第11話 春画、描けません!

漢陽ハニャンの華」で、ジンが初めて登場したのは、まだ商団に雇われる前のゴロツキの時代だった。手下を何人か連れて暴れまわり、鋭い目でにらむジンを一目見て、大好きになった。武道で鍛えた彼のキレのいいアクションは他の役者と比べても群を抜いてかっこいい。ただし、脇役で、登場シーンが少ないため、杏奈の周りの人は彼に注目していなかったので、どんなにそのカッコよさを語っても「わからない」と言われた。さらに、毎週登場するとは限らなかった。そんな憂さを晴らすように杏奈がツイッターでつぶやくと、仲良しの誰かが答えてくれた。


 みかん『ジンに会いたい。テスト中だから録画しておあずけにしてる』

 オウル『今週のジンは悪い意味で大活躍。歴史書にも残っている事件だね。あの商団の大行主は悪政に一枚かんでいる。ジンはそこでいいように使われているんだ』

 みかん『ああ、ジン、かわいそう』

 ユリ『さすがオウルさん、歴史に詳しい』

 オウル『朝鮮王朝時代は好きだからね』

 マカロン『今週もジンはおっさんだったよ。マカロンも受験勉強がんばる』


 たとえディスられても、杏奈はジンのことを話せるだけでうれしかった。




 ***




 翌日、ホミンは再び商団を訪れた。


「兄貴!」


 ホミンは複雑な気持ちを振り払うように、笑顔を作ってジンに駆け寄った。


「おう、ホミン、よく来たな!」


 ジンは昨日と同じく、頭を軽くポンポンしてなでてくれた。男性に触れられたことがないホミンの頬はすぐに熱くなった。加えて、今から言いにくいことを告げなければならない。ホミンは背筋を伸ばし、気合を入れてジンの目を見た。もう、セリフは決まっている。


「兄貴、申し訳ありません。正直に言います。僕、経験がないからちゃんとした春画が描けそうにありません」


 ペコリ、と勢いよく頭を下げた。


「ハハハ、そんなことだと思ったよ。ちょっとからかっただけさ。お前、正直でいいな。うん、実にかわいい奴だ。気に入った! ……それじゃあ、肖像画を描いてくれないか?」


 ホミンが顔を上げると、ジンは微笑んでいた。テレビの中の、あの悪い顔とは全く違って、しょうがないなと言わんばかりの、幼い子でも見るような笑顔だった。


「え? いいんですか? 本当に? それならお安いご用です!」


 ホミンの心は一気に軽くなり、テレビでは滅多に見ることができないジンの笑顔に見とれてしまった。


「こっち来い」


 ジンがホミンの手首をつかんで引っ張った。ホミンの鼓動が跳ねた。また顔が熱くなる。


「ほら、あいつだよ。ヘリョンの絵を描いてくれ。持ち歩ける大きさにしてほしい」


 ジンが示す先にいたのは、召使の女性だった。おそらくジンと同じくらいの年だろう。美人で、優しそうで控えめでありながら、大人の色気を感じさせる人だった。ホミンの熱は一気に冷めた。

















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