第33話 ジンの家①

 川へ行った翌日、ホミンは商団を訪れた。特に用事があるわけではないが、ジンに会いたかったのだ。顔を見たらすぐに家に戻ろうと思っていたのに、またジンの姿はなかった。聞いてみると、今日は熱があるらしく、大行主テヘンスが家に帰らせたということだった。


(びしょ濡れで寒そうだったもんな……家に行ってみよう)


 ドラマの中ではいつも強くて乱暴なジン。熱で寝込むなんて似合わない。それがホミンの心配な気持ちを余計にあおり、商団を出ると、思わず走り出してしまった。


 ジンの家の門はホミンがこの世界に来たとき倒れていた場所だ。久しぶりにここに来た。ここから新しい人生が始まったと思うと何とも言えない気持ちになった。ホミンはその門を入り、家の扉をたたいた。


「兄貴~ホミンです~」


 小さな家だし扉は薄いから、聞こえないはずはないが、声をかけても、返事がない。


「兄貴~、入りますよ~」


 扉を開けて中に入ると、そこには布団に横たわり、寝息を立てているジンの姿が見えた。少し躊躇したが、今は緊急事態、熱を出して寝ているジンをひとりで放っておけないと思い、そっと家の中に入った。


(兄貴、かわいい寝顔)


 家の中を見回すと、男の一人暮らしの割には片付いていた。というより、物が極端に少ないと言った方がいいかもしれない。そこで目を引いたのが、ホミンこと杏奈がこの世界に来たとき持っていたピンクのバッグだった。


(このバッグ、兄貴が持っていたんだ!)


 お金もカードも携帯も、この世界では意味のないものだけど、ジンが見てしまったかもしれない。いったいどんな反応をしたのか怖かった。


(もし、僕が持ち主とわかったら、兄貴はどうするのだろう?)


 その時、ジンが目を覚ました。


「あ、兄貴すみません。勝手に家に入って。熱でお休みだと聞いて……」

「わざわざ来てくれたのか。すまないな」


 ジンが起き上がった。


「無理しないでください。お加減、どうですか?」


 ジンは少しのびをしたり、身体をひねったりして答えた。


「眠ったらずいぶん楽になったよ」


 そうはいってもいつものような勢いはない。


「僕と一緒に川に入ったせいですね。すみません!」

「何言ってるんだ、お前は元気なんだから、川のせいじゃない。ちょっと仕事が忙しかったから、俺が疲れてただけだよ」

「お水、持ってきますね」

「すまないな。ありがとう」


 ホミンは水を汲んできた。


「ああ、生き返る。くそ暑いのに熱まで出したから、カラカラだよ」

「まだ横になっていてください」

「たまにはお前に甘えるのもいいかな」


 ジンが横になった。


「兄貴、お昼まだですよね。」

「またお前の料理を食べられるのか? でも材料がなにもない」

「お米と塩があれば大丈夫! おかゆをつくってきます」

「それならあるな。楽しみだ」

「ちょっと待っててくださいね」

「お前のも作れよ」

「ありがとうございます! 兄貴」


 ホミンがおかゆを持って戻ってきたら、よほど疲れていたのか、ジンはまた眠っていた。ホミンはそばにおかゆをおいて、のぞきこんだ。


(兄貴~おかゆ、冷めちゃいますよ。暑いから、冷めたくらいがおいしいかな?)


 ホミンはあぐらをかいて頬杖をつき、ジンの顔をながめた。テレビでは寝顔なんか見られなかったから、貴重な時間だ。綺麗な男らしい眉毛、スッと通った鼻……。見れば見るほどかっこいい。でも、まつ毛はかわいい。思わずにっこり笑ってしまった。すると突然ジンの目が開いた。






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