第60話 発熱①

 俺たちは並んで仰向けになって寝た。隣に寝ているだけで、なんだかうれしい気持ちになる。


「この世界で二人だけになってしまったみたいだな」


 二人きり。誰もいない。今ならだれにも見られず、邪魔されず、お前と……。


「兄貴と二人なら、何も怖くないです」


 俺が一番危ないんだよ!


 俺は起き上がり、ホミンの上から覆いかぶさるように両手をついてしまった。


「本当にそう思うのか? 俺がお前に何もしないとでも思っているのか?」


 俺の欲望が……でも、こんなのはダメだ。こいつのことは大切にしたいんだ。


「お前は無防備すぎる……」


 俺は欲望を抑えるため、ホミンから離れ、後ろを向いた。しばらく日に当たっていたが、俺の服は完全には乾かなかった。しかし、日が暮れるまでに山を降りなければならない・


 俺たちは服が完全には乾かないまま山を下りた。少し寒い。何を話せばいいかわからなかったし、疲れていたので、最後まで黙ったままだった。家まで送り届けると、ホミンの方から口を開いた。


「兄貴、ありがとうございました」

「おう、楽しかったぜ。またな」


 なんだか気恥ずかしくてそのまま帰ろうと思ったが、もう一度姿を見たくて振り返った。すると、ホミンが一生懸命手を振る姿が見えた。


 今「またな」って言ったのに、もうそっちへ行きたいよ。ホミン、明日も会えるかな?


 その夜、俺はひどい寒気と頭痛に襲われた。熱があるようだ。睡眠不足、ストレス、遠出、水遊び。積もり積もれば、元気なはずの俺でも、熱が出るんだと思った。一人で横になって耐えていた。


 翌日、俺はまだ体調が悪いのに無理して商団に行ったが、俺の顔を見て尋常じゃないとわかった大行主テヘンスが家に帰らせてくれた。


 心配して家に来てくれたインスが、手ぬぐいをぬらして冷やしてくれた。おばさんにおかゆを作ってもらおうかと言ってくれたが、まったく食欲がなかったので、しばらくなにもいらないと断った。


 インスが帰った後、しばらく眠りに落ちていたようだ。目を開けると、そばにホミンが座っていた。商団で俺が休んでいることを聞いて心配して来てくれたのだ。俺はよく眠れたせいか、ずいぶん楽になっていた。熱もさっきよりは下がっていると思う。体温計がないのは不便だ。


「僕と一緒に川に入ったせいですね。すみません!」


 ホミンは責任を感じていたが、俺が疲れていただけだ。今思えば、本当に過酷な日々だった。


 ホミンが汲んで来てくれた水を飲むと生き返った。人生のうちで、うまいと思った飲み物のベストスリーに入るだろう。おかゆも作ってくれるというので、お願いすることにした。一人暮らしの俺は、誰かに何かをしてもらうことが本当にありがたかった。その相手がホミンということにも幸せを感じた。なんだか、変な感じだけど、いいもんだな。家庭を持つってこういう感じなんだろうな……。俺はそんな気持ちに浸りながら横になっていると、また眠ってしまった。


 目を開けると、すぐ目の前にホミンの顔があった。俺の顔をのぞき込んでいたらしい。


「おい、俺がいい男だからってそんなに見つめるなよ」

「ひえ! そ、そ、それは……」


 それはなんだ。言ってみろ。


「当り前じゃないですか! 兄貴は男前です!」


 慌てすぎて、体が反り返ってやがる! 顔が真っ赤だ。かわいいなあ。


「ハハハ、お前、本当にからかいがいがあるよ」


 ホミン、ごまかそうとしているな。


「あ、兄貴、おかゆ、食べましょう」


 うん、食べさせてくれ。


「食わせろ。あ~ん」


 思いきり可愛く口を開けてみた。


「兄貴! ふざけないでくださいよ。男同士でやっても……」

「男同士じゃだめなのか? 禁断の……」

「うわー!!」


 俺の悪い癖はもう止まらない。お前が可愛すぎるのがいけないんだ。


「おまえ、かわいいな」


 口に出して言ってやった。え? なんで黙るんだよ、おい、なぜだ? 困ったぞ。


「おい、怒ったのか? すまない。機嫌を直せ! お前は笑った方がいい。笑った顔が一番好きだ!」


 頼むよ、機嫌を直してくれ。ちょっとやりすぎたかな……。ホミンは複雑な顔をしていた。


「すまない。つい悪い癖で……」


 そんな調子でホミンをからかうと、本気で困るので、かわいくてしょうがなかった。


 俺は牡丹モランの話を出してみた。






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