第30話 川遊び②

 話すことが楽しすぎて、気が付くと、目的の場所についていた。沢に降りるととても涼しくて、心地いい音を立てて流れる沢の水は底が見えるほど澄んでいた。


「兄貴、ここ、最高ですね!」

「岩は滑りやすいから気をつけろ」

「はい!」


 ここは岩盤の国と言われるだけあり、山全体が岩でできているように見える。川自体、大きな岩に水が流れているような、見たこともない地形だった。


「きゃあっ!」

「おっと!」


 ホミンが足をすべらせると同時にジンが持っていた釣竿が飛んで行った。後ろにこけそうになったところを、あやうくジンの腕が救ったのだ。ジンの腕はホミンの腰を、がっしりと支えていた。


(どうしよう! 顔が近い!)


 ホミンは驚きと恥ずかしさで、動けなくなっていた。


「おまえ、注意した端から期待通りだな。ハハハ……」


 ジンは何事もなかったように、ホミンをぐいっと起こし、釣竿を拾った。


(やっぱり男の人の腕って力強い……)


 ホミンは熱くなっている顔を見られたくなくて反対側を向いてしまった。


「おい、おまえ、黙るなよ。怒らせたんなら、謝るよ。からかってすまなかった」

「違うんです! ごめんなさい。ちょっとびっくりしただけ……」


 ホミンはまともにジンの顔を見ることができず、うつむいていた。


「行くぞ!」


 ジンは容赦なく歩き始めた。しばらく歩くと、川べりにちょうどいい感じで岩が平らな場所があった。ジンはさっさと荷物を置いてそこに座り、振り返った。


「ここに座れ」


 自分の隣をポンとたたいた。ホミンが言われた通りにジンの横に座るのを見届けると、ジンは持ってきた釣竿で釣りを始めた。


「兄貴、釣れるんですか?」


 言葉でドキドキをごまかしながら、ジンの横に座った。


「運次第だな。ハハハ」


 ジンは釣りにはあまり慣れていないようだった。ホミンが自分の荷物を出した。


「お前、何始めるんだ?」

「風景を描こうと思って」


 紙や筆を取り出し、スケッチを始めた。


「やっぱり、本物を見て描くといいですね」


 そう言ってさらさらと描く様子をジンはじっと眺めていた。


「おまえ、やっぱりうまいなあ」

「兄貴も描いてみますか?」

「お前が描くのを見ていたら、なんだか描けそうな気がしてきた! おい、お前、肖像画を描いてやる。そこに座れ」

「僕をですか?」

「ヘリョンより、綺麗に描いてやる」


(え? きれいに? きれいにって言った?)


「おまえ、男のくせに、顔立ちがきれいだもんなあ。半分でも分けてほしいぜ」


(あ、そういうことか)


 ホミンは無駄にドキドキしている自分を落ち着かせるのに一生懸命だった。ジンは商団での面白い出来事を話したり、冗談を言ったりしてホミンを笑わせながら、しばらく絵を描いていたが、ついに絵は完成した。


「ほら、できたぞ! さすが、ホミン、美男子だなあ!」


 絵を見せてくれた。


「ぶふっ! あはははは……」


 ホミンは笑いをこらえられなかった。ジンはあまりに絵がへたくそすぎた。わざとかもしれないと思うくらい、笑える絵が出来上がっていた。


「そんなに、笑うか? おまえ、度胸あるなあ!」

「だって、ふふふ、あははは……」

「こいつ、覚悟しろ!」


 ジンがヘッドロックをかけてきた。痛くなかったけど、ホミンはまた痛がってみせた。


「いたた……! 勘弁してください! 助けてえー!」

「どうだ!」

「ひいー! お助けをー!」

「まいったかー! ハハハハハ……!」


 二人はひとしきり笑った。






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