第22話 代役に
「薬剤を後で誰かに届けさせましょう」
そう言った後、シアンがホミンを見ながら聞いた。
「こちらは? はじめてお目にかかりましたのに、ごあいさつがまだでしたね。はじめまして。コ・シアンと申します」
「あ、はじめまして。こちらこそ、ご挨拶もせず失礼いたしました。ホミンと申します」
「シアン、こいつは新しい同居人だよ」
「それはよかったです。支えあって生きていくことがどれほど心強いか。いままで、ユンシクさんのことは気になっていたのですが、これで安心できそうです」
コ・シアンは微笑んでから扉を開け、帰っていった。
「すみません、師匠! 僕が心配をかけるから、こんなことに……。」
「いや、これは俺の不注意だよ。お前は何も悪くない」
「でも……」
「気にするな。そんな顔をされる方がよっぽど辛い。お前は笑っていてくれるだけで、元気になれるんだ。頼む。いつものように笑ってくれ」
「笑います!」
そう言って、ホミンが変顔で、不自然なにっこり顔を作ったので、ユンシクが吹き出してしまった。ユンシクのこんな笑い顔を見るのは初めてなので、ホミンもうれしくなって一緒に笑った。
「しかし、いつも笑っているお前が落ち込むなんて、何かあったのか?」
「はい……」
ホミンは今日あったこと、今の気持ちを、ユンシクに正直に話した。
「そうか。人生の一番いい時に、こんなかっこう、嫌だよな。たまにはかわいい服を着たいだろう?」
「はい。師匠。家の中でもいいから、ちょっとだけ女の子の衣装を着たり、お化粧が出来たらいいのになって思います」
「そうだよな。わかるよ」
ユンシクは少し考えて口を開いた。
「実はお前に話していなかったことがあるんだ。俺、この前の満月の夜、翌朝帰ってきただろう?」
「はい」
「実はあの日、真珠楼にいたんだ」
「え? え? 師匠、もしかして、僕を養うためにお客を取って……?」
「ハハハ……。違うよ。実は、満月の夜だけ、ある方のためにコムンゴ(朝鮮の伝統楽器で音の低い琴)を演奏しているんだ。その日はきれいに着飾って、女性として演奏している」
「ええーっ? いいなあ」
「言わなかったのはその方がお忍びで来られるので、大っぴらにできないからだ。だから、これは秘密だよ? 異国の珍しい音楽をお好みだから、俺が演奏する現代の音楽を聞きたいとおっしゃるんだ。事情があってご自宅にはうかがえないから、満月の夜だけ、真珠楼で演奏しているんだよ。実は、その日が明後日なんだ。腕がこんなことになったから、お休みしようかと思っていたところだが、お前、代わりに何かできないか? 音楽はできるか?」
「歌なら歌えます! カラオケ、得意です!」
「そうか、では、現代の日本の歌を歌ってくれるか? あの方は珍しい歌を好まれる。」
「わかりました。まかせてください! アカペラでも大丈夫な歌、練習します!」
「満月は明後日だ。きれいに着飾れ。」
「やったー! 帯飾りをつけられる!」
ホミンはガッツポーズをしてピョンピョン飛び跳ねていた。
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