第21話 骨折

 その夜、ホミンは帯飾りを持って、庭に座っていた。丸い月が綺麗だ。夜空を見上げることがなかったから初めて気が付いたが、ここは降ってきそうなほどの星が見える。でも、その美しさすら、胸の痛みを強くした。


「僕は男だ……」


 この帯飾りはジンからの初めてのプレゼント。本当ならうれしいはずなのに胸が苦しいのだ。


(『これで好きな女をモノにして、早く春画を描けるようになれ』なんて言われても……)


 ジンのそばにいられるだけで夢のようなことなのに、つい欲を出してしまう。見上げると、月が青白く光っていた。満月にはまだ少し足りない丸い月だった。


「おい、ホミン、どこにいるんだ?」


 家の中からユンシクがホミンを探している声が聞こえる。しかし、答える気力もなく、ホミンはぼおっと月を見上げていた。


「ホミン、いるのか?」


 ユンシクが中庭を見ると、抜け殻のようにぼんやりしているホミンがいた。


「おい、何かあったのか?」


 ホミンの視線はずっと一点を見ていた。


「おい、ホミン、一体何が……?」


 中庭に出ようとした時、ついホミンの視線の先に目をやってしまった。そこには十三夜の月があった。


「わああ!!!」


 ユンシクは、縁側から落ちてしまった。


「痛っ……しまった……。ここまで気をつけていたのに月を見てしまった! 痛ぁ」

「大丈夫ですか? 師匠!」

「腕が痛む……」


 しばらく様子を見たが痛みは尋常ではなかった。ユンシクが顔をしかめながら言った。


「すまないが、医女のシアンを呼んできてくれ」

「わかりました」


 医女のシアンはユンシクが女性であることを知っている数少ない一人だ。この世界に来た時に最初にユンシクを助けてくれた人が、信用できるからと紹介してくれた医女で、以前高熱が出たときに世話になったことがあるらしい。姉のように頼りにできる人だ。


「これは……折れてますね。」


 占い師は事故で生死の境をさまようと言っていたが、このくらいで済んだのは、言うとおりにして家から出なかったおかげかもしれない。


 シアンはユンシクの左腕を固定してくれた。経験豊富な彼女の腕は確かだ。痛がるユンシクが少しでも楽になれるよう、話を聞いてくれたり、気持ちをそらせるよう面白い話をしてくれたり。この世界では、頼る人が少ないだけに、そんな心遣いがうれしかった。








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