第20話 市場で買い物

 市場は相変わらずたくさんの人でにぎわっている。そして、ホミンにとっては見ることすら辛い、飾りやかんざしが容赦なく並べられていた。ジンが足を止めたのは、この前の帯飾りの店だった。


「おい、ホミン、質問に答えてくれ。お前が恋人につけてもらうとしたら、どの飾りがいいと思う?」


 来た! やっぱり。ジンはヘリョンにプレゼントするのだろう。


「えーと……」

「単純に好き嫌いで選んでくれよ。お前は絵心があるから、趣味がいいに違いない」


まずい。このままでは落ち込んでいるのがバレそうだ。


「そうですね……これが可愛いかな」


 とっさにこの前手に取ることができなかった蝶の帯飾りを手に取った。


「そうか、これか。……すみません。これをもらえるかい?」


 ジンはその帯飾りを買った。それを見たホミンは違う物を選べばよかったと後悔した。もう永遠に自分のものにはならないばかりか、恋敵の手に渡ってしまうのだから。


 ジンはさっさと店を離れ、先に行ってしまった。ホミンは慌ててジンの背中を追いかけた。


「兄貴、待ってください!」


 おいていかれそうになって、余計に寂しさがつのった。通りを抜けて人がまばらになったころ、突然ジンが立ち止まり、ホミンの方に向き直った。怖いほど真剣な顔でホミンをにらんでいる。ごめんなさい。至らない弟分で。そんな思いで小さくなっていた。


「おい、ホミン手を出せ。」


 怖い……。手に何をされるのか。ホミンはおずおずと右手を差し出した。するとジンが勢いよくその手を取ったので、きゅっと肩をすぼめた。しかし、次の瞬間、ジンはホミンの手に帯飾りをにぎらせたのだ。ホミンが驚いて見上げると、ジンは急に笑い出した。そして、ホミンの瞳を見つめて言った。


「いい絵をありがとう。お礼にこれをやるよ。これで好きな女をモノにして、早く春画を描けるようになれ。」


 まっすぐで力強いまなざし。その目で見つめられるだけでもドキドキしたのに、手をにぎられ、そんなことまで言われてしまった。顔が燃えるように熱いし、自分でも何を考え、何を言おうとしているのか、さっぱりわからなくなっていた。そんな、うろたえるホミンをジンは面白そうにながめている。


「わ、わかりました。兄貴! 精進します!」


 やっとの思いで声をしぼり出した。何を精進するのだろう。そう、春画だ。恥ずかしい!


「ハハハ……。」


 ジンはとてもご機嫌だった。


「しかし、お前への贈り物が何もないな」

「今貰ったから大丈夫です」

「お前自身が喜ぶものだよ。……そうだ、次の休み、川へ連れて行ってやるよ。涼しくて気持ちいいぞ。」

「ほんとですか? やったー! それじゃあ、お昼は僕が作っていきます!」


 プレゼントだけでなく、デート(?)の約束までしてもらえた! ヘリョンには内緒なのだろうか? そんなの良くないと思ったが問題ないことに気づいた。


「あ、僕は男だった」


 一日中、ジン兄貴のそばにいられる。ここに来て、いや、生まれてこれまでの中で最高の幸せかもしれない。とにかく今を大切にしようと思った。






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