第50話 バッグの中身拝見
「失礼するよ」
誰もいないが、一応断ってバッグを開き、入っているものをひとつづつ取り出した。
まず、財布を出して開けてみると、日本のお札が何枚か入っていた。そして、カードが数枚。その中に写真入りの身分証があった。KEINAN UNIVERSITYと書いてあった。日本の大学だ。聞いたことがある。たしか京都にある大学だ。顔写真があったが、目を開けたあの子は、とてもかわいかった。漢字で書かれており、俺には読めないと思った瞬間、漢字の上にハングルの字幕が見えた。この世界では文字を読む時、なぜか字幕が見える。だから俺にも読めるのだ。
「名前はタカハシ アンナか」
本やノートが何冊か入っていた。ノートをぱらぱらとめくってみると、絵を描くのが好きなのか、そこらじゅうに絵を描いていた。ドラマ「
(こいつ、授業中に絵ばっかり描いているんだな。ハングルを勉強してるのかな)
俺はおかしくなって笑ってしまった。どんどん見ているうちに気づいた。俺がドラマで演じた「ジン」の似顔絵が一番多かった。
英語やフランス語の本を開くと、日本語で解説が書かれていた。この子は日本人だ。化粧ポーチもあったが、これは、見てはいけない気がしたので見なかった。
バッグのポケットに、携帯電話が入っていた。久しぶりに手にして、その重みとひんやりとした触感が懐かしかった。ホームボタンを押すと、なんと、待ち受け画面は、「漢陽の華」のジンをやった時の俺の写真だった。こんなところで、自分の写真を見ることになるとは。似顔絵といい、待ち受けといい、俺のファンかもしれない。
「ヤバい」
うれしかった。俺は主役でもないしアイドルでもない。年齢もこの役を演じた時は27歳で、こいつよりはずっと大人だ。そんな俺をあんな若い子が待ち受けにしてくれることが、本当にうれしかった。しかし、携帯にはロックがかけられていて、中を見ることはできなかった。モバイルバッテリーもあるから、しばらく見られるだろうが、こういうものは見ない方がいい。
どうやら、この子は普通の大学生だ。しかも、「漢陽の華」を見ていた俺のファン。こんなところにたった一人で紛れ込んで、どうやって生きていくんだ? おそらく、俺しか助けられないだろう。しかし、どこに行ったかわからない。それに、貴重品の入ったバッグを返すこともできない。とりあえず、俺がバッグを預かることにした。
それから一週間、俺はいつだって行く先々で周りを見て、あの子を探し続けた。しかし、あの子の姿はなかった。悪い奴に売られていないかと、町中の妓楼も何軒か尋ねたが、新しい子が来たという話もなかった。どこかの
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