月光夜曲〜ムーンライトセレナーデ

第17話 秘密の部屋

「あれ？　おかしいなあ」

　空っぽの部屋の中を見回すと、全てのものが整然としていて人がいた気配がなかった。そして、ほんの少し違和感を感じた。背の低い箪笥の取っ手が少しだけ曲がってついているのだ。ホミンは部屋の中に入り、箪笥の扉を開けてみたが、特に変わったところはない。しかし、この展開、小説やドラマなら、隠し扉があるのが常だ。一度扉を閉じて取っ手を回してみた。重い。そして、何かを動かしている感覚が手に伝わってきた。取っ手が12時の方向を向いた時、中から音がした。

　ゴトン。

　扉を開けてみると、物入れの背の部分に、人がやっと通れるほどの穴が開いていた。

「当たり～！」

　ホミンが穴に潜り込むと、反対側は広い空間で、地下につながる階段があった。念のため静かに降りていくと、部屋の入り口らしい扉があり、中からソン・ジシュクの声が聞こえてきた。

「占い師によると、それがここに書いてある、この者たちだ。裏を取ってほしい。それが今回の任務だ」

「承知いたしました」

（え？　ソン・ジシュク様と、この声は、あ、兄貴？）

　ソン・ジシュクに答えたのはジンの声だった。いったいどこから入ったのだろう？　そして、二人はどんな関係だろう？　ホミンは馬がいなくなったことも忘れてしまうほど、動揺していた。

「ではこれで」

（兄貴が出てくる！）

　ここにいてはまずい。来るなと言われているのに、ここまで来て、知ってはいけないものを知ってしまったようだ。ホミンは慌てて階段を上がった。やっと上り切ったと思った瞬間、地下の部屋の扉が開いた。

「ホミン！　なぜそこにいる？」

　ソン・ジシュクに見つかってしまった。

「ごめんなさい！　あの、馬が逃げてしまってどこにもいないんです！　お知らせしようと思って……」

　彼は階段を上り、あっという間にホミンのそばまで来た。

「ああ、馬……。心配はいらない」

「でも……」

「ユンソンが乗って行ったのだ」

　そんなことを言っても護衛のユンソンは外に出ていない。ホミンは謎だらけのこの展開に、ついていけなかった。

「この部屋については秘密にしてもらえるかい？　知ってしまったそなたは事が公になった時に関係者となってしまう。だから、知らないままのほうがいいと思ったのだが、知ってしまっては仕方ないな」

「何をなさっているんですか？　師匠は知っているのですか？」

「ユンシクは真面目な子だからね。ここへ近づかない。いつもはユンソンが見張っているんだが、今日は急用で外に出てしまったから、こんなことになってしまったね。ああ、どこから出たのかって顔をしているね。向こう側にも入り口があるから、そっちから出て行ったのだ。そなたには申し訳ないが、知ってしまった以上、ある程度の覚悟はしておけよ」

　そう言ってソン・ジシュクは面白そうに笑った。

「ジン兄貴は？　まだ中に？」

「ユンソンが出たもう一つの出口から帰ったはずだ。来るときもそっちから来たから」

　秘密の地下通路？　覚悟？　いったい何を企んでいるのだろう？

「これ以上は聞かないでほしい。ユンシクにも言わないでくれよ」

「そんな……」

「黙っていてくれたら、このまま安全にここで暮らせることを保証するよ」

　それを言われると弱い。仕方ない。

「わかりました。黙っています」

（優しいジン兄貴が絡んでいるのだから、心配はないと信じたい）

　しかしながら、ユンシクに黙っているのが心苦しかった。