第27話 許されない言葉と家族愛


 まるで感情を剣に伝える様に。

 俺は、メイドのシエルに向かって行く。

 怒りが爆発し、俺は目付きを鋭くしてシエルを睨み付ける。

 そして、剣を力一杯振って、斬撃の攻撃を当てようとする。


「ふふ、甘いですよ」

「……っ!」


 やっぱり鎖か。直前で俺の攻撃は鎖によって防がれる。

 二つの鎖は交差して、盾のような扱い方になっている。

 厄介だな。まるで生き物みたいだな。

 恐らく、魔力によって動かしているのだと思う。

 こいつのスキルも魔術系だと予測する。俺は、一度距離を取る。


 後ろではヤミイチさんが気絶している。どうにか、守りながら戦わないと。

 冷静になれ。落ち着いて対処しろ。

 俺は、大きく深呼吸をする。しかし、シエルは俺を逆撫でするように。


「あら? そんなものなのですか? それでは、そちらで倒れている方達が可哀想ですね?」

「……この野郎」

「ねぇ、シエル! はやく倒してくれないかしら? 王国に帰ってゆっくりと休みたいわ」

「えぇ、そこでお待ちを! すぐに終わらせます」


 やっぱり冷静になるのは無理だ。

 俺は、咄嗟に地面を蹴って距離を縮める。

 それと同時に鎖が変則的な動きで迫って来る。

 初見で対応はし辛い。けど、全く見えないことはない。

 左右に回避しながら、鎖を剣で斬る。


 ――――斬れた!? 強度はそんなにないのか。豆腐のように柔らかく思えた。

 けど、それは俺が強くなっている影響なのか。

 そんなに簡単に斬れるものではないよな。警戒しつつも、鎖が地面にバラバラと落下する。動きが停止したそれを見て、俺はシエルに近付く。


「なかなか、やりますわね」

「こっちこそすぐに終わらせてやるよ!」

「それはどうですかね?」


 後ろか。背後から迫る鎖。それに気が付いて、いち早く対応しようとする。

 どうやらこの鎖は、魔力が続く限り無限に生成が出来る。

 厄介だな。こうなると、剣技を使わないと勝てない。

 まぁ、丁度いいかもしれない。この一か月、山で籠った成果を見せる時だ。

 俺はすぐに集中力を高める。迫る鎖を自分の視界から消す。

 焦り、恐怖を打ち消す。俺は、新たな剣技。


「剣技! 【風車】(ふうしゃ)!」


 周囲に風が発生する。それはまるで風車のように回転する。

 背後から迫る鎖。前方から迫る鎖を一瞬で粉々にする。

 破壊力は勿論だが、これは防御にも使用が出来る。

 実践で使用する事はあまりなかった。だけど、ここ一番で大成功した。

 剣をその場で振って、俺はシエル達の前で胸を張る。


「剣技ですか? これは予想外でしたね」

「あぁ」

「苦戦しているようだけど大丈夫なの? はやく、倒して頂戴!」

「すみませんね、まさかあの錆びれた剣士が、剣技を使用するとは思いませんでしたから……」


 苛立ちを高まる。今までの流れから。俺は我慢していた。

 どうせ、何を言っても無駄だと分かっているから。

 言葉で解決したのなら、こういう状況になっていない。

 あの三人も今頃は隣で一緒に戦っていた。そういう未来もあったと思う。

 無駄、だと理解していても。俺は、言いたいことがあった。


「こんなり間違ってる……おい、あんた!」

「え、私に何かあるって訳?」

「これを見て何とも思わないのか?」


 俺が言ったのは倒れている娘と父親のこと。

 本来ならば、家族を守るのが一番大事。

 優先順位とかそういう言葉は使いたくない。

 だけど、この場では家族が一番大事じゃないのか?

 勇者とかこのメイドは論外。だが、この母親は……。


「それは関係ないことよ、貴方に言われる筋合いはない」

「あぁ、確かにそうだな! けど、この人を好きになって結婚をして子供を産んで……その責任を果たす義務はあるんじゃないのか?」

「責任、それこそ私の勝手よ!」

「……それに、あんたは裏切った! 勇者と寝て、さらにこの人の気持ちを利用してさらに……それなら初めから好きになるなよ」

「黙りなさい! 所詮、人を好きなったことも、愛したこともない子供は黙っていればいいのよ!」


 あぁ、やっぱり駄目だ。ごめんな、ヤミイチさん。

 俺は、心の中で謝りながら。ヤミイチさんの奥さんに迫る。

 何か打開策があると思った。だけど、何もなかった。

 体も心も犯されているこの人。平気で家族を裏切れる性根。

 この剣で斬るしか他ない。このままでは、ヤミイチさんも俺も殺されてしまう。

 飛び上がり、俺は空中から勢いよく剣を振り下ろす。


「シエル!」

「分かってますよ……魔術【無限鎖(むげんぐさり)】」


 四方八方から鎖が俺に襲う。

 その名の通り、シエルの武器である鎖が無限に発生する。

 もちろん魔力が続く限りだと思う。

 そのタイミングに合わせて、俺も剣技を発動させる。


「剣技ぃ! 【竜巻旋風(たつまきせんぷう)】」


 これが出せる俺の全力。

 集中力を最大限に高めてジャンプ力を生かして剣技の威力を高める。

 勢い落下しながら、無数の鎖にも負けない様に。

 同時にこれで全てを終わらす勢いで。俺はもう既に覚悟が出来ている。

 すみません、これは俺の独断の判断かもしれません。

 けど、貴方にとってこの人達はもう……家族ではない! 


 剣を前に突き出す。竜巻は一気にシエルとリエルに放たれる。

 相変わらず凄い。それも一か月前と比べてさらに進化している。

 これならいける。密集する鎖。それでもこの威力なら……。


「ふふ、甘いですわね」

「な、なぁ!?」


 しかしそれは俺の想像以上だった。

 無限鎖。それは一カ所に鎖が集まって攻撃を防いでいる。

 ……嘘だろ。最大威力の剣技が見事なまでに。

 これは、予想と遥かに鎖が強固だった。さらに、鎖自体にも魔力が集まっている。

 並大抵の攻撃では壊せない。竜巻旋風は見事に防がれる。


 しかし、相手の鎖はそれで破壊される。

 だけど、あまり意味はない。どうせ、新たな鎖は生成される。

 今のでもう剣技はしばらくは使えない。

 集中力と体力を多大に使用する。まだまだって所か。

 段々と完全に日が昇ってきた。街の人達はどうなっているんだ?

 こんな場所で戦闘していたら。誰かが駆けつけるはず。


 まぁ、事前に避難したとか。そういう事だろうが。

 俺は、息を荒くしながらシエルの方を見る。


「これで終わりですか?」

「……ぐ」

「言っときますけど、逃がしませんよ? どちらかが倒れるまで戦い続けて下さいね」

「あんたもいいのかよ? このままあんな勇者の元に居たら……」

「あら? 何を言い出すかと思ったら、私は別にいいのですよ! 勇者様に体などを差し出せば……家族を守ってくれますから」

「は、はぁ?」


 本当に分かんねえよ。これが洗脳とか魅了じゃなかったら何なんだよ。

 人の弱みに付け込んで、あいつは手を出し続けている。

 このメイドもその一人。ただ、あまり悲しんではいない。

 シエルにとって、家族は自分よりも大切な存在。

 自分を犠牲にして、家族が救われるのなら……。


「これも一つの家族愛ですよ! 勇者様は住む場所、食べる物、全て与えさせてくれます」

「信じられねぇ……信じられない! あんたはそれでいいのかよ」

「えぇ、いいのですよ! さて、お話はこれぐらいにして、さっさと終わらせましょ? 私も負ける訳にはいきませんから」


 シエルは笑いながら。再び鎖を作り出す。戸惑いながら俺も剣を握り直す。


 俺だって負けられねえよ。必ずあんたを倒す。

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