第36話 冤罪
次の瞬間、ホミンはジンの腕をふりほどき、扉を開けて外へ走り出た。
(今日はダメだ! 師匠の許しをもらわないと!)
そして、手の届かないところまで来て振り返ると、できる限りの笑顔でこう言った。
「兄貴、また明日来ますね!」
ジンは扉のところにたたずみ、ホミンを見つめていた。
「おう! また来い!」
ジンの笑顔とその言葉に安心して、ホミンはにっこりと笑ってから歩き出した。しばらく歩いて角を曲がるとき、振り返ると、ジンは門のところまで出てこちらを見ていた。ホミンは大きく手を振ると、ジンもまた手を振ってくれた。
ホミンが角を曲がった時だ。向こうから
ジンの左右に立った二人の兵が乱暴にジンの両腕をつかんだ。
「お前がジンだな。横領の罪でお前を逮捕する」
ジンは振りほどこうとしたが、二人の兵に強い力で抑え込まれた。
「待て、なんなんだ! 俺が何をしたっていうんだ!」
「しらを切っても駄目だ! ジタバタせずに、大人しくついてこい!」
二人係で押さえられ、身動きができない。その様子に気づいて引き返してきたホミンを兵士がにらんだ瞬間、ジンが叫んだ。
「わかりました! おとなしくついて行きます」
ジンはホミンの目を鋭く見つめた。その目は来るなと語っていた。
(ここで僕が暴れても役に立たないばかりか、事を複雑にしてしまうだろう。韓流ドラマではいつだってそうだ。それに僕は未来のバッグを持っているから中身を見られたらどうなるかわからない。……そうだ。ソン様に相談してみよう! きっと何か方法があるはずだ! 兄貴、僕が無実を晴らしますから待っていてください!)
ホミンはジンの目をみつめてうなづくと、駆け出した。
***
「師匠! 大変です!」
ホミンはユンシクの袖をつかみ、ちぎれそうなほど揺さぶっていた。
「どうしたんだ、一体……」
「兄貴が、兄貴が捕盗庁に連れて行かれたんです! 助けないと!」
「なんだって? 本当なのか? 」
「この目で捕まるところを見ました! 横領だって」
「横領? 商団でのことだろうか? まずは、何が起きているか調べないといけないな」
「ソン・ジシュク様に知らせて欲しいんです!」
「ソン様? なぜソン様なんだ?」
「お二人は仲間なんです! 僕、見たんです! きっとソン様が兄貴を助けてくださいます!」
「仲間なのか? 本当に? 意外な組み合わせだなあ。……そうだとしても、困ったな。ソン様に直接連絡を取ったことがないし、たずねるなと言われているんだ」
「え? 連絡先、知らないんですか?」
「定期的にきちんと来られるから、連絡を取る必要もなかった。ソン様は、この商売は内緒でやっている事だから、俺たちからは近づいてほしくないと言われている。ご自宅がどこかもわからない」
「じゃあ、どうすれば」
「
ユンシクはすぐに手紙を書いた。
「ホミン、この手紙を医女のコ・シアンに渡して、陽明君様に渡してもらってくれ」
「わかりました! 師匠、ありがとうございます!」
ホミンは足がもつれそうになるほど、必死で走った。医女のコ・シアンに事情を話すと、すぐに陽明君の屋敷にホミンも連れて行ってくれた。
「陽明君様に新しい薬剤をお届けに参りました。処方の説明をさせて頂きたく、陽明君様にお目通りをお願いいたします」
コ・シアンがそう言うと、すぐに通してもらえた。嘘の理由を言っても王族の家に出入りを許されるとは、すごい医女なのだとあらためて思った。
部屋に通されると、そこには真珠楼で会ったイケメン、陽明君が梅の花の絵の屏風を背にして座っていた。花の絵を背景にしても様になる人だ。すぐに二人は頭を下げた。
「コ・シアンよ。突然の訪問とはどうしたのだ。その者は?」
「はい。この者はユンシク様の弟子、ホミンにございます。今日はユンシク様よりこの者がお手紙を預かってきております」
「顔を上げよ」
ホミンが頭を上げた。
「そなたは、
「はい。左様でございます。至急の御用でございます。この場でおあらためくださいませ」
ホミンは手紙を陽明君に渡した。陽明君は手紙を読むと顔色が変わった。
「すぐに
「え? 世子様?」
まさか世子様のお力を借りられるとは思わなかった。さすが世子様のお兄様だ。
(師匠、身分の高い彼氏は頼もしいです!)
「ありがとうございます。陽明君様」
コ・シアンは落ち着いた様子で礼を言っている。
陽明君が立ち上がり、ホミンに言った。
「そなたはいったん家に帰るように。道筋がついたら、すぐに呼びに参る」
「承知しました。よろしくお願いします」
ホミンは深く頭を下げて屋敷を後にし、コ・シアンと別れると走って家に帰った。
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