第79話 セルラルの仲間達と新たな提案

「さてと、次の戦いの話をしようか」


 上官の集まる部屋。そう聞いていた。

 だけど、この部屋に集まっているのは、私がよく知っている人物が集まっている。

 勇者トウヤを筆頭に。ナイルという名前のおじさん。そして、私と前に敵として一度は戦った。

 カゲノとサキの二人もこの部屋に居た。

 それぞれが指定された席に座って、私とコルニーは隣同士で席に着く。

 それと同時にトウヤは話を始める。


「集まって貰って済まないな! まずは、次の制圧目標を伝えるとしよう……」


 全員がトウヤに視線を集中させている。

 うぅ、こういうのは苦手だ。

 だけどしっかりと聞かないと。怪しまれる表情とかしちゃいけない。私は、自分でも驚くぐらいの真剣な表情で話を聞く。しかし、トウヤからの次の制圧目標を聞いて、黙ってられなかった。


「次はこの【セルラル】の街を目標にすると考えている」

「……な、なぁ!?」


 私は席を立ち上がってしまう。

 勢い余って座っていた椅子も倒してしまうぐらいに。怪しまれないと言ったのに。

 セルラルと聞いて私は感情を剥き出しにしてしまう。い、嫌だ。何で、こうなるんだよ。

 他の国や街でも嫌だが、特にお世話になった人がいるセルラルは特別だ。

 みんなの視線が私に集まる。そして、トウヤは私に薄ら笑いを浮かべながら話しかける。


「どうしたんだ? 別にセルラルは制圧するのにそんなに支障はないはずだが? 何をそんなに驚いている?」

「ほほほ……いやいや、若いというのはいいですな! 元気があってよいではないですか?」

「ど、どうしたの? そんなに驚く場面だったの?」


 それぞれが違う反応を見せてくる。

 やっちゃった。とても目立ってしまった。

 私は次に何を言おうかと迷ってしまう。

 言葉ば思いつかない。どうすればいいんだろうか?

 とても胸が苦しい。私は必死に次の言葉を考えていた時だった。


「さ、サーニャちゃんは、多分……気が動転してしまったんだと思います! 慣れていないんだと思います……それは、僕も同じですが」


 コルニーは私を庇った。

 そのフォローで私は静かに謝りながら席に座る。

 こんな反応をしてしまったら。

 私とこの街が何か関係があるかと疑われてしまう。

 いや、もうバレてるかも知れない。

 私の悪い勘というのは当たってしまう。


「その女は私達と戦った、そして……まだ私は信用をしていない」

「……私もそれは同じだ!」

「やめろ、今は歪みあっている場合ではないだろう……とにかく、話を進めよう」


 殺気が凄い。目立たないとは言ったけど、もう駄目だろうな。そもそも、天職の力を受け継いだ時点で。私はもう後には引き返せない。

 ……最大限にそれを使わねえと。

 まだ絶対に死ねないからな。ロークやみんなと会うまでは。


「ほほ、それは私から説明しましょうか……まずは、今回の目標のセルラルですが、大した事はないと予想されます」


 髭を触りながらナイルはセルラルを大した事ないと。確かに、それは私も同じ意見だ。

 街自体は大きいと思うが、兵士などは居ない。

 あー……どうだっけ? 確か【ヤミイチ】は元アレースレン王国所属だった。そうやって本人から聞いた事がある。


 思い出した。私はあの人に勝てなかった。

 才能が溢れる炎の剣士としてみんなから褒められて。そして、持ち上げられて私は調子に乗っていた。

 どんな奴にも負けない。私は……天才なんだと。

 でも、ヤミイチに負けたあの日から。

 私は変われたのかも知れないな。





「あまり調子に乗るな……死ぬぞ」

「へへーん! 私だったら誰にも負けねえぞ! どんな魔物や敵だって倒して見せるぜ!」


 最初にヤミイチさんに出会った時。

 私は新人の中でも他に負けないぐらい強かった。

 自信はとてもあった。これなら、すぐに冒険者の中で自分の名前を世界に広められる。

 そう、思っていたのに……。


「俺は色んな奴を見てきたから分かるが……お前のような奴はすぐに死ぬ」

「……へぇ、何でそう言い切るのさ?」

「それは、お前が馬鹿だからだ」


 単純で簡単だけど。私を怒らせるには十分だった。

 むかー! ほぼ、初対面なのにムカつく。

 相手の男は明らかに私を煽っている。

 これは許されない。そして、相手の男は剣を取り出す。


「いいか? どんなに強い力を持っていても大切な者を守れない時がある……」

「……どういう事だよ?」

「お前もこの先そういう風に悩む時がくる……だから、俺が教えてやるよ」


 この場所は街の中で暴れてもいい所。

 過激なものは駄目だけど。冒険者ギルドがあるこの街は、血の気の多い奴がこんな場所を求めている。


 そして、その中にもちろん。


「おっしゃー! お前のその言葉……後悔させてやるぜ!」


 私も剣を取り出して、相手の男に急接近する。

 相手の剣は至って普通の剣。特別なものでは無くて、何処の武具屋でも買える物。

 それに比べて私は自分の力に見合った剣。

 才能のある私が作って貰った特製の逸品らしい。

 接近する私とは対照的に相手の男は全く動かない。


 待っているのか? それとも余裕なのか?

 ちぃ! そんなに私を舐めているならそれでいいさ。私は直進で相手に向かって行く。

 剣を振り上げながら、強烈な攻撃を叩き込む。

 しかし、相手は私の攻撃を剣で逸らす。

 は、はぁ!? 私は驚愕する。今までは、どいつも簡単に倒せたのに。でも、これで終わりじゃねえぞ。地面を踏み込んで、すぐに方向転換をする。

 しゃがみ込んだ状態から、一気に剣を払う。


 縦が駄目なら横だ! 正面から剣で流した。

 でも、この私の速度と威力ならどうしようもない。

 だけど、この一瞬。間髪入れずに相手に攻撃をしたはずなのに。


「遅い、そして甘いな」


 逸らされた。だけど、隙はあった。

 それでも、こいつは私の攻撃に追いついて防いだ。

 剣を右から左に持ち替えて、とても器用に。

 驚く暇も無く。

 カンッ! と私の両手から剣が離れていった。

 これは、相手の男が私の剣を上空に弾き飛ばしたからだ。かなり強く持っていたつもりだった。

 だけど、男の力はとても強かった。


 武器を失った私。相手の男は私の顔付近に剣を突き出してきた。


「……俺の名前はヤミイチ、一応は武具屋の店主をやっている! お前の名前は?」

「そ、そんな……私がこんなに簡単に?」

「驚いたか? これでも俺は元はアレースレン王国に居た戦士だった……その中でもトップを争った程の実力はあったと思っている」


 ヤミイチ……男はそう言って剣を私の前から遠ざける。くっそ……まさか、こんなに実力が違うとは。

 所詮は小さな世界で一番だっただけ。

 私の知らない場所で強い奴はゴロゴロ居た。それだけの事だ。でも、この男の瞳はとても寂しそうだ。

 力は圧倒しているのに。これだけの実力を持っているのに、何が不満なんだ? すると、こいつは私に何かを伝えようとしてくる。


「……別に言いたくなければそれでいい! だけど、俺のように力はあっても大切な人を守れず失う事もある……死ぬのはもちろんだが、何らかの形で失うのは、この先色々な経験をすればお前の番にもなる」

「ぐ……じゃあ、どうすればいいんだよ? そういう時に! お前の言う通り、私は馬鹿だ! だから……難しい事は分からない」


 そうだ。

 分からないのもあるし、分かりたくもない。

 ずっと、気楽に生きていきたい。

 でも、夢を追い求めるのは辞めたくない。

 私は冒険者になって家族や村の為に。そういう目的もあるけど、私自身の目標は……。


「サーニャ、これが私の名前だ」

「……いきなり名前を言ったな」

「お前が名乗ったから私も名乗ったそれだけだ!」

「……ふ! まぁいい、これから用があったら俺の武具屋に来い! 暇があったら俺が鍛えてやるさ」


 これが私とヤミイチの出会いだった。

 そこから、ソルトと出会って様々な人にお世話になった。剣や戦い方を教えて貰った。ソルトは一緒に息抜きで遊んだり、相談に乗って貰った。

 今の私があるのはみんなのおかげ。


「大した事はないか……でも、それは戦いの中で一番危険な考え方だ」

「でも、トウヤの言い分は分かるわ! 油断しては駄目だと思う」

「セルラルか、俺はあまり知らねえな……誰かここに行った事のある奴は居ないのか?」


 カゲノとサキはトウヤの意見に賛成している。

 そして、カゲノの質問に私は動揺する。

 駄目だ。もう、ここで明かすしかない。

 私にこういう話し合いは向いて居ない。

 エドワードが居れば、みんながいれば……。


「す、すみません! 僕に提案があるんですけど!」


 こ、コルニー!? こいつは体を震わせている私とは対照的に。とても、自信のある目でトウヤの方を見ていた。この、コルニーの提案。それは、私にとってとても都合の良いものだった。

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