第11話 ギルド協会と依頼


 サーニャに絡まれて別れた後。

 俺はギルド協会に向かった。

 とにかく俺には金が必要だった。高額な依頼を受けて稼ぎたい。

 すぐに協会の前まで到着する。迷わず扉を開ける。

 幸いにも現在は人があまりいなかった。

 助かると思いながら、俺は受け付けに向かう。


「あら、依頼を受けたいのかしら?」


 受付のお姉さんは、欠伸をしながら対応している。

 やる気がないな。俺は、何か依頼がないのかと聞く。


「うーん……君が求めているような依頼はないかな?」

「何でもいいです、今受けられる中で一番高い報酬金が高い依頼は何ですか?」

「そうね、厳しいわね」


 偉く消極的だな。

 予想として冒険者には【ランク】というものが存在する。

 Eランクが最低でSランクが最高。

 俺はこの最低ランクに位置する。だから、受付もあまり高難易度の依頼は勧められない。

 依頼中に死なれたりしたら責任問題。まぁ、自己責任って場合もあるけど。


 ――仕方ないか。手段は選んでられない。


「……責任問題ですか?」

「少し何を言っているか分からないわ」

「依頼中に死なれたりしたら勧めた受付の責任になりますもんね」

「はぁ、大きな怪我をするから敢えて止めてたのに……噂の剣士さん?」


 その受付の一言で。俺は、眉を顰(ひそ)める。やっぱり気付かれていたか。

 ため息を吐きながら、さらに問い詰める。


「それを知っているってことは……貴方も色々と根回しされたんですか?」

「あんまり深くは言えないけどね! ほら、ここら辺の人達はみんな知っているよ」

「……そうでしょうね」

「でも、私は別にどっちでもいいんだけどね! 貰うものは貰ったし」


 この受付のお姉さん【ソルト】はあまり深くは考えていない。

 今回の一件も面白いと思っている。

 本音を漏らしながらソルトは俺に話をしてくる。


「貴方の言う通り……冒険者に紹介する依頼はランクとかスキルに見合ったものを勧めているけど、責任とか色々とめんどくさいのよね」

「受付の方がそれを言ったら元も子もないですね」

「でも、冒険者も無責任だから、割に合ってないことを言ったり文句を言ったり……考えただけで虫唾が走るわ」


 うわぁ……言っちゃたよこの人。

 俺は引き気味でソルトの意見を聞いている。

 愚痴を披露する場面ではない。いつもは笑顔で振るまっている。

 だけど、ストレスは相当溜まっているんだろう。

 話を戻そう。


「苦労話は置いといて、別に俺は死んでも構わない……貴方も知ってるんだったら、この意味が理解が出来ますよね?」

「そう言ってくれた方が助かるわ」

「もし、俺が死んでも【勇者の指示通りに殺した】とか言えばどっちに転んでも貴方にリスクはない……」

「それもそうね! 貴方が死んでも悲しむ人なんて誰もいないし、寧ろ死んでくれた方が私にとっては都合がいいかもね」


 はっきりと物を言うな。ソルトは何も包み隠さず自分の気持ちを伝える。

 笑顔が狂気的だ。仮にも他の冒険者が居るのにな。

 私利私欲で受付の仕事をしている。まぁ、それは別にいいんだけど。

 ここまで、隠していないと清々しい。

 逆に信用……出来るのか? すると、ソルトは棚に隠していた書類を取り出す。


 そこには沢山の依頼が書かれていた。

 見たこともない場所。内容も難しいものばかりだった。

 求めていたものはこれだ。

 俺は、大量の書類を見つめる。なるべくセルラルに近い場所がいい。


「何か要望とかないの? ソルトお姉さんが見つけてあげる」

「なるべく近い場所がいい、報酬金も高いのがいいですね」

「我儘ね」

「時間があまりないですからね! 貴方の言う通り、協力してくれる人もいないから」

「あら、皮肉って言って訳じゃないんだけどね」

「……あ」


 俺は何かを見つけて一つの書類に注目する。

 これは、今の俺にとって都合のいい依頼かも。

 ソルトの前にそれを差し出す。


「これって……【Aランク】相当の依頼! へぇ、本当に死ぬ気なんだね」

「【サンタ火山】この場所はこの街から近い! さらに、依頼料も高額だったら受けるしかありませんよ」

「ふーん、まぁいいけど! じゃあここにサインをして頂戴」


 ペンを渡されて俺は書類の欄にサインをする。

 基本的に依頼は期限が決まっている。

 今回は一週間以内にこなして欲しいとのこと。

 内容は魔物の討伐。場所はサンタ火山。


 ソルトさんが言うには、Aランク相当の難易度。

 当たり前だが気温が高く、体の水分が奪われる。

 たまに噴火が起こっているらしく、運が悪いと巻き込まれる。

 聞いただけで最悪の場所。しかし、それ相応の対価はある。

 サインを終えて、書類を提出する。


「ふーん、ロークって言うんだ」

「これで大丈夫ですよね」

「いいわよ、頑張ってね! ローク君」

「白々しいですね……貴方にとっては俺が死んだ方が都合がいいんでしょ?」


 簡単に名前で呼ぶソルト。

 自分の態度も宜しくはない。反省すべき所はある。

 しかし、この人は軽過ぎる。警戒心が高い俺にとってソルトさんは危険な存在。

 今までの言動を振り返っても、自己中心的な所がある。

 本当に怖い。疑い過ぎかもしれない。


「そう聞こえる? でも、その方がいいかもねー」

「はぁ、でも貴方みたいに正直に言ってくれる方が信用出来ますよ」

「酷ーい! 私だってちゃんと人の心はあるわ! ローク君が生きて帰ってこられるように願っているわよ」

「もういいですよ! 簡単には死なないですけど」

「その意気よ! いってらっしゃーい!」


 たく、ここまで心がこもっていない応援も珍しい。

 でも、出会ったばかりの人間。それに、自分に理があればそっちにいくよな。

 別にソルトさんが悪い訳ではない。これが当然なんだ。

 書類を持って行って、早速準備をしよう。


「あ、最後に聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「……まだ聞きたいことがあるんですか?」

「今日、勇者様の付き人が来たって聞いたんだけど……もしかしてあれが君の?」


 ニーナのことか。

 ソルトは台の上で頬杖をつきながら聞いてくる。

 興味があるのか。俺とニーナの関係。過去に何があったのか。

 詳しいことは話すつもりはない。でも、不本意な箇所はあるけど一応は依頼を紹介してくれた。


「そうですね、同じ村出身だったというだけですけど」

「へぇー噂は本当だったんだ」

「……兎に角、もう行きますよ! あまり時間はないですからね」

「ふふ、それが知れただけでいいわよ! 面白くなってきた」


 最後の方はあまり聞こえなかった。

 聞かなくてもいいことだろう。

 本当に信用がならない。俺は、これ以上は何も言わずギルド協会を後にした。


 目指すは、サンタ火山。魔物の討伐。やってやるさ……絶対に。


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