第37話 捕盗庁の牢
「師匠!
「おい、そんなに興奮して、どうなった?」
「陽明君様が、
「世子様だって? なぜ、よりによって世子様なんだろう。ここだけの話だけど、医師の間では世子様は無能だという噂になっているらしい。コ・シアンは何も言っていなかったか?」
「ええ~! 世子様は無能なんですか?!」
「うん。幼いころから体が弱い方で、何度か死にかかったらしいんだけど、最近、一度危篤になって意識を取り戻してから、記憶を失って本当に何もできなくなっているらしいよ」
「そんな~! (韓流ドラマあるあるだ! 記憶喪失!) でも、もしかしたら、
「わからないけど、聡明な陽明君様がとられる手段だから、きっと大丈夫だよ。とりあえず、飯にしよう」
そう言われても、ホミンは食べ物が喉を通るような状況ではなかった。
「ホミン、食べて体力をつけておかないと、これからやることがたくさんあるはずだぞ」
「はい。頑張って食べます」
「まあ、無理してまでとは言わないが」
味が分からないままホミンは食事を飲み込むことを繰り返した。
「師匠」
「なんだ?」
「僕たちがいた時代って、本当にいいところでしたね。こんな理不尽なことは起こらない……」
「そうだね」
「あんなに恵まれていたのに、なんで不平不満ばかり言っていたんだろうって。いつも両親と喧嘩ばかりしていたけど、ご飯を作ってもらって、洗濯も掃除もしてもらって、大学まで行かせてもらって、文句どころか感謝するべきでした」
「そうだなあ。こっちじゃあ、生きられるだけで儲けものだもんな」
落ち着かない夜だった。仕事で気を紛らわそうとしても何も手につかない。何もしないと、悪いことを考えてしまうので、部屋をスケッチしていた。すると、外の扉をたたく音がした。
「夜分にすみません。ソン・ジシュク様のお使いで参りました」
扉を開けると、ソン・ジシュクといつも一緒にいるお供の男、チェ・ユンソンが立っていた。
「陽明君様より事情をうかがい、ソン・ジシュク様より、ホミンさんをお連れするようにと仰せつかりました。私と一緒に来ていただけますか」
ホミンはユンシクに笑顔を向けてから答えた。
「わかりました。行きましょう」
「ソン様のお計らいで、特別に、ジンさんとの面会をお願いしております。あまり時間がありませんので、話すことを考えておいてください」
ホミンが連れて行かれたのは、
牢屋の格子はホミンの腕より太い木で頑丈な作りだった。手前の空っぽの牢を覗くと、地面がむき出しで、こんな地べたに寝なければならないであろうジンのことを思うと胸が苦しくなった。案内されるまま奥に行くと、牢の外にしゃがんで中の者と話をしている両班らしき男がいた。その両班の男はソン・ジシュクだった。
「ソン様! いらしていたんですね」
駆け寄ると牢の中が見え、ソン・ジシュクと向き合ったジンが、背筋を伸ばして正座していた。
「ホミン、来たか。びっくりしただろう。どうやらジンは、はめられたようだ」
ソン・ジシュクの表情は決して楽観できないことを物語っていた。
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