第16話 謎の占い師

「ああ、そうだ。きちんと紹介しよう。ユンシク、この者は、有名な占い師なのだが、実はこの者が、そなたと私が親しいと知って、どうしても占いたいと言ってきかぬのだ。よく当たるから、これからのことを占ってもらうといい」

「面白そうですね。占いは大好きです」


 すると、占い師が目を細めて言った。


「ワシの占いはその辺の巫女とはちがうで」

「あ、はい。よろしくお願いします。あちらでお願いできますか?」

「任せんさい」


 2人は部屋を出ようとしたが、ソン・ジシュクはその場にとどまった。


「私はもう少しホミンの絵を見てから、帳簿を見せてもらうよ」


 ユンシクは彼に一礼した後、占い師の老人を居間へと案内した。




 ホミンの仕事部屋にはホミンとソン・ジシュクが残された。ホミンの顔をちらりと見たソン・ジシュクは言いにくそうに口を開いた。


「そなた……」

「はい、何でございますか?」

「さ、先ほどの絵に色を付けて完成させてくれないか?」


 ソン・ジシュクの様子が明らかにおかしい。顔が赤いし、あんなに自信満々でしゃべっていたのに、口ごもっている。


 ホミンはピンときた。この人はユンシクのことが好きなのだ。つまり、男色ということになる。この時代ではきっと、誰も認めてくれないし、BLという分野もないから、尊いと喜ぶ腐女子もいない。知られることを恐れているに違いない。


「承知しました」


ホミンはできるだけ自然にふるまおうと努力した。


「お任せください。このことは決して師匠にも誰にも言いませんから」


 男色のソン・ジシュクが気の毒でならなかった。残念ながら、ユンシクは女だ。ホミンの胸がキュンと痛んだ。せめて、美しい姿絵をプレゼントしようと思った。


「ありがとう! ホミンよ。素晴らしい絵を描いてくれた上にその気遣い。少し気が楽になったよ。では、私は奥の部屋に行って帳簿を見るので、出てくるまでは絶対に来ないように」


 彼の目はまた線になり、弧を描いていた。そして慣れた様子でお供の男と一緒に奥の部屋に入ってしまった。


 一人残されたホミンは、ユンシクの占いを聞くのも悪いと思ってしばらく仕事場にいたが、何となく落ち着かないので庭に出た。すると、つないであったはずの馬がいなくなっていた。


「大変だ!」


 ホミンはあたりを一回りして探してみたが、どこにも見当たらない。


(知らせなきゃ!)


 ホミンは奥の部屋に走って行った。


「ソン様! ソン・ジシュク様!」


 部屋の外から呼んでも返事がない。そんなに広い家ではないので、この部屋から出ていないことはわかる。何かあったのだろうか。思い切って戸を開けてみた。


「失礼します」


 部屋の中は空だった。






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