第10話 兄貴と呼ばせて
(今流行の異世界転生? 韓流ドラマの中に? まさか、自分の身に起こるなんて)
あれこれ考えて、ぼんやりしてしまった。
「おい、大丈夫か?」
ジンが心配そうにのぞき込んでいる。
「大丈夫です!」
ホミンは笑顔で答えた。
もし、転生したのが、過去でなくテレビドラマの世界だったら、歴史を変えてしまう心配はないだろう。自分でこの世界のストーリーを作るということだろうか。ホミンは前向きに考え始めた。まるでゲームを楽しむように。だって、目の前に愛するジンがいるから。二次小説を書かなくても、新しいストーリーが現実に進んでいく。
そこで、ホミンはずっと言ってみたかった言葉を……テレビで見ていた時から言ってみたかった言葉を思い切って口にした。
「あのう……兄貴って呼ばせてもらっていいですか?」
「おっ? お前、俺の弟分になりたいのか?」
「はい! なりたいです!」
「いいよ。今日からお前は俺の弟分だ。可愛がってやるから覚悟しとけ!」
そう言ってジンはホミンの頭を軽くポンポンとたたいた後、クシャクシャっとなでてくれた。
「はい! 兄貴!」
ホミンの頬は紅潮し、キラキラ輝いていた。そんなホミンの様子を見て、ユンシクの唇の端が上がった。
(ほんと、わかりやすいやつだ)
商団を後にしてしばらくするとユンシクがホミンの顔を覗き込んだ。ホミンはくりくりした目を見開いて後ずさりしている。
「お前、ジンの旦那に惚れたな?」
「え? え?」
うろたえるホミンを見てご満悦のユンシクは、人差し指の先でホミンの腕をグリグリしていた。
「お前、わかりやすいな。旦那が好きなのか? 一目惚れか? うんと年上なのに?」
「師匠! 声が大きいですよ!」
ホミンはユンシクに隠し事はしたくないと思い、正直に話した。
「はい。一目ぼれです」
そう、初めてテレビで見た時から。
「そうかそうか。お前、おじさん好きなんだな。わかるよ。俺もジョン・レノンが好きだけど、40代になってからの方がかっこいいと思ってる」
「おじさんって……たしかに兄貴はおじさんに見えるけど……」
役のために老けた感じに見えるだけで、実年齢は30歳だ。
「じゃあ、ホミン、あの商団の注文はお前に任せるよ」
ユンシクはニヤッと笑った。
またジンと会える! ホミンはガッツポーズをしてピョンピョン跳ねていた。
「お前、春画を描くって言ったけど大丈夫か?」
自分も絵を描くから、ユンシクにはそれがどういうことか、よくわかっていた。
「それが……兄貴に会いたい一心で、あまり深く考えていませんでした!」
「経験なんかないんだろ?」
「あるわけないじゃないですか! 生まれて18年、彼氏がいたことすらありません!」
ホミンは手を振って全力で否定した。ユンシクは大げさに腕を組み、悪魔的な笑みを浮かべてホミンの前を行ったり来たりしながら言った。
「どうするかな? 真珠楼の姐さんたちにお願いして、交わるところを見せてもらうか?」
「えーっ! 恥ずかしいです! 無理無理!」
「じゃあ、想像で描くか」
「それはもっと難しいかと……」
「ジンの旦那のところに行って、描けませんって正直に謝った方がいいんじゃないか? 会うという目的は果たせるわけだし」
「ああ〜なんだか言いにくいなあ……」
「まあ、自分の行動には責任を持たないとな」
ホミンはそれから、ジンになんといえばいいのか、ああでもない、こうでもないと考えていた。
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