第77話 氷姫のお話
次の日は朝からコムンゴの自主練をした。早く曲を弾きたくて、自由に指が動くようにベースギターでやっていたような基礎練習をコムンゴ用に自分で考えて、一日中やっていた。この音を聞きつけて
その次の日も基礎練習をして待ったが、一日は虚しく過ぎていった。朝から夕方まで音階だけの練習をして、飽きたら「ソファ」で休憩して、また音階練習をしてを繰り返していた。
「ポンスン、
「特にお仕事もないそうなので、気が向いたところに出かけておられるようですよ」
それなら、毎日ここへ来てもらうためには毎日会いたいように仕向けるしかないということだ。どう考えても、愛想笑いのできない私には不利だ。
「あ、そうだ」
アラビアンナイトで、シェヘラザードは王に殺されないために毎日お話を作って聞かせ、「続きはまた明日」と言って生かし続けられた。私も「続きはまた明日」で、毎日陽明君様に来ていただけばいいのだ。想像する時間は腐るほどある。ポンスンに紙と筆を用意させて思いついたことを書きとめた。
4日目、陽明君様がやっと来てくださった。
「姫、コムンゴを教えに来たよ」
「ありがとうございます。お待ちしておりました」
私はこんなことを言うキャラではないのだが、言わずにはいられないほど陽明君様を待っていた。
「曲を弾きたいのですが、教えていただけませんか?」
陽明君様がお手本で弾いてくださった。私は耳がいいことだけは自慢できる。バンドでは楽譜は使わず耳で聴きとってコピーしているので、陽明君様の演奏を聴きとって弾いた。
「そなた、すごいなあ」
またほめてくださった。
「笑ったね」
私が笑っただけで、そんなに言われるほどの事なのだろうか。自分ではわからない。
その日は曲の半分まで聞き取ったところで陽明君様がバチを置いた。
「そろそろ終わろうか」
「陽明君様。何かご予定でもおありでしょうか? お茶だけでも飲んでいかれませんか?」
「そなたに呼び止められるとは思っていなかった。私はてっきり嫌われているのかと」
そんなに私の顔は冷たいのだろうか。
「嫌いでしたら、コムンゴを教えてくださいとは言いません」
「それではいただこう」
ポンスンがお茶とお菓子を持ってきてくれた。せっかくお茶を飲んでくださるのに、何を話していいか、何も浮かばなかった。しょうがないので、いきなり物語を語ることにした。
「陽明君様、昔あるところに鉄と石でできた国がありました」
「どうしたのだ? 昔話か?」
「あ、はい。私が作りました。聞いていただけます?」
「面白そうだね。聞こう」
「その国にはとても美しい姫がいました。しかし、姫は悪い魔女に、笑うことも泣くことも怒ることもできない魔法をかけられていました。何を話してもどんなことをしても表情を変えず、冷たい人に見えた姫は、みんなから氷姫と呼ばれていました」
「氷姫?」
「はい。民の間では、その姫の姿を見ただけで、凍ってしまうという勝手な噂まであったために、姫はお城から出なくなってしまいました……」
陽明君様がだんだん引き込まれていくのが分かった。
「……ということで、この続きはまた明日です」
「気になるなあ。今話してくれないか?」
「ダメです。また明日」
「わかった。明日来る」
次の日は午前中早いうちに陽明君様が来た。
「話の続きを聞きに来たよ」
「コムンゴが先ですよね?」
この日は、コムンゴの曲を最後まで聞き取った。
「お茶をお持ちします」
またポンスンがお茶とお菓子を用意してくれた。
「早く聞かせてくれないか」
「はい。では続きを。氷姫が城の外へ出なくなったところからでしたね。王様も王妃様も氷姫を心から愛していらっしゃいましたが、ただ一つ、心配なのは彼女の結婚のことでした。姫は自分のことが大嫌いでした。これまでも、素敵だと思う男性がいなかったわけではありませんが、自分と一生を共にするのは申し訳ないと思っていたのです。好きだと思うほど、申し訳ないという気持が強くなり、男性と会話することができなくなってしまったのです。そのうえ、姫の姿を見ると氷になってしまうという噂のせいで、縁談が全くなくなってしまいました。……この続きはまた明日」
「そんな気の毒な状態で終わるのか?」
「明日は幸せな展開なので楽しみにしていてください」
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