第18話 十三夜月にご用心

 居間ではユンシクと老人が、卓を挟んで座っていた。


「お嬢さん」

「は? 爺さん、何を? お嬢さんではありません」

「隠さんでええよ。女じゃろう? わしはこう見えても王様に一目置かれた占い師じゃ。心配するな」

「本当に? 本当に王様の占い師か?」

「そうじゃ。ソン・ジシュク様に聞けばわかる」

「なんで、そんなお偉い占い師が俺の占いを?」

「ソン・ジシュク様と外を歩いておる時にお嬢さんを見かけたんじゃ。知り合いだと聞いたから、見えた未来が気になってソン・ジシュク様に話したら、是非言ってあげてほしいと言うものじゃから」

「その、お嬢さんはやめてください。誰にも知られたくないんです」

「承知した。すまんかったな。じゃあ、ユンシクさん、あまり気にしすぎず、気にしてほしいんじゃけど」

「難しいこと言いますね」

「あんたのためよ」

「はあ……」

「満月の夜、いつもあんたはうれしくてソワソワするじゃろ?」

「あ……なぜそんなことを? 誰かに聞いたんですか?」

「わし、わかるけえ。わしにはあんたの未来も見えるんよ。それで、大事に至らんように注意しに来たんよ」

「怖い話は聞きたくないです」

「大丈夫。わしの言う通りにすりゃあええ。ソン様がそれを望んどるんじゃ」

「じゃあ、ソン様を信じて聞きましょうか」

「あんたは十三夜月の夜、いつものようにそわそわしてはならん。さもないと大けがをして生死の境をさまようことになる」

「なんて怖いことを言うんですか! でたらめを言うな!」

「わしは何でも知っとる。あんたは『月光夜曲』というタイトルの小説を書いとるじゃろ? モデルはあんたじゃろ?」

「こっそり見たんですか? 誰にも言ってないのに!」

「わしは王様の占い師なんじゃ。ソン・ジシュク様を信じろ。ただ者ではないと早く認めんかい。」


 ユンシクの顔が青ざめた。聞かない方が幸せだったかもしれない。


「わしの予言ではあんたは、十三夜月を見ながら歩いとって、つまずいて転んだところに早馬が来て巻き込まれる」

「なんだって? かっこ悪い」

「だから、その日の夜は外に出んかったらええ。事故を避ければええんよ。計算すると、その日が今度の十三夜月じゃわ」

「本当に当たるのか?」

「わし、王様の占いをして食っとるんよ。当たるに決まっとる。とにかくその日は家にこもりんさい。月を見上げるのはやめた方がええよ」

「わかったよ。言うとおりにする」

「くれぐれも月を見上げたりボーッとするなよ」

「くどいなあ。わかったよ」


(ソン様、親切のつもりだろうけど、とんだジジイを連れて来たもんだ)


 そう言いながらも、ユンシクはその占い師の言葉に忠実に従うのだった。






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