第59話 川遊びはデート②
川の水は澄んでいてとても気持ちよさそうだ。やはり、この時代は、なにもかも自然のままでいい。岩場は滑りやすいからホミンの手を取りたいが、不自然だと思い、手を出すことができなかった。
「岩は滑りやすいから気を付けろ!」
「はい!」
そういった端から!
「きゃあっ!」
「おっと!」
あぶねえ!
滑ったホミンを腕で支えた。
こいつの腰、細い……やっぱり女の体だ。やばい!
俺はすぐにホミンを立たせて体を離した。
「お前、注意した端から期待通りだな。ハハハハ……」
なんとかごまかせたかな。突き放しすぎたかな? ホミンが向こうを向いて黙ってしまった。女という生き物はよくわからない。
「おい、お前黙るなよ。怒らせたんなら、謝るよ。からかってすまなかった」
「違うんです! ごめんなさい。ちょっとびっくりしただけ……」
なんだか、変な雰囲気になってしまったから、気分を変えようと思った。それから俺たちは釣りをしたり、柄にもなく絵に挑戦したりした。俺の絵は、下手すぎて笑える。絵を見た途端、ホミンが大笑いした。
この笑顔が見たかった。可愛い! 俺はホミンにヘッドロックをかけた。
「ひいー! お助けをー!」
「まいったかー! ハハハハハ……!」
ホミンは大笑いしている。大丈夫だ。こいつ、喜んでる。多分。
「飯にしようか」
ホミンが作った弁当を開いた。気合を入れて作ってくれたのがわかる。どれを見てもうまそうだった。いや、何を食べてもうまかった。ホミンは食べている俺の顔を見ていた。
「兄貴があんまりおいしそうに食べるから見とれちゃいました」
こうやって毎日一緒に飯が食えたら楽しいだろうなあ……。からかってみたくなった。ガキの頃からの悪い癖。俺は好きな子をいじめるタイプだ。
「本当にうまいよ。毎日食いてぇー! お前、ユンシクと別れて俺と暮らさないか?」
「それ、どういう意味ですか?」
「俺と結婚するか? 禁断の愛ってやつだ。ハハハ……」
俺はホミンの顔を思いきり覗き込んだ。
「えーっ?!」
うろたえている。顔が真っ赤だ。かわいいなあ。BLとか、読んでないのかな?
「冗談だよ。お前、ホントに面白いなあ」
「勘弁してくださいよ。心臓に悪いです」
勘弁してください……か。やっぱり、ただのセクハラにしか見えないかな。俺、いつか告白できるんだろうか……。
山の中とはいえ夏だ。午後は暑くなってきた。俺は川の浅いところに入ってみた。冷たくて気持ちいい。またむくむくと悪い癖が顔を出した。どんな反応をするかな?
「おお~水が冷たくて気持ちいいぞ! 泳ぐか?」
「僕は結構です。兄貴、泳いでください。ここで見ていますから」
やっぱりそうだよな。でも俺一人じゃつまんないよ。
「じゃあ、一緒に足を突っ込むだけでもどうだ?」
俺はホミンが座っているところまで行った。そういえば、ドラマのワンシーンで……。俺は濡れるのもかまわずドラマのようにひざまずいてホミンの靴を脱がせた。どうかしていたと思う。でも、そうしたかったんだ。ホミンもされるがままだった。俺は立ち上がり、両手を差し伸べた。真珠楼の、あの日と同じように。
「来い」
ホミンがまた右手だけを差し出した。目を伏せて、頬をピンク色に染めるあいつは女の色香を漂わせていた。このまま抱きしめて告白しようか。いや、もし断られたら、この先、どう付き合っていけばいい? しかし、次の瞬間、俺は反対の手も取って立ち上がらせ、ギュッと手を握って、思わず言ってしまった。また悪い癖がでた。
「お前、小さい手だなあ。こんな小さな手で女を抱けるのか?」
ホミンが慌てている。恥ずかしいんだな。可愛いな。手を放したくない。
「おまえ、本当にかわいいやつだなあ」
ホミンの顔が赤い。なんとか手を振りほどこうとしているが、俺の悪い癖がまた顔を出す。ますます強く握ってみた。
「兄貴~! 勘弁してくださいよぉ~」
その時、勢い余ってホミンが水の中にこけてしまった。やりすぎた。悪いことしたな……。
「大丈夫か?」
次の瞬間、ホミンに水をかけられた。
冷たっ! この野郎! たぶん、これ以上濡れたくないはずだ。透けて見えたら大変だから。
俺は緩やかに追いかけた。追いつきそうで追いつかない距離感。そして、わざとこけてみた。俺はびしょぬれ。そのまま泳いでみたら、思いのほか楽しかった。その後、温まった岩の上に寝転がって服を乾かすことにした。
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