第19話 兄貴、完成しました!

 ついにホミンが描いているヘリョンの肖像画が完成した。


「今日で商団へ行くのも最後か。昨日のことも気になるなあ」


 ホミンは綺麗に包んだ肖像画を大切に持って、商団を訪れた。


「兄貴!」


 いつも以上に頑張って笑顔を作って駆け寄ったが、ちゃんと笑えているのか普通に見えているのかホミンにはわからない。


「おう! ホミン!」


 ジンはいつものようにポンポンと頭を撫でてくれた。

 ジンが見下ろしている。まなざしが温かい。悪いことを企む人には見えないが、ソン様と何かを裏でやっているのだ。もっとジンのことを知りたいし聞きたい。でも、こうやって会うことができて、頭を撫でてもらうのも今日が最後だ。


「兄貴、完成しました!」

「ついにできたか! よくやった、ホミン、えらいぞ!」


 ジンはホミンの肩に手を回したかと思うと、首を軽くしめ、ヘッドロックをかけてきた。


「うわ!」


 突然だったので見事に締めあげられ、顔は熱くなるし、心臓が痛いほど打っていた。しかし、その締め付けの軽さにジンの優しさを感じた。


 ジンの顔はホミンの顔のすぐ近くにある。挨拶代りのヘッドロック……。ドラマの中でジンは弟分のインスに、いつも出会い頭にヘッドロックをかけていた。可愛がってもらっている、ということなのだろうか。そう思うとちょっとうれしかった。


「いたた! 兄貴! 外してくださいよ〜!」


 ホミンは痛くなかったけれど、わざと痛がって見せた。やっとヘッドロックが外れたので、きれいに包んで大切に持ってきた絵を差し出した。


「おっ。ついに完成か!」


 ジンは何とも言えない笑顔でそれを受け取り、ホミンを事務所として使っている建物の中へ案内してくれた。


 彼は部屋の中心にあるテーブルの上にそっと絵を置いて、丁寧に包みを開き始めた。その様子が、まるで文化財か、高級品を扱うような丁寧さだったのがホミンにはうれしかった。包みから絵が姿を現した時、ジンの表情がぱあっと開くのが分かった。


「お、なかなかいい出来だな! 実物以上に綺麗に描けている。ありがとう。きっとヘリョンが喜ぶよ。」


 ホミンの胸がズキンと痛んだ。たった今まで浮かれていたホミンの胸の中に、闇が広がった。その闇の底に、どんよりとした重い塊が沈んでいくような、なんとも言えない気持ちになった。やはり、この絵はヘリョンへの贈り物だ。同僚の男に送る物であってくれればと、どんなに願っただろう。あんな素敵な女性と同じ土俵に上がろうと思った事自体が、間違っていた気がして自分が滑稽に見えてきた。


「おい、ホミン、聞いているか?」

「あ、は、はい」

「悪いが、今から市場へ付き合ってくれないか?」

「今から、ですか? 絵は……?」

「後で、俺から直接渡すから」


 ああ、やっぱり。きちんと時間と場所を作って渡すのだ。市場で何か買って添えるのだろうか? どんな顔をしてついて行けばいいのか。ホミンはジンと一緒にいることがつらくなってきたが、ジンはホミンの手首をつかみ、引っ張った。


「あ、兄貴!」


 今の気持ちを知られたくなかったが、その力に抗えず、手を引かれるままついて行くしかなかった。






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