第76話 コムンゴを習う
「音を出してみようか?」
「カヤグムはもっと女性らしい音が出る」
今度は曲は弾かず、ただ適当にポロンポロンと指ではじいて音を出すだけだった。日本の琴に似ている。どうやら陽明君様は、コムンゴだけ弾けて、カヤグムはやったことがないようだ。
「どうだ? やってみるか?」
もしかすると、コムンゴなら、陽明君様じきじきに習うことができるかもしれない。カヤグムもきれいな音だが、怖い先生が来たら最悪だ。陽明君様がいい。こんな美しい方を毎日鑑賞できるなら、コムンゴだ。それに、音も悪くない。バイオリンよりチェロ、ギターよりベースが好きな私は、カヤグムよりコムンゴの方が好みだ。
「コムンゴを教えてください!」
「それではコムンゴの先生に来ていただこう」
「陽明君様が教えてくださいませんか?」
「私が教えるのか?」
陽明君様は有名な先生に頼むつもりだったようだが、私が熱望したので自ら教えてくださることになった。
陽明君様と私はコムンゴを挟んで向き合った。
「右手でバチを持つ。こんな感じだ」
陽明君様が持って見せてくれたあと、バチを渡された。私の持ち方はどこか違うようだ。
「何がおかしいのだろう? 正面からではわかりにくいな」
陽明君様は立ち上がり、私の右後ろに来た。
「もう少し長く持って、そう、指はこんなふうに」
陽明君様が私の右手を両手で持ち、丁寧に直してくれた。右肩の後ろに、陽明君様の美しい顔がある。近い。私の右半身はピシピシと氷が張るように硬くなっていった。緊張でうまくできなかったし、おっしゃっていることが耳に入ってこなかったので、ますます丁寧に手を添えて直されてしまった。
「じゃあ、弾いてみよう。こうやって、となりの弦で止めるように弾くんだよ」
ベン……と低い音がした。なるほど。ベースギターも指で弾く時、隣の弦で止める。
「左手は親指がここ、人差し指、中指、薬指、こんな感じで」
陽明君様は今度は私の左後ろから左手をコムンゴの弦に置いていた。今度は左半身が氷になった。
「ほら、指を置いてごらん」
陽明君様は私の指を一本ずつ弦の上に置いた。
「これはクェというのだけど、この辺を押さえるといい」
クェはベースギターのフレットと同じだ。音を出してみると、楽器を弾く喜びの方が緊張感に勝ち始めた。
「なかなか筋がいいね。バチの使い方をもう少し気を付けるといい。そなたは女人ながら、この太い弦をしっかり押さえることができるから、良い音が出るな」
ベースギターの弦も太いから、左手の指は、既に固くなっている。コムンゴの太い弦を押さえても、何ともない。こんな風にほめられたのは、いつ以来だろう。
「そなたが笑うのを初めて見た」
そう言って嬉しそうに笑う陽明君様の笑顔に、私は落ちてしまった。
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