて取り消させたい。


 着いた。気温が少し上がったか。火山灰が目立つ。

 セルラルはこのサタン火山にある鉱石。

 それとこの火山による熱も利用しているという。

 噴火の時は結界を発動させて、被害が出ない様に徹底している。


 と、色々と情報を整理する。

 俺にとって初めての任務。緊張はするけど失敗は出来ない。

 入念に確認を行って遂にサタン火山に向かおうとした。


「おい! ローク……ロークじゃねえか!?」


 足を止めてしまう俺。

 聞いた覚えのある声。これは……あいつか。

 そこに立っていたのは、赤いツインテールが特徴的な奴だった。

 両方に剣を装備している。まさか、二刀流の剣士か?

 初めて見るサーニャの姿に俺は驚く。

 炎の剣士に二刀流。そりゃ、期待もされるか。俺は自身と比べての情け無さに劣等感を感じる。ただ、悩んでる俺とは違ってサーニャはいつも通り。


「やっぱりそうだったか! いやぁ……こんな場所で会えて偶然だな! にししし!」

「それはこっちの台詞だよ……どうして、こんな所にいる」

「そりゃ、私の師匠がここで修行しようって言ったからさ!」


 マジかよ。俺は、とても嫌な予感がした。

 サーニャの師匠。それは、俺が一番会いたくなくて、憎い相手である。


「おーい! サーニャ、そんなに急ぐなよ! 急いだって魔物は逃げて……あ?」

「……やっぱりそうなるよな」


 恐れていたこと。それが現実となってしまう。

 剛腕の剣士と呼ばれ、その怪力と剣の技術は最強と呼ばれている。

 岩も粉砕し、並大抵の敵を圧倒する力。

 勇者トウヤの付き人の一人であるニーナ。そんな奴と再会してしまう。


 昔と違って伸ばした青い髪。それを手で払いながら。


「あぁ……誰かと思えばロークじゃん、おひさー!」

「え? し、知り合いだったの!?」

「……ニーナ」

「す、すげーじゃん! あの、ニーナさんと知り合いなんて! 何があったの?」

「……悪いな! サーニャ! 先に行っててくれないか? なーにすぐに追いつくさ!」


 話がややこしくなる。それはお互いにとってよくない。

 サーニャは何も疑う事なく、ビシッと敬礼をしている。

 健気で素直過ぎるな。真実は教えられない。きっとサーニャが悲しむ。

 というか信じて貰えないだろう。俺は、そんな夢を壊さない様に空気を読む。

 鼻歌交えながら、サーニャは軽い足取りでサタン火山へと向かって行く。


 そして、姿が見えなくなった後。


「あっはははは! マジで何か変わったよね、ローク?」

「それはお互い様だろ」

「まぁ、そだね! あんたは全てを失って、あたし達は得たものがある……ロークと居ても絶対に手に入らなかったものばかりだったぜ」

「……それはよかったな」


 腹を抱えてニーナは笑っている。よっぽど今の俺の状況が愉快なんだろう。

 楽しくて仕方がないのだろう。ふざけてるな。

 怒りを必死に抑えながら。せっかくの機会。情報を抜き取るチャンスだ。


「何でこの場所にいる? アレースレン王国に居ればいいだろ」

「そんなに会いたくなかった? そうだよなぁ……目の前で吐かれたの見られた相手だもんな! それとも、私達が恋しくなったか?」

「……お前、どこまで」

「お? やるか? いいぜ! お前を殺しても誰も悲しまないし、責める相手もいないからな! セルラルの街の奴らの反応を見ただろ? 本当に馬鹿な奴だよなぁ」


 煽って来るのは相変わらずだ。

 挑発には反応しない。

 悔しいがここでニーナと戦っても勝てる保証はない。

 冷静に対処していくしかない。サーニャがいる以上あっちも下手な行動は出来ないだろう。

 それにしても何が目的だ? 俺を痛めつける? それだったらサーニャと絡む理由はあまりない。

 俺は、ニーナから話を聞きたい。信用するかどうかはそれから。


「どうでもいいよ、それよりも何でこの場所にいる? 王国にずっと居た方が有意義何だろ?」

「そうだなぁ、でもお前に答える必要はないよなぁ?」

「……変わったな、昔は何でも正直に答えていたのに」

「ぷ! まだそんなこと言ってんのかよ? 気持ち悪い」

「王国で何があったかは分からないけど、あの勇者に魅了されているお前らも気持ち悪いけどな……どうせ、血も繋がっていない赤の他人なんだし」


 勇者のことを言うとニーナの目が鋭くなる。

 地雷を踏んだか。どうやら、ニーナにとってあの勇者は羨望の塊。

 何でも与えてくれて、何でもしてくれる。恰好いい男性。

 怒った時のニーナは手が付けられない。それは、この反応を見ればよく分かる。


 昔、喧嘩になった時。殴り合いに発展し、ボコボコにやられた思い出がある。

 だから、本気になったニーナは相手にしてはいけない。

 しかし、それはまだ村に居た頃の話。

 今となってはそれも関係ない。さて、どうしたものか。

 この緊迫した状態で、戦う訳にはいかない。


「おーい! 何やってんすか?」

「……呼んでるぞ」

「……あぁ、まぁ今回は見逃してやるよ、ただ、次会った時は」


 サーニャが大声で呼んでいる。

 静かに返事をしてニーナはそちらへ向かう。

 だが、通り過ぎてゆく時に。


「確実に痛めつけて、苦しめて殺してやる」


 聞いたこともない低い声だった。

 普通なら恐れるところ。だけど、俺は何も言わずその場で突っ立ているだけ。

 俺は、向かって行く二人の後ろ姿を見る。


「悪いな、サーニャ……次会う時は敵としてかもな」


 睨み付ける俺。そして、俺のスキルはさらに進化していった。

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