第49話 女の子が逃げた!

 俺はしばらく女の子をあおいでやった。まつ毛が長くて唇がツンとして、かわいい顔だ。少したつと、寝息が聞こえ始めたので、俺は立ち上がり、先に外に出て食堂の仕事をしているヨンジャとインスに後を頼んだ。


「ヨンジャ、悪いが、しばらくこの子の面倒をみてやってくれないか? ちゃんと礼はするから」

「しかたないね、ちゃんとお礼はくれるんだね?」

「ああ、約束する。」

「わかったよ。約束は守っておくれよ」

「ああ、男の約束だ!」


 俺は仕事に行かなくてはいけないのだ。急いで荷物を取りに家に帰った。家に入ろうとすると、女の子が倒れていた場所のすぐそばの塀の陰に、ピンク色の合成皮革のバッグが落ちていた。


「あいつの物かな?」


 どう見てもこの時代の物ではない。ちらりと中を見てあの子の物と確信した。英語の本はあきらかにこの時代の物ではない。とにかく早く商団に行かなくてはいけないので、とりあえずバッグを家の中に置いて、仕事に必要な荷物を持って出た。



 商団につくと、大行主テヘンスが待っていた。


「ジン、遅いぞ! いったい何をやっていたのだ」

「申し訳ありません。すぐ仕事にとりかかります」


 俺は、あの子のことを誰にも言いたくなかった。現代から来たなんて言えるはずもないし、うそをつけるほど、想像力が豊かでもない。問いただされないうちにさっさとその場を離れた。


 俺が仕事の段取りをしていると、インスが大慌てでかけこんできた。


「兄貴! あの女! 逃げました!」

「なんだと? インス、探し出すんだ」

「赤の他人じゃないですか。なんでそこまで……」

「いいから探すんだ!」



 なぜ逃げたんだ? 行くあてもないだろうにどこへ行ったのだろう?


「探したのか?」

「ええ、逃げられたとき、すぐ追いかけました。見失ってからも、そこらじゅうを探しましたが、どうしても見つからなくて」


 街を知りつくしているインスに見つからないなんて、誰かに助けられたのだろうか。そうでなければ、あんなに弱った体で、身を隠せるはずがない。もしそうなら、いい人に助けられたのであってほしい。変な男につかまっていなければいいが。


「しかたない。あの子の運に任せるしかないな」


 大行主の手前、抜け出して探すこともできないので、俺は仕事にかかった。、その日は船が付いたので、積み荷の商品の受け取りや振り分けなど、一日中仕事に追われ、気付いたら日が傾いていた。それでも何とか見つけ出したいと方々探したが、日が落ちて真っ暗になってしまい、動くに動けなくなってしまった。月のない夜。街灯なんかないから、月さえも出ていなければ外を探すのはお手上げだ。俺は諦めて家に帰った。


 家に帰った俺は、さっそくあのバッグを調べた。元の世界だったら、絶対に人のバッグの中身なんか見たりしない。しかし、これは別だ。この子は、いったい何者だろう。妙にドキドキしたが、あの子のことを知りたかった。






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