第70話 ユンシクとの再会

 向こうの世界で見たホミンのカバンには学生証が入っていた。生年月日のところに2000年2月6日と書いてあった。2000年だったからとても覚えやすかった。という事は、今のこの時代にいるはずだ。『KEINAN UNIVERSITY』は京都にある大学だということは調べはついている。俺は仕事のスケジュールを調整して欲しい、休暇を取って日本に行きたいとマネージャーに相談した。すると、思いもよらない話になった。


「今度、日本の映画会社が韓国と合同でドラマを作る大きなプロジェクトがあるんです。撮影は日本で長期に渡ることになりますが、いかがですか? 韓国側のキャストはオーディションで選ぶみたいですよ」

「それ! どんなドラマなんだ?」

「日本の時代劇です。朝鮮通信使が日本に行ったとき、海路は水軍が案内したそうで、それをテーマにしたものなのですが、水軍は日本人、朝鮮通信使は韓国人がやるそうです」

「一番いい役は?」

「主役の水軍の姫と恋に落ちる朝鮮通信使の男ですね」

「それだ!」


 マネージャーは、俺が日本語に熱心なので、日本の仕事も視野に入れてくれていたようだ。そのオーディションは京都で行われるらしい。願ってもないチャンスに俺は二つ返事でオーケーした。


 オーディションは12月の初めだった。ユンシクに連絡すると、会いに来ると言ってくれたので、着いた日の夕方、宿泊するホテルのティールームで待ち合わせることになった。


 俺はオーディションに向けて、日本語の先生に習う時間を増やし、積極的に会話したり、日本の映画やドラマを片っ端から見たりしていたので、日本語がかなり上達していた。


 韓国ではファンに気づかれることが増えてきたが、日本ではまだ無名だから気楽に会えそうだ。俺は早めにティールームに行き、案内されたテーブルについて待っていた。すると、約束の時間ギリギリに、大急ぎで入ってきた女性がいた。多分ユンシクだ。俺より20歳くらい年上の女性。俺は立ち上がった。ユンシクはテレビで俺を見ているから、すぐにわかったようだ。


「はじめまして! あ、はじめてじゃなかったわね」

「ユンシクさん、会えてうれしいです」


 俺がそう言ってお辞儀をすると、ユンシクは苦笑いした。


「ジンの旦那に敬語を使われたら気持ち悪いわ。昔のように、気軽に話してほしい」


 そんなことを言われても、目上の人に対しては自然に敬意を表してしまう。。


「それがあなたの望みで、失礼でないならそうします」

「ぜひ! そうしてください!」


 ついこの間まで会話していたのだから、同じように話せばいい。俺は言われたとおりに以前と同じように話すことにした。


「でも、おまえが俺に敬語を使うのも、女言葉を使うのも気持ち悪いな」

「旦那の方が目上だったし、もう30年以上女言葉だからこれは直せません」

「今はどう見てもお前の方が目上だぞ」

「私、永遠の26歳ですから」

「なんだそれ? しょうがないな」


 ユンシクは何かそわそわしていたが、とりあえず俺たちは席に着き、コーヒーを注文をした。ウエイターがテーブルを離れた途端、ユンシクが興奮した様子で話し始めた。


「もう、大変! もう、びっくり!」


 ユンシクは話したくてたまらないのを我慢してそわそわしていたようだ。


「ホミンに会ったんです!」

「見つけたのか? いつ? 本当にホミンなのか!」

「ついさっき。間違いなくホミンです! ……あれ? そういえば旦那、声が違いますね。テレビで見る時は声に違和感がなかったのに。あ、そうか、テレビは日本語吹き替えだった! ええっ! 向こうにいる時は吹き替えで聞こえていたんでしょうか?」

「吹き替えで聞こえていたのか? なるほど、それで、お互い言葉に不自由しなかったのか。それより、ホミンだ! 話を聞かせろ!」


 吹き替えも気になるが今はホミンだ。こんなに早く見つかるとは思っていなかったので、つい声が大きくなってしまった。






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