第43話 再会

 女の子の言葉を聞いて詩織は思った。


(この子、ホミンじゃないかしら)


「だ、大丈夫……です……打っていません」


 杏奈はそう言いながらも混乱していた。ついさっきまでジンと一緒で、胸を締め付ける痛みも、泊っていいと言ってくれた時の喜びも、リアルに覚えていた。


(あれは夢だったの? もう会えないの?)


 現実の苦さと会えない切なさが杏奈の心をいっぱいにした。身体は大丈夫。でも、心は大丈夫ではなかった。


 杏奈はこれまで、長い夢を見ることがよくあったが、それを大幅に上回る長さで、とてもリアルだった。そして、それは、終わってしまった。


「あ……」


 涙がぽろぽろこぼれ落ちた。その時、詩織がたずねた。


「間違ってたらごめんね。あなた、ホミンなの?」

「なぜそれを?」

「ホミンなの? わあ! すごいご縁ね!」


 杏奈は詩織の顔をじっと見た。上品なおばさん。どこかでお会いしたのだろうか?


「私はユンシク。この名前を名乗るのはうん十年ぶりだけど」

「どういう事ですか? ユンシク師匠は僕の2歳上です」


 詩織はどう見ても、母親と同じ世代にしか見えない。


「そう。たしかに向こうの世界ではそうだった。私は18歳の時に向こうへ行って、3年たってこっちへ帰ってきたの。それからもう三十数年たっているのよ」


 杏奈は詩織の顔をじっと見た。


「あ、ユンシク師匠だ……」


 面影が残っていた。


「師匠と僕の違う時間がむこうの世界でつながっていたんですね」


 救急車の音が聞こえる。思ったより早い到着だ。


「師匠、いやですよ、救急車なんか」

「だめ。気を失ったんだから、おとなしく乗って。ついて行ってあげるから」

「ええ~、こんなにピンピンでどこも痛くないのに」


 杏奈は詩織につきそわれて、しぶしぶ救急車に歩いて乗った。聞きたいことはお互い山ほどあったが、救急車の中では我慢して静かにしていた。病院について杏奈は診察を受けたが、特に異常はないので、医者はもう帰っていいと言ってくれた。


「よかったね。なんでもなくて。びっくりしたね」

「はい。なぜ気を失ったのか、本当に不思議です。それより、師匠に聞きたいことがたくさんあります」

「私も話したいことがたくさんあるけど、今日は今から約束があるの。もし、体が平気だったら、明日、会えないかな?」

「はい! 全然平気です! 明日お会いしたいです! 2コマ目があいてます」

「大学生なのね。じゃあ、その時間に大学の近くに行くわ。何時? どこの大学?」

「10時半に終わります。京南けいなん大学です」

「じゃあ、10時半に大学まで行くから、どこかでお茶でも飲みながら話しましょう。体調第一だから、辛かったら、電話でもいいのよ。遠慮せずに言ってね。ところで、大学の近くに観光名所はある? 朝の時間を利用して見学したいんだけど」

「京都御所が近いです。最近は予約なしで見学できますよ」

「ほんと? 予約がいると思ってあきらめてた! うれしい! じゃあ、朝から御所を見学するね。ついたら連絡する。電話番号とアドレス教えてくれる?」

「はい!」


 二人はスマートフォンを操作し、お互いの連絡先を登録した。


「私、ツイッターで、みかんっていうアカウントでつぶやいています。師匠もやってますか?」

「みかんちゃん? 私、フォローしてるよ! あの、ジンのファンのみかんちゃんでしょ?!」

「そうです!」

「私はユリよ!」

「ええ?! ユリさん! あの、パク・シユンが大好きなユリさん?」

「そう! それ! 」

「うそ! すごい偶然!」

「驚いたわ! じゃあ、あなたはあのドラマでジンのファンになった後で向こうへ行ったのね」


 もっと話したかったが、詩織には時間がなかった。


「ごめん、もう、時間ギリギリだから、ここで失礼するね! お大事にね!」

「はい! では、明日、楽しみにしています!」


 二人は興奮冷めやらぬままそれぞれ帰途についた。






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